すると、車に乗り込もうとしている「赤木しげる」と目が合った。

「なんだ、嬢ちゃん、俺を知ってるのかい」

私は、拳を握りしめながら、車に一歩一歩近づいていった。

「う、嘘。ほ、ほんとに……赤木しげる……」

黒服が、赤木しげるに話しかける。

「あの、もう時間も迫ってますので」

あ、やばい。このままじゃ、逃げられる。
そう思った私は、彼に駆け寄り、咄嗟にこう言った。

「待って！ 私も乗せてって！」

そう言うと、赤木さんは少しだけ目を見開いた。

「お知り合いですか……？」
「いや……見たことのない顔だが」
「の、乗せて！」

またもや叫ぶと、彼は笑ってから、黒服に言った。

「ま、こう言ってるし、乗せてやってくんねえか」
「は、はあ……。でも、宜しいので？」
「ククク……。嬢ちゃん、俺に言いたいことがあるってツラしてるからな」

私は、目つきを鋭くして軽く頷いてから、後部座席に乗り込んだ。
緊張もしているけれど、それよりも彼への感情が高ぶる。私は平常心を保つよう頑張った。
すぐに車は動き始める。

「行きたかった店とやらは、もう良いのかい」

赤木しげるに言われ、私は頷いた。

「この機を逃したら、もう赤木さんには会えないかもしれないから」
「ククク……そうかい」

彼は煙草を吸い始めた。

「今から一勝負あるから、お前さんの話はその後にでも聞こう」
「あ、ありがとうございます」

私は、彼が私と話してくれることに少し驚いたが、あとは口をつぐんで、目的地に到着するのを待った。