【eitr】短編まとめ
同級生である輝矢宗氏は、浜あすなろ高校きっての有名な男子生徒だ。
成績優秀、容姿端麗。加えてこのマンモス高校の全校生徒を束ねる生徒会役員を務めているとなれば、同級生ではなくても彼の存在を認識している生徒が殆どだろう。
それでなくとも、普段は宇宙ヘルメットを被って学校生活を送っているという少々変わった一面もあるようで、その姿でそこら辺を歩いているだけでかなり目立つ。”抜け駆け斬首”とかいう、名前からして不穏なファンクラブが存在するという話もそれなりに有名な話である。
そんな話を友達から聞く度、自分には縁がないのだからと話半分に聞いていた。
この学校は一学年だけでもクラス数が八十を超える程の膨大な生徒が在学しているため、偶然廊下ですれ違うことすらも多くはないのだ。三年の間に同じクラスになる上、お互いを認識する日が来るなんて余程のことがない限りありえない。――と、思っていたのに、新学期のクラス替えをした教室にいたのだ。宇宙ヘルメットを被った人物が、しかも私の席の隣に。
座席表を何度も見返して間違っていないことを確認すると、恐る恐る自分の席に腰を下ろした。
「えっと、輝矢くんだよね? よろしくね」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。――僕のことを知っていたのだな」
「むしろ知らない人の方が少ないと思うよ」
不思議そうな表情をする輝矢くんは、実際に会話してみると話しやすい人だった。
そして、案外私達は気が合うらしい。初対面の挨拶から自然と話題が広がっていき、気付けば二人顔を突き合わせて笑い合っていた。聡くて幅広い分野の話に精通しているから、彼の話はとても面白い。
意外にも輝矢くんは天然なところがあるようで、そこも取っ付きやすいと思う理由の一つだったのではないかと最近になって気付いた。
だから、それなりに仲良くなった自負はあった。
もしかしたら、席替えをしてしまえば今よりは話す機会はぐっと減るかもしれないけど、新しい友達ができたような気持ちでいたのだ。
輝矢くんのファンを名乗る一部の過激な生徒は怖いけど、物静かで話しやすい人が隣の席でよかったと、これからの学校生活に胸を弾ませた。
――“あれ”が起きるまでは。
それは、二人で日直を担当した日のことだった。
普段は生徒会や部活動などで忙しくしている輝矢くんもこの日は何も予定が無かったようで、担任に頼まれていたクラス全員の提出物を抱えて職員室に向かっていた。
時折輝矢くんのファンであろう、顔も名前も知らない生徒から向けられる鋭い視線を受け流しながら他愛のない話で盛り上がっていると、輝矢くんが突然思い出したように小さく笑い始めた。
「どうしたの?」
「いや、すまない。少し……」
ふっ、とまた笑みをこぼした輝矢くんに首を傾げる。いつも凛としている輝矢くんがこんなにも笑っている姿はあまり見ないため、少し物珍しさを感じて思わず凝視してしまった。
聞けば、先日観光区長を務めている同級生五人で集まった際の会話を思い出して笑ってしまったらしい。
あまり見ない表情を見てしまったからか、輝矢くんにもそういうことがあるのかと少し驚きつつも歩みを進めると、ようやく職員室が見えてきた。
さすがマンモス校と言われているだけある。校舎が広過ぎるせいで目的地に行くのにも毎度一苦労だ。
職員室に入るために会話を切り上げようとすると、ようやく落ち着いた輝矢くんが放った一言で、そうも言っていられなくなってしまった。
「やはり、僕は君にどうしようもなく惹かれているのだと再認識したまでだ」
笑顔のまま爆弾を落とし、そのまま何事もなかったかのように職員室のドアをノックした。慣れた様子で礼儀正しく挨拶をしてから足を踏み入れると同時に、中々その場から動かない私にようやく気付いたようで。
「入らないのか?」
心底不思議そうな表情でそう言い、「先に行くぞ」と今度こそ中に入って行ってしまった。
「い、いやいやいや……」
入らないのか、じゃない。
輝矢くんの姿が見えなくなってようやく理解した先程の言葉の意味に、顔に熱が集まるのを感じて思わず下を向く。
こっちはこんなにも混乱しているのに、さらっととんでもないことを言い残した張本人が、何であんな平然としているのか。
ぐるぐると一人で考えていると、いつの間にか職員室から出てきていた輝矢くんに顔を覗き込まれて大きく体を仰反った。
「まだここにいたのか。先生が中で待っていらっしゃるから早く行くといい」
そうだった。すっかり忘れていたが、わざわざ職員室まで足を運んだのは、私が今両手に抱えているクラスメイトの課題を提出するためである。
輝矢くんは私が職員室から出てくるまで待っていてくれるらしい。早々に壁際に寄ったのを見ていると言いたいことが込み上げてきたが、その前に日直の仕事を終わらせる方が先だろう。場所も場所である。
