2.雀斑
名前変換はコチラから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そしてそれからの2週間も、大きく変わりはしなかった。最初こそ監視の目を意識して気張っていたものの、少しずつ慣れていく。
もちろん、最低限の注意は払っているけれど。
少しだけ、夜の行動は控えた。代わりに次の勝負のことを考える時間が増えていく。
そう言えば一回だけ、治さんと会った。
その日は、私がふと、あの喫茶店に行こうと思い立っただけだった。
玩具工場の給料は高いとは言えないので、そこで働く人々は安価な店に入りたがる。ここの店主はそういう人たちを特にターゲットにしているのだろう。工場とも近い。それでいて不味くないのだから、人気も出るはずだ。
その喫茶店の扉を開けると、カラン、と音がして、私を迎え入れる。見たところ、中には治さんはいないようだった。
別に、がっかりなんてしていない。彼にこだわっているわけではないから。
ただ昼はどうしても暇なので、話し相手がいても良いな、とは思った。だって、私の好きなことは賭博だけだから。他の趣味は特になく、食べるか寝るか、適当に散財するか、が私の生活になっている。別に寂しくはない。多分。
あ、でも散歩は好きだったりする。自分の知らない場所を歩くのは楽しいし、喫茶店巡りだってその一部だ。こうして美味しい飲み物を飲むのも良い。
……まるで、ここに来た言い訳を考えているみたいだな、と私は気付き、その思考を止める。
すると、カラン、と音が鳴り、無意識にそっちの方を見ると、治さんが立っていた。
治さんはすぐに私を見つけ、嬉しそうな顔をして近づいてきた。
「東雲さん」
「治さん! また会えましたね」
「ふふ。実は、東雲さんがここに入っていくのを見て、来ちゃいました」
一呼吸置いて、治さんが焦る。
「あっ、ずっと見てたとか、そういうわけじゃないですからね! たまたまっていうか、なんていうか。へへ……」
嘘だ。何か隠してるのは表情から分かる。
「本当に? 何か変ですよ?」
私が首をかしげ、治さんの目を見つめた。
もしかしたら、川田組は治さんに取り入って私を監視させていたのかもしれない。少し金を出せば治さんは良い仕事だと思って受け入れるだろう。可能性としては、十分にあり得る。
「あ、えぇと……」
治さんは素人だ。ずっと尾行していたんなら、ボロを出すに違いない。私は彼の言葉に注意して聞いた。が。
「もう、じゃあ正直に言いますよ! また東雲さんと会えないかなって、休憩時間にいつもこの喫茶店の辺りを散歩してたんですっ」
「え」
拍子抜けした。
やっぱり、治さんは治さんだ。咄嗟についた嘘、というわけでもなさそうだし、今の言葉は真実だと言える。彼らしいと言えば彼らしい。
私はくすりと笑った。
そして、彼の休憩時間が終わるまで、たわいも無い話をしたのだった。私としては悪くない時間だったように思う。
その日以来、その喫茶店には行かなかった。
私は勝負の日までに、ただ、一度顔を見せたかっただけなのかも。
でも、二度は必要ない。仲良くなりすぎて、惜しくなっちゃうと困るし、私の弱みが作られてしまうから。
私は強くないといけない。
そして、その日はやって来た。
2.雀斑 〈完〉
もちろん、最低限の注意は払っているけれど。
少しだけ、夜の行動は控えた。代わりに次の勝負のことを考える時間が増えていく。
そう言えば一回だけ、治さんと会った。
その日は、私がふと、あの喫茶店に行こうと思い立っただけだった。
玩具工場の給料は高いとは言えないので、そこで働く人々は安価な店に入りたがる。ここの店主はそういう人たちを特にターゲットにしているのだろう。工場とも近い。それでいて不味くないのだから、人気も出るはずだ。
その喫茶店の扉を開けると、カラン、と音がして、私を迎え入れる。見たところ、中には治さんはいないようだった。
別に、がっかりなんてしていない。彼にこだわっているわけではないから。
ただ昼はどうしても暇なので、話し相手がいても良いな、とは思った。だって、私の好きなことは賭博だけだから。他の趣味は特になく、食べるか寝るか、適当に散財するか、が私の生活になっている。別に寂しくはない。多分。
あ、でも散歩は好きだったりする。自分の知らない場所を歩くのは楽しいし、喫茶店巡りだってその一部だ。こうして美味しい飲み物を飲むのも良い。
……まるで、ここに来た言い訳を考えているみたいだな、と私は気付き、その思考を止める。
すると、カラン、と音が鳴り、無意識にそっちの方を見ると、治さんが立っていた。
治さんはすぐに私を見つけ、嬉しそうな顔をして近づいてきた。
「東雲さん」
「治さん! また会えましたね」
「ふふ。実は、東雲さんがここに入っていくのを見て、来ちゃいました」
一呼吸置いて、治さんが焦る。
「あっ、ずっと見てたとか、そういうわけじゃないですからね! たまたまっていうか、なんていうか。へへ……」
嘘だ。何か隠してるのは表情から分かる。
「本当に? 何か変ですよ?」
私が首をかしげ、治さんの目を見つめた。
もしかしたら、川田組は治さんに取り入って私を監視させていたのかもしれない。少し金を出せば治さんは良い仕事だと思って受け入れるだろう。可能性としては、十分にあり得る。
「あ、えぇと……」
治さんは素人だ。ずっと尾行していたんなら、ボロを出すに違いない。私は彼の言葉に注意して聞いた。が。
「もう、じゃあ正直に言いますよ! また東雲さんと会えないかなって、休憩時間にいつもこの喫茶店の辺りを散歩してたんですっ」
「え」
拍子抜けした。
やっぱり、治さんは治さんだ。咄嗟についた嘘、というわけでもなさそうだし、今の言葉は真実だと言える。彼らしいと言えば彼らしい。
私はくすりと笑った。
そして、彼の休憩時間が終わるまで、たわいも無い話をしたのだった。私としては悪くない時間だったように思う。
その日以来、その喫茶店には行かなかった。
私は勝負の日までに、ただ、一度顔を見せたかっただけなのかも。
でも、二度は必要ない。仲良くなりすぎて、惜しくなっちゃうと困るし、私の弱みが作られてしまうから。
私は強くないといけない。
そして、その日はやって来た。
2.