3.対峙
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しばらくして、私が刺身をもぐもぐしていると、
「対局相手が来ました」
と、障子の外からこそりと通達された。
どきり、と心臓が跳ねる。
これは恐怖とかじゃない。勝負への期待による興奮だ。それでいて冷静さも失わない。
私は食事を終え、後は鏡を見て自分の演出加減を確認し、咳払いをした。
うん、大丈夫。いつでもやれる。
ふと、個室に閉じ込められているような気がしたので、障子を開け、廊下に座り、満月の浮く日本庭園を眺める。風情があって良い。月見で一杯やりたいところだ。
私は煙草はあまり吸わないが、酒なら飲む。特に煙草に嫌悪感もない。かなり前に慣れた。賭けを行う場所では煙が充満していることも多く、その匂いは私に勝負そのものを感じさせる。
この匂いがすると勝負が出来る、と私の脳が勘違いしたのだろうか。いつの間にかその匂いが好きになってしまっていた。
私が物思いにふけっていると、キシ、と背後で音がした。
「準備が整いました」
「わかった」
私はゆっくり立ち上がり、後ろを付いていった。
「どうぞ」
扉が開けられる。少し息を呑んで、またゆるりと部屋に入る。さっきまで流れていたのとは全く違う空気。ああ、これだ。
大きな和室。中には組長や石川など、複数人のヤクザ者がいる。幹部とか、上の方の人達だ。そして真ん中には雀卓が用意されていた。既に点棒などの準備も万端。そう、これは私たちのために用意された最高の舞台なのだ。
後は対局相手を待つだけ。
もちろん、相手はあの赤木しげるである。
私が石川をチラリと見ると、彼は頷いた。私は全体に向け一礼した。そして組長が口を開く。
「東雲、今日はよく引き受けてくれたな。礼を言う」
「いえ。私にとっても有難いお話でしたから」
「そうか。面白い勝負を見せてくれると期待しているよ」
「ええ、頑張ります」
言った途端に、頑張る、という言葉選びは微妙だなと気付く。これは頑張るとか頑張らないとか、そういうものではないと思う。が、組長に気持ちは伝わっただろうから気にしない。
「とりあえず、アカギが来るまではそこに座って楽にしておれ」
私は頷き、座って赤木しげるを待った。
そして、障子の向こうに影が出来た。
……来た。
勢い良く扉が開けられ、風に強く吹かれるような感覚に襲われた。ああ、彼だ。
そこには、あの日会った、正真正銘本物の赤木しげるが立っていた。
「こんばんは」
私は挨拶をした。アカギは私を見下ろし、
「こんばんは」
と返した。
私を見ても驚かないところを見ると、やはり既に私を認識していたことが分かる。私は無意識に微笑んだ。
が。
私にとって予想外だったのは、その次のこと。
「え?」
そう。はっきりと、え、という声が聞こえたのだ。
私でもない組長でもない、もちろんアカギでもない声。でも、私はその声を知っている。
何か私の意図しないことが起こったのだと、そう思った。そしてそれは間違いじゃなかった。
赤木しげるの背後から現れたのは、私の存在に驚きを隠せない、治さんだった。
「対局相手が来ました」
と、障子の外からこそりと通達された。
どきり、と心臓が跳ねる。
これは恐怖とかじゃない。勝負への期待による興奮だ。それでいて冷静さも失わない。
私は食事を終え、後は鏡を見て自分の演出加減を確認し、咳払いをした。
うん、大丈夫。いつでもやれる。
ふと、個室に閉じ込められているような気がしたので、障子を開け、廊下に座り、満月の浮く日本庭園を眺める。風情があって良い。月見で一杯やりたいところだ。
私は煙草はあまり吸わないが、酒なら飲む。特に煙草に嫌悪感もない。かなり前に慣れた。賭けを行う場所では煙が充満していることも多く、その匂いは私に勝負そのものを感じさせる。
この匂いがすると勝負が出来る、と私の脳が勘違いしたのだろうか。いつの間にかその匂いが好きになってしまっていた。
私が物思いにふけっていると、キシ、と背後で音がした。
「準備が整いました」
「わかった」
私はゆっくり立ち上がり、後ろを付いていった。
「どうぞ」
扉が開けられる。少し息を呑んで、またゆるりと部屋に入る。さっきまで流れていたのとは全く違う空気。ああ、これだ。
大きな和室。中には組長や石川など、複数人のヤクザ者がいる。幹部とか、上の方の人達だ。そして真ん中には雀卓が用意されていた。既に点棒などの準備も万端。そう、これは私たちのために用意された最高の舞台なのだ。
後は対局相手を待つだけ。
もちろん、相手はあの赤木しげるである。
私が石川をチラリと見ると、彼は頷いた。私は全体に向け一礼した。そして組長が口を開く。
「東雲、今日はよく引き受けてくれたな。礼を言う」
「いえ。私にとっても有難いお話でしたから」
「そうか。面白い勝負を見せてくれると期待しているよ」
「ええ、頑張ります」
言った途端に、頑張る、という言葉選びは微妙だなと気付く。これは頑張るとか頑張らないとか、そういうものではないと思う。が、組長に気持ちは伝わっただろうから気にしない。
「とりあえず、アカギが来るまではそこに座って楽にしておれ」
私は頷き、座って赤木しげるを待った。
そして、障子の向こうに影が出来た。
……来た。
勢い良く扉が開けられ、風に強く吹かれるような感覚に襲われた。ああ、彼だ。
そこには、あの日会った、正真正銘本物の赤木しげるが立っていた。
「こんばんは」
私は挨拶をした。アカギは私を見下ろし、
「こんばんは」
と返した。
私を見ても驚かないところを見ると、やはり既に私を認識していたことが分かる。私は無意識に微笑んだ。
が。
私にとって予想外だったのは、その次のこと。
「え?」
そう。はっきりと、え、という声が聞こえたのだ。
私でもない組長でもない、もちろんアカギでもない声。でも、私はその声を知っている。
何か私の意図しないことが起こったのだと、そう思った。そしてそれは間違いじゃなかった。
赤木しげるの背後から現れたのは、私の存在に驚きを隠せない、治さんだった。