私は挙動不審になっているのを自覚しながらも職員室のドアをノックした。あまり強く叩いていないはずなのに、心なしがノック音が大きかったように感じた。
用事を終え、待っていてくれていた輝矢くんと二人並んで教室まで戻る道中、暫く沈黙が流れた。
放課後になってから随分と時間が経っているからか普段騒がしい廊下も閑散としているため、余計な気まずさを感じてしまう。
チラリと隣を横目に見た。
そこには、職員室を離れてから一言も話してくれないところ以外、いつもと何ら変わりない様子の輝矢くんが歩いている。
もしかして、さっきのは聞き間違いだったのだろうか。私の曲解だったのだとしたら恥ずかしいことこの上ないのだが。
「先程の話だが」
ビクッと体を揺らした。
今まさに考えていたことを言い当てられたような心地で、大きく音を立てる心臓を押さえながら振り向く。隣にいると思っていた輝矢くんはいつの間にか立ち止まっていて、数歩後ろにいた。
「つい話の流れで言ってしまったことだが、あまり深く考えないでほしい。それに僕に対して友人以上の感情を抱いていないのは理解しているからな」
その通りだった。輝矢くんのことは仲の良いクラスメイトだとは思っているが、恋愛対象として見たことは無かった。
再び沈黙が落ちて、多少の焦りを感じた。
何か、言うべきなのだろうか。そう思って慌てて口を開くと、何故だかそれを遮るかのように輝矢くんが言葉を被せてきた。
「――だから僕を意識してもらえるよう、これから全力を尽くすつもりだ」
「……え?」
予想外の言葉に、開きかけた口から思わず間抜けな声が漏れてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。
そんな私の反応を見て、輝矢くんがクスッと笑う。崩した表情の中にどこか挑戦的な笑みが含まれているように感じるのは気のせいだろうか。
「本当はもう少し慎重に事を進めたかったのだが、予め好意を伝えておくのも悪くない作戦だと聞いた」
近付いてきた輝矢くんが私の手を取る。
「だから、覚悟していてほしい」
そう力強く語った輝矢くんの眼は、きらきらと輝いているように見えた。
「手始めに、まずは呼び方を改めてみてくれないだろうか。名字ではなく名前で呼んでもらえると嬉しい」
「えっと、それは……」
「駄目、だろうか」
「ま、待って待って! それ以上近付かれると私の心臓が壊れる!」
* * *
「おっ、七基じゃん!」
ある日の放課後のことだった。
部活動を終え、昇降口に向かって廊下を歩いていると、名前を呼ばれるのと同時に背中にずっしりとした重みを感じて思わず唸った。
そのはつらつとした声だけで誰か分かったが、背後に目をやると思った通りの人物が俺の顔を覗き込んでいた。
「あく太――と、潮?」
「何、俺はついで?」
どうやらあく太の後ろにもう一人いたらしい。潮がいることに驚いていると、聞き慣れた皮肉が返ってきて顔を顰めた。
「あく太で隠れて見えなかっただけです。二人も帰るところ?」
俺の問いに頷いたのはあく太だった。
どうやら部活を終えて帰ろうとしていた矢先、家庭科室から出てきた潮と鉢合わせ、そのまま一緒にここまで歩いてきたらしい。
丁度各部活動が下校をする時間だったことから、残りのメンバーにもタイミングがよければ会えるだろうと俺達の部室近くまでやってきた、ということだった。
ここまで話を聞いていた潮は「アホ竹が勝手に着いてきただけだけどね」などと言っているが、何だかんだ言いつつ満更でもないのではないか。文句を言われそうだから、思ったことは口に出さないでおく。
「あっ」
ふと窓の外を見ると、偶然にも渡り廊下を歩いている宗氏の姿を見つけた。
丁度宗氏も帰るところなのだろうか、その肩には鞄が掛かっている。
ナイスタイミング、と俺はスマホを取り出して宗氏に電話をかけようとした。ここからでは距離があるため、口頭で呼んでも聞こえないだろうと思ったからだ。
しかし、かける前に正面から伸びてきた手によってスマホの電源が落とされてしまった。
「え、ちょっと――」
「見て」
顎をしゃくって窓を指す潮に釣られて窓に視線を戻す。
すると、宗氏と並んで歩きながら親しげに会話をしている女子生徒が目に入った。どうやら先程は宗氏の影に隠れて姿が見えなかったらしい。――というか。
「なんか、雰囲気良さそうに見えたけど」
「……」
数秒の出来事だったが、あれは明らかに友達と呼べる距離感ではなかった。宗氏に何かを言われて相手の女の子が照れている様子も、それを見つめる宗氏の表情も。遠目からでもよく分かった。
ここ最近、五人で集まると度々宗氏から恋愛相談をされるようになったのだが、話を聞く限りでは難航しているようなことを言っていたような。
「いや、あれのどこが難航してるって?」
「本当にね」
思わずそう溢すと、珍しく潮からも共感を得られた。メンバーの中で宗氏の一番近くにいるのは潮だから、普段から俺以上に焦ったく思っているのかもしれない。
