4.最終局面
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きた。来てる。大三元を狙える。いや、小三元でもいける。とにかく、赤木しげるを越せるかもしれない手。目指すは役満!
私は興奮を感じつつ、今日一の攻めを見せた。
まだ天は私を見捨ててはいなかった。
いける、このまま命を繋ぐ。
少しして、もうすぐ大三元というところまで来た。後はこの牌が通るか。
私は九筒を捨てようとしていた。
これが通るかどうかは、私の最後の不安要素だったが、これを通さなければ、私は負ける。
私はこの大三元に賭けるしかないからだ。
それに、河から見てもこれで和了るようには見えない。アカギは南を捨てている。南場でもあるし、アカギの風も南だし、私が三元牌を握っているのだから、役牌は既に無いだろう。
そして、九筒を捨てた。
「……あらら」
「え?」
まさか、当たるはずはないのだ。
九筒単騎をするような手牌ではない。
リーチもかけていないし、他の一九牌は捨てられている。
アカギにとってチャンタもない。
これじゃ役が成立しない。
何度捨て牌を見ても、既にアカギに何らかの役が出来ているようには見えなかった。
じゃあ、“あらら” って……?
「まさかロンじゃないでしょ? 下家さん、続けて良いわよ」
もうすぐ私の大三元なんだから、この流れを切らないで。
今いい所なんだから。
そう思って続行を促したが、アカギはそれを制して、言った。
「いや、それなんだ」
「は?」
「ロン」
……???
?????
なんて?
どうして? 役ないでしょ?
アカギはトン、と牌を倒した。
⑦⑧東東東南南西西西北北北 ⑨
「小四喜、役満だ」
「な、」
やくま……役満?
私が目指していた役満を、あなたが?
え、どうして?
なんで?
負け? 私の負け?
それはどう見ても役満だった。
周りの皆もあまりの手の美しさに感嘆している。
治さんが何か言っているが、私の耳には入らない。
現実を受け入れられない私は、捨て牌に目を向けた。
そしてあることに気付いた。
「でっ、でも、おかしい。だって、南を捨ててる!」
小四喜狙いなのに、何故南を捨てたのか。
後々フリテンになる恐れもあるのに。
これはおかしい。
……ってことは、イカサマ?
「フフ、もっともな疑問だね」
アカギは煙草に火をつけ、カチャカチャと牌を並べ始めた。
「元々、オレの手牌はこうだった」
私は黙ってその様子を見ている。
東東東南南南西西北北北⑦⑧ ツモ:三 →捨:南
「この時、既にこの手牌。そして三萬ツモ。普通なら三萬切りだが、オレはそうしなかった。オレがここで切ったのは南」
東東東南南西西北北北⑦⑧三 ツモ:西 →捨:三
「そしてその数巡後にツモったのが西。オレはここでようやく三萬を切り、六九筒で待ちを作った。そこに振り込んだのがあんたってわけ」
アカギは、
「ね」
と、後ろで見ていた人に同意を求めた。
「あ、あぁ。確かに、そうだった」
アカギはふう、と煙を吐く。
「なんであそこで三萬を切らなかったの?」
私は震えないように尋ねた。それが本題だ。
「言ってみればオレの気まぐれ。あんたが何か最後に仕掛けてくることは簡単に予想できる。それなのに、オレが、この役満なんかで潰すことで この勝負を終わらせたくはなかった。まだあんたとの読み合いを続けていたかった。そこで、オレはあんたとオレを試すことにしたのさ。この南を切って西が来なければ、天はあんたを生かしたんだと。西が来る前に六九筒子が来たら待ちは南・西になってフリテンになり、ロンは出来なくなる。でも、結果的に西は、オレの手の元に来た」
私は目を見開いた。
「そ、そんな滅茶苦茶な」
「まぁね。でも、それが良いんじゃない。あんたが九筒を出した時には、和了るべくして和了るように思えた。九尾と呼ばれたあんたから、九の牌で放銃されるなんてね」
私はあまりのショックに肩を落とした。
泣かないようにぐっと我慢する。
「……完敗、ね」
わざわざ最後に手加減されても、結局役満で和了られてしまう。天は初めからアカギを選んでいたんだ。
ちなみに……と、その場にいた男に私の手牌を開けられると、また驚かれた。
アカギは喉の奥で笑って、「やっぱり」なんて言ってるけど、既に私の大三元なんて、ゴミ手に見えてくる。
私は負けたんだ。私ができることは、それを受け入れることだけ。
負けた、という事実がありながら、アカギに「もっと勝負していたかった」という風に思われていたことに、爽快感を感じる。
私たちはお互い、楽しんで麻雀を打ててたんだ。
それは私にとって、せめてもの救いだった。
組長が言った。
「では、こっちの方でアカギには4000万は支払う。東雲は差額4000万に加え、4200万の返済義務を負う」
「っ!」
思い出した。そうだった。私は……!
