こない、こない、こない。
赤木さんは、こなかった。

どうしたのかな。
何かあったんですか？

半ば諦めていたものの、引っ越す勇気なんて持てず、毎日期待しながらドアを開ける毎日。そして、絶望。でも、明日には来るかもしれない。来て欲しい。赤木さんに、会いたい。

赤木さんを知ってしまった今、もう、一人で眠るのは寒いんです。


＊＊＊


「舞美」
「え」

そして、悪魔のように、なんの前触れもなく、彼は私の前にまた突然姿を現した。

「きゅ、急にどうして来なくなっちゃったんですか、赤木さん。とっても、寂しかったです……」

私は、我慢できずに赤木さんの胸へ飛び込んだ。

「また会えた……」

赤木さんは、何も言わずに、私をそっと抱きしめた。

「どこ行ってたんです？」
「フフ……まあ色々とね」

ぱちっと目が合うと、赤木さんは低い声で囁いた。

「今日で、最後だ」
「ん？」
「もう、ここには来ない」
「……え」

脳天をぶん殴られたかのようなショック。
せっかく、せっかく会えたと思ったらコレ。
流石にひどくありませんか。おかしいでしょ。

「なんで、ですか？」
「来れないんだ。俺は。もう、ここには」

来ないのではなく、来れない。
私は、心を痛めながら、その微妙なニュアンスの違いに救われたような気がした。

「じゃあ、ここじゃなくて、別の場所で会いませんか」
「……それも無理だな」
「えっと、雀荘とかでも無理ですか？」
「ああ」

えっ。なんで？ どういうこと？
あ、忙しくて約束は守れるか分からないから、待ち合わせとかはしないとか、そういうこと？

「それじゃあ、街中でばったり会うのを期待するしかありませんね……」

ぼそっと言うと、赤木さんは、とっても優しい声で、

「舞美、もう、会えないんだ。」

と、告げた。