南郷さんは、どうやら私を心配しているようだった。

「まぁ、なんだ。帰る場所があるんだろ？」
「うーん」
「それとも、何か嫌なことがあったのか？」
「そう……なのかな」

私にも自分の気持ちが分からないので、首をかしげる。

「居候、みたいな形で、その人と同居してたんです」
「ほう」
「でも、昨夜、その人がどこかに行ってしまって……今朝、帰ってきたのを見ると、どうやら女の人に会ってきたみたい」

南郷さんは苦い顔をした。

「浮気ってやつか」

私は首を振った。

「ん？ その人は男なんだろ？」
「はい。でも、私と彼は、恋人とかいうものではなくて」
「ふむ。ただの同居人ってことか」
「うん」

私はお茶を一口飲んで、また頭をひねった。

「だから、彼が女の人の所に行ったところで、私には関係ないんですけど……。でも、なんででしょうね」
「なんでってのは？」
「なんで、私、家を飛び出しちゃったんでしょう？」

南郷さんは、私の問いかけに目をぱちくりさせた。

「舞美ちゃんは、その男のことが好きなんだろ？」
「え？」
「あれ、違うのか？」
「それは……っ」

あれ？ 違うよね？
だって、私は彼に惚れちゃいけないわけだし。

「違う、と思いますけど、」

私はうつむいた。

「もう、よく分かんないです」

南郷さんは、少しだけ微笑んだ。

「難しいよな。でも、その人も舞美ちゃんが急にいなくなったら驚くんじゃないか？」
「どうかなぁ」

アカギが慌てて私を探している様子なんて、想像できない。

「きっと、そんなに驚かないし、慌てないと思います」
「そ、そうなのか？」
「そういうのは、似合わない人だから」
「ああ、クールなやつなんだな。オレも、そういう奴を1人知ってるけど、本当に冷たいわけじゃないと思うよ」
「うん……、確かに、優しい人でもあるんですけど」

そう。アカギは温かい人間のはずなのだ。ただ、他人と馴れ合ったりしないだけで。だからこそ、私みたいな人間は不安になる。今まで、私もそうやって生きてきたはずなんだけど。どうしてかな、翻弄される側になったのは。

私は南郷さんに、アカギに対する思いを少しだけ打ち明けた。

「うーん。やっぱり、舞美ちゃんはその男に恋してると思うよ」
「恋……、そんな」

私は顔を赤くした。

「はは、悪い悪い。まぁ、じっくりと考えてみることだな」

南郷さんはにこにこと笑っていた。
私は南郷さんと色々話していた。


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しばらくすると、私の背後に誰かが立った。
そして、そいつは言った。


「何してるの、こんなところで」