大きな柳の木の下で

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こんな真夜中にもやはり人はやってくるものだな、と舞美は考える。
扉から入ってきたのは、一風変わった雰囲気を醸し出す青年だ。
それは単に白い髪だから、というだけでなく、何かまるで——自分とはどこか違う世界の人間だとすぐに分かるような、そんな容貌をしていた。

「こんばんは、いらっしゃいませ」

それでも、客には変わりない。むしろ、舞美はこういったことに慣れていた。夜中に店を開いているのも、これが理由のひとつ。
“訳あり”な人も、そうでない人も、舞美は平等に客として扱う。そのため、堅気カタギではない人も、この料亭に度々顔を見せた。舞美はそういった人を受け入れるために、夜中も店を開いていたのだ。

彼女は連れもいないこの男を、個室の座敷には案内せず、目の前の付け台カウンターに案内した。

「いかが致しましょう」

おしぼりを出し、注文を取る。

「一番上等の酒と料理。ありますかね」
「ええ、すぐに用意します」

その男の声に妙な妖気が混ざっていて舞美は驚いたが、そんな様子はおくびにも出さず、酒を取りに行く。

一番奥に置いておいた高い酒を持ち出してきて、飲み方を尋ね、その通りにとくとくと注ぐ。

「お待たせ致しました。料理の方は少々、お時間を取らせていただきます」

その間の繋ぎとして、作り置きしておいたおつまみ各種を出す。白髪の青年は一口酒を飲み、それをつまんだ。

舞美は1人でこの料亭を経営している。若女将であり、大女将であり、料理長でもある。とは言え、こういった店では、大体作るものというのは決まっており、彼女は今日も例外なく、高級日本料理を盛り付けていった。先ほど出した酒にも合うように考えつつ、1番良い料理を出す。彼女の手先は素早く動いているものの、どこか品を感じさせた。


青年はその様子を見ながら、酒をもう一口喉に通した。なるほどここの酒は悪くない。つまみにも気が利いている。まだ未完成の料理さえ、既に輝きを放ち始めた。全てにおいてこの女将のこだわりが感じられる。一見、この店が繁盛する理由はそこにあると思える。

もちろん、それは間違いでない。が、これらは全て飾りのようなもの。青年が見ているのは、女将自身だった。この女、容姿から何から、男をもてなすために生まれ落ちたかのような魅力を持っている。客寄せどころか、女将目当てで来ている輩がほとんどなのではないか、とも思えるくらいのいい女。

ふーん……。なるほどね。

「刺盛りで御座います」
「どうも」

綺麗に盛り付けられた魚を箸で持ち上げると、きらきらと光り輝いた。
それを口に運び、その味わいを楽しむ。
文句なしに美味い。

青年は口の端をあげた。
……ますます気に入った。
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