俺と潮がそうしているうちにあく太は季肋を見つけたようで、季肋の腕を引いてこちらに戻ってくるところだった。
「うっし、あとは宗氏だけだな」
あく太はそう言いながら、最後残った宗氏を探そうとスマホを取り出した。俺としようとしたように電話をかけるつもりなのだろう。
「待っ――」
「はい、アホ竹、とっとと帰るよ」
電話する手を止めようと俺が声を上げるよりも先に動いたのは、意外にも潮だった。
「えっ、宗氏は?」
「……生徒会の集まりが長引いてるんだって」
「そっかァ、んじゃ仕方ないかー」
そんな言葉を交わしながらさっさと歩き出してしまう潮とあく太に、季肋がその後をついていく。
その場に一人で残されると、三人を追いかける前にもう一度窓の外に目を向けた。すると、もう宗氏達はとっくに去った後なのか渡り廊下には誰の姿もなかった。
先程の様子を見るに、二人が付き合い始めるのも時間の問題だろう。
変に拗れなければいいと思いながら、いつの間にか姿が見えなくなってしまっていた三人に追いつこうと、今度こそ足を踏み出したのだった。
成績優秀、容姿端麗。加えてこのマンモス高校の全校生徒を束ねる生徒会役員を務めているとなれば、同級生ではなくても彼の存在を認識している生徒が殆どだろう。
それでなくとも、普段は宇宙ヘルメットを被って学校生活を送っているという少々変わった一面もあるようで、その姿でそこら辺を歩いているだけでかなり目立つ。”抜け駆け斬首”とかいう、名前からして不穏なファンクラブが存在するという話もそれなりに有名な話である。
そんな話を友達から聞く度、自分には縁がないのだからと話半分に聞いていた。
この学校は一学年だけでもクラス数が八十を超える程の膨大な生徒が在学しているため、偶然廊下ですれ違うことすらも多くはないのだ。三年の間に同じクラスになる上、お互いを認識する日が来るなんて余程のことがない限りありえない。――と、思っていたのに、新学期のクラス替えをした教室にいたのだ。宇宙ヘルメットを被った人物が、しかも私の席の隣に。
座席表を何度も見返して間違っていないことを確認すると、恐る恐る自分の席に腰を下ろした。
「えっと、輝矢くんだよね? よろしくね」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。――僕のことを知っていたのだな」
「むしろ知らない人の方が少ないと思うよ」
不思議そうな表情をする輝矢くんは、実際に会話してみると話しやすい人だった。
そして、案外私達は気が合うらしい。初対面の挨拶から自然と話題が広がっていき、気付けば二人顔を突き合わせて笑い合っていた。聡くて幅広い分野の話に精通しているから、彼の話はとても面白い。
意外にも輝矢くんは天然なところがあるようで、そこも取っ付きやすいと思う理由の一つだったのではないかと最近になって気付いた。
だから、それなりに仲良くなった自負はあった。
もしかしたら、席替えをしてしまえば今よりは話す機会はぐっと減るかもしれないけど、新しい友達ができたような気持ちでいたのだ。
輝矢くんのファンを名乗る一部の過激な生徒は怖いけど、物静かで話しやすい人が隣の席でよかったと、これからの学校生活に胸を弾ませた。
――“あれ”が起きるまでは。
それは、二人で日直を担当した日のことだった。
普段は生徒会や部活動などで忙しくしている輝矢くんもこの日は何も予定が無かったようで、担任に頼まれていたクラス全員の提出物を抱えて職員室に向かっていた。
時折輝矢くんのファンであろう、顔も名前も知らない生徒から向けられる鋭い視線を受け流しながら他愛のない話で盛り上がっていると、輝矢くんが突然思い出したように小さく笑い始めた。
「どうしたの?」
「いや、すまない。少し……」
ふっ、とまた笑みをこぼした輝矢くんに首を傾げる。いつも凛としている輝矢くんがこんなにも笑っている姿はあまり見ないため、少し物珍しさを感じて思わず凝視してしまった。
聞けば、先日観光区長を務めている同級生五人で集まった際の会話を思い出して笑ってしまったらしい。
あまり見ない表情を見てしまったからか、輝矢くんにもそういうことがあるのかと少し驚きつつも歩みを進めると、ようやく職員室が見えてきた。
さすがマンモス校と言われているだけある。校舎が広過ぎるせいで目的地に行くのにも毎度一苦労だ。
職員室に入るために会話を切り上げようとすると、ようやく落ち着いた輝矢くんが放った一言で、そうも言っていられなくなってしまった。
「やはり、僕は君にどうしようもなく惹かれているのだと再認識したまでだ」
笑顔のまま爆弾を落とし、そのまま何事もなかったかのように職員室のドアをノックした。慣れた様子で礼儀正しく挨拶をしてから足を踏み入れると同時に、中々その場から動かない私にようやく気付いたようで。
「入らないのか