後日。
雨が激しく降る夜のこと。

私は借金を返済したものの、狭いアパートは引っ越さなかった。というのも、神域の男である、赤木さんを招いたアパートを捨てるには、少し惜しい気がしたからだ。

その判断は、正しかった。

仕事を終わらせ、アパートの部屋の前にたどり着くと、少しだけ雨に濡れた赤木さんが、そこにいた。

「えっ……！ 嘘、赤木さん……⁈」
「雨やどり。良いか？」
「そりゃ、もちろん、」

大歓迎ですけど。

慌てて鍵を開け、赤木さんを中に入れ、タオルを渡す。とは言え、すぐに雨宿りできたみたいで、そこまで濡れていなかった。

「まさか、また一文無しになっちゃったんですか」

赤木さんの濡れた髪、という最高級の大人の色気にやられてしまいそうになった私は、意識をそらすために話を振った。

「いや、そういう訳ではないんだが」
「じゃあどうして来てくれたんですか？」
「フフ……。ここの居心地が思ったより良かったんだよ」
「え、こんな所が？ 嘘だあ」
「クク、本当さ。何より、おまえみたいないい女が添い寝してくれるしな」
「えっ……、あれは、えっと」

赤木さんが私を運んだのに、そんな言い方されると、なんだか恥ずかしくなってしまう。
それに、いい女って。今いい女って言った。

「もう！ 冗談やめてくださいってば」
「フ、つれないな」

私は、それでも少しもじもじしながら、口を開いた。

「でも、赤木さん。良ければいつでも来てください……。私、待ってますから」

これが、私の精一杯の表現だった。
それを聞いた赤木さんは、私の顔を見つめていたが、「それはよかった」と煙草を吸い始めた。

「でも、東雲は怒るだろうな。大事な一人娘が俺を泊めてるなんて知ったら」

私は、確かにそうかも、と頰を緩めた。