小刻みに手が震えそうになった。いや、既に震えてたかも。
嫌だ。けど、仕方ない、私は負けたんだから……。
でも、勝負師としての最後のプライドはある。
私はもう一度アカギに向き直ると、言った。
「赤木しげる、あなたと勝負できて……良かった。本当、は、私ももっと勝負したい。でも……」
そこで口をつぐむ。その先は自分では言えなかった。
自分のこれからを思うと、泣き叫びそうだ。
しかし、それでもちゃんと最後まで言おうと、もう一度目を見て、今度は自分の精一杯の笑顔で言った。
「楽しかったです」
その時、上手く笑えていたかは分からない。
アカギはそんな私を見て、目を見開いて驚いていた。
私は興奮を感じつつ、今日一の攻めを見せた。
まだ天は私を見捨ててはいなかった。
いける、このまま命を繋ぐ。
少しして、もうすぐ大三元というところまで来た。後はこの牌が通るか。
私は九筒を捨てようとしていた。
これが通るかどうかは、私の最後の不安要素だったが、これを通さなければ、私は負ける。
私はこの大三元に賭けるしかないからだ。
それに、河から見てもこれで和了るようには見えない。アカギは南を捨てている。南場でもあるし、アカギの風も南だし、私が三元牌を握っているのだから、役牌は既に無いだろう。
そして、九筒を捨てた。
「……あらら」
「え?」
まさか、当たるはずはないのだ。
九筒単騎をするような手牌ではない。
リーチもかけていないし、他の一九牌は捨てられている。
アカギにとってチャンタもない。
これじゃ役が成立しない。
何度捨て牌を見ても、既にアカギに何らかの役が出来ているようには見えなかった。
じゃあ、“あらら” って……?
「まさかロンじゃないでしょ? 下家さん、続けて良いわよ」
もうすぐ私の大三元なんだから、この流れを切らないで。
今いい所なんだから。
そう思って続行を促したが、アカギはそれを制して、言った。
「いや、それなんだ」
「は?」
「ロン」
……???
?????
なんて?
どうして? 役ないでしょ?
アカギはトン、と牌を倒した。
⑦⑧東東東南南西西西北北北 ⑨
「小四喜、役満だ」
「な、」
やくま……役満?
私が目指していた役満を、あなたが?
え、どうして?
なんで?
負け? 私の負け?
それはどう見ても役満だった。
周りの皆もあまりの手の美しさに感嘆している。
治さんが何か言っているが、私の耳には入らない。
現実を受け入れられない私は、捨て牌に目を向けた。
そしてあることに気付いた。
「でっ、でも、おかしい。だって、南を捨ててる!」
小四喜狙いなのに、何故南を捨てたのか。
後々フリテンになる恐れもあるのに。
これはおかしい。
……ってことは、イカサマ?
「フフ、もっともな疑問だね」
アカギは煙草に火をつけ、カチャカチャと牌を並べ始めた。
「元々、オレの手牌はこうだった」
私は黙ってその様子を見ている。
東東東南南南西西北北北⑦⑧ ツモ:三 →捨:南
「この時、既にこの手牌。そして三萬ツモ。普通なら三萬切りだが、オレはそうしなかった。オレがここで切ったのは南」
東東東南南西西北北北⑦⑧三 ツモ:西 →捨:三
「そしてその数巡後にツモったのが西。オレはここでようやく三萬を切り、六九筒で待ちを作った。そこに振り込んだのがあんたってわけ」
アカギは、
「ね」
と、後ろで見ていた人に同意を求めた。
「あ、あぁ。確かに、そうだった」
アカギはふう、と煙を吐く。
「なんであそこで三萬を切らなかったの?」
私は震えないように尋ねた。それが本題だ。
「言ってみればオレの気まぐれ。あんたが何か最後に仕掛けてくることは簡単に予想できる。それなのに、オレが、この役満なんかで潰すことで この勝負を終わらせたくはなかった。まだあんたとの読み合いを続けていたかった。そこで、オレはあんたとオレを試すことにしたのさ。この南を切って西が来なければ、天はあんたを生かしたんだと。西が来る前に六九筒子が来たら待ちは南・西になってフリテンになり、ロンは出来なくなる。でも、結果的に西は、オレの手の元に来た」
私は目を見開いた。
「そ、そんな滅茶苦茶な」
「まぁね。でも、それが良いんじゃない。あんたが九筒を出した時には、和了るべくして和了るように思えた。九尾と呼ばれたあんたから、九の牌で放銃されるなんてね」
私はあまりのショックに肩を落とした。
泣かないようにぐっと我慢する。
「……完敗、ね」
わざわざ最後に手加減されても、結局役満で和了られてしまう。天は初めからアカギを選んでいたんだ。
ちなみに……と、その場にいた男に私の手牌を開けられると、また驚かれた。
アカギは喉の奥で笑って、「やっぱり」なんて言ってるけど、既に私の大三元なんて、ゴミ手に見えてくる。
私は負けたんだ。私ができることは、それを受け入れることだけ。
負けた、という事実がありながら、アカギに「もっと勝負していたかった」という風に思われていたことに、爽快感を感じる。
私たちはお互い、楽しんで麻雀を打ててたんだ。
それは私にとって、せめてもの救いだった。
組長が言った。
「では、こっちの方でアカギには4000万は支払う。東雲は差額4000万に加え、4200万の返済義務を負う」
「っ!」
思い出した。そうだった。私は……!
小刻みに手が震えそうになった。いや、既に震えてたかも。
嫌だ。けど、仕方ない、私は負けたんだから……。
でも、勝負師としての最後のプライドはある。
私はもう一度アカギに向き直ると、言った。
「赤木しげる、あなたと勝負できて……良かった。本当、は、私ももっと勝負したい。でも……」
そこで口をつぐむ。その先は自分では言えなかった。
自分のこれからを思うと、泣き叫びそうだ。
しかし、それでもちゃんと最後まで言おうと、もう一度目を見て、今度は自分の精一杯の笑顔で言った。
「楽しかったです」
その時、上手く笑えていたかは分からない。
アカギはそんな私を見て、目を見開いて驚いていた。