11.所有
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「東雲」
突然のアカギの声にびくりとする。おそるおそる見ると、アカギは風呂から出てきたところらしい。
私は慌てて、寝転がっていた布団から身体を起こした。
「目、覚めたの」
「あ、うん……」
自分でも歯切れの悪いのが分かる。
和風旅館のような雰囲気のこの宿は、ほぼ間違いなく「連れ込み宿」と呼ばれる類のものだ。
男女が情事を行う場所。
私が緊張しているのは、その独特な雰囲気のせいだと思いたい。
例えば、この2人用の布団とか。
私がそわそわしているのを見て、アカギは言った。
「攫われたとでも思ってるの」
「実際、似たようなものじゃない……?」
「いいや。あんたがここに来たいって言い出したんだぜ」
「お、覚えてない」
「“帰りたくない”ってのも?」
「それは! ただ、金銭を使い切るために言ったからで——」
私は目を逸らした。
「帰りたくない」という言葉に他意が無かったと言えば、嘘になる。
アカギが私に近づいた。
「本当に? それだけ?」
「やっ、だから。その時は、酔っていて」
取り繕うと、アカギは私の隣に腰を下ろし、正面から私の顔を覗き込んで、あろうことか、私の頰に手を添えた。
驚いてアカギと目を合わせると、彼の余裕を失った瞳が、揺らいでいた。
ここまで来れば、私でも、アカギが「ソノ」気でいることに察しはつく。
アカギは私を欲してる。
今までにないほどに。
それに気がつけば、もう、転がり落ちるように、心の中で互いを求め始めた。
「東雲」
「な、に」
「オレのために、酔ってくれないの」
「え……」
「ねえ。もう一度、酔っちまいなよ。アルコールに身を任せて」
「なんで……?」
私が唾を飲み込むと、アカギは少し眉を寄せて、言った。
「理由なんて野暮ったいこと、聞くな」
その顔があまりにも美しくて、私が思わず見惚れていると、その隙にアカギは私の腰に手を回し、背中をつう、となぞってから、もう片方の手で私の手を引いた。
「あ」
自然と、私がアカギの胸元に飛び込み、そこへおさまるような形になる。
どくんと、大きく胸が高鳴った。
急に酔いが回ったような気分になり、身体は熱っぽくなる。
どうしてか、アカギから目を離せない。
「東雲」
アカギが、色気を孕んだ声で囁きかけてくる。
「……だめ?」
どうにもこうにも、その切なそうな表情を前にして、私は彼を振り切れはしなかった。
——だめじゃない。
私が言うと、アカギは私の耳をかぷりと噛んでから、憂いを帯びた声で、
「あんたには、惚れてない……」
と呟いた。
その言い方は、私が自分に言い聞かせていた時の口調と同じだった。だから、私は無性にアカギを抱きしめたくなってしまう。
「けど、あんたは——オレのもの」
オレのもの。
私をとろけさせたその言葉は、東雲を抱くのは、舞美に惚れているからではない、と言い訳をしているようにも感じられた。
11.所有 〈完〉
突然のアカギの声にびくりとする。おそるおそる見ると、アカギは風呂から出てきたところらしい。
私は慌てて、寝転がっていた布団から身体を起こした。
「目、覚めたの」
「あ、うん……」
自分でも歯切れの悪いのが分かる。
和風旅館のような雰囲気のこの宿は、ほぼ間違いなく「連れ込み宿」と呼ばれる類のものだ。
男女が情事を行う場所。
私が緊張しているのは、その独特な雰囲気のせいだと思いたい。
例えば、この2人用の布団とか。
私がそわそわしているのを見て、アカギは言った。
「攫われたとでも思ってるの」
「実際、似たようなものじゃない……?」
「いいや。あんたがここに来たいって言い出したんだぜ」
「お、覚えてない」
「“帰りたくない”ってのも?」
「それは! ただ、金銭を使い切るために言ったからで——」
私は目を逸らした。
「帰りたくない」という言葉に他意が無かったと言えば、嘘になる。
アカギが私に近づいた。
「本当に? それだけ?」
「やっ、だから。その時は、酔っていて」
取り繕うと、アカギは私の隣に腰を下ろし、正面から私の顔を覗き込んで、あろうことか、私の頰に手を添えた。
驚いてアカギと目を合わせると、彼の余裕を失った瞳が、揺らいでいた。
ここまで来れば、私でも、アカギが「ソノ」気でいることに察しはつく。
アカギは私を欲してる。
今までにないほどに。
それに気がつけば、もう、転がり落ちるように、心の中で互いを求め始めた。
「東雲」
「な、に」
「オレのために、酔ってくれないの」
「え……」
「ねえ。もう一度、酔っちまいなよ。アルコールに身を任せて」
「なんで……?」
私が唾を飲み込むと、アカギは少し眉を寄せて、言った。
「理由なんて野暮ったいこと、聞くな」
その顔があまりにも美しくて、私が思わず見惚れていると、その隙にアカギは私の腰に手を回し、背中をつう、となぞってから、もう片方の手で私の手を引いた。
「あ」
自然と、私がアカギの胸元に飛び込み、そこへおさまるような形になる。
どくんと、大きく胸が高鳴った。
急に酔いが回ったような気分になり、身体は熱っぽくなる。
どうしてか、アカギから目を離せない。
「東雲」
アカギが、色気を孕んだ声で囁きかけてくる。
「……だめ?」
どうにもこうにも、その切なそうな表情を前にして、私は彼を振り切れはしなかった。
——だめじゃない。
私が言うと、アカギは私の耳をかぷりと噛んでから、憂いを帯びた声で、
「あんたには、惚れてない……」
と呟いた。
その言い方は、私が自分に言い聞かせていた時の口調と同じだった。だから、私は無性にアカギを抱きしめたくなってしまう。
「けど、あんたは——オレのもの」
オレのもの。
私をとろけさせたその言葉は、東雲を抱くのは、舞美に惚れているからではない、と言い訳をしているようにも感じられた。
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