訳の分からない感情に身を任せて家を飛び出してきたものの、こんなに朝早くから、何をすれば良いのか。私は途方に暮れた。

怒っているような、哀しんでいるような。そんな感情が交差する。これも全部、アカギのせい。
今更家に帰ることはできない。どんな顔をしてアカギに会えば良いのか分からない。もう、見れない。今日は諦めよう。

さて、どうしようか。
衝動的になっていたので、あまり金も持たずに出てきてしまった。種銭にもならない、最低限のお金しかない。
どこへ行こうか？
どこにでも行けるけど、どこにも行けない。
治さんのところに行くのも、なんだかおかしいし。

結局、私はその場に座り込んだ。
道の端の、石の上。
一応、私の見た目は悪くないはずだから、誰か話しかけてきてくれるでしょ。なんとなく、そんな気がした。きっと、何とかなる。


そう思っていると、案の定、ガタイの良い男の人が近づいてきた。

「えっと……どうしたんだ？ そんなところで」

人も良さそう。しめた。

「行く場所が、なくて。お金も、ないんで」

私は泣きそうな声で言った。

「そうか……。迷子か、家出かは聞かないが、とにかく、お腹が減っているんじゃないか？」
「……はい、少し」

私が答えると、その人は言った。

「じゃあ、良かったら、そこで食べてくか？」
「え、良いんですか」
「ああ。ほっとけないさ」

本当に良い人だな。この人、すぐに騙されそうだ。いや、私が騙されているのかと思えてくる。

「歩けるか？」
「はいっ」

私は立ち上がり、その男の人の後ろについた。

「そう言えば、名前、なんて言うんだ？」
「東雲舞美って言います」
「舞美ちゃんか」

この人に対して、色仕掛けはしたくない。
私はなるだけ自然に振る舞った。
ちょっと子供に見えるようにしたかもしれない。

「ご飯は、ここで大丈夫かな」
「はい！ ありがとうございます」

私は彼に続いて、食堂に入った。ありがたい。

早速食事が運ばれてきて、一息ついた頃、私は、その男の人に尋ねた。

「あの」
「ん？」
「お名前、お聞きしても？」

彼は箸を置いて、私の方を向いた。

「ああ、まだ名乗ってなかったか。オレのことは、南郷って呼んでくれ」

私は、その名を聞いて、何故か安心した。

「はい、南郷さん」