2.雀斑

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私たちはサンドイッチを食べつつ、お互いのことについて、色々話した。
とは言っても、私は表面上の自分を語っただけだけど。自分で他人が付けた名前を利用しておいて、都合の良い時だけこんな風に隠すっていうのも、変な話だとは思う。
まぁ、何。そういうのも狐らしくて良いんじゃないの? 私にとって気にすることでもない。

話によると、治さんは近くの玩具工場で働いているらしい。沼田工場とか言ったかな。
その労働環境はあまり良いとは言えず。

「周りの先輩が、本当に酷かったんですよ。夜な夜な麻雀をして、僕の給料からお金を抜き取っていくんです」
「麻雀?」
「はい、嫌って言っても聞いてくれなくて」
「それは……」
「僕が弱いからだっていうのは分かってたんですけどね。でも、実はイカサマをしてたらしいんです」
「イカサマ?」

麻雀のイカサマは大きく分けて2種類ある。
1つは、すり替えや燕返しなど、相手にバレないように自分が勝ちにいく技術系のもの。
これはバレると面倒なことになるため、相当腕に自信のある人だけがする。これを見抜くのも、素人には難しい。観察眼が良い人や、イカサマを疑ってよく見ていれば、分かるかもしれない。

そしてもう1つは、仲間内で仕草や言葉などで暗号を決めておき、特定の1人を落とすなどのもの。要はグル。
でも、素人にはすぐに分からないだろう。先輩達にお金を奪い取られていたんなら、この手のイカサマをされた可能性が高い。気付かれないと分かれば、技術も使って本格的に勝ちにくることも出来る。

「それで、僕の尊敬する人が教えてくれたんです。僕がカモにされてるってこと」
「カモに……。でも、それが分かるなんて、その人も結構すごいんじゃないですか?」

相当目が利くか、その道の人か、だな。
私がその人を褒めると、治さんは目を輝かせた。

「そう! そうなんです。しかもその人、先輩達から僕のお金を取り返してくれたんですよ!」
「……なるほどねえ」

本当に尊敬しているらしい様子に、私はうんうんと頷いてみせる。

「僕もあんな男になりたいとは思ってるんですけど、なかなか近づけなくて」
「え?」

私は口元についたパンのカスを舐めとり、ゆっくり首をかしげた。

「治さん、既にその人に近いと思うけど」
「え?」
「だって、いち早く引ったくりに気付いて、追いかけて、私のお金を取り返してくれたでしょ。その人がしたことと同じことじゃないの?」
「あ……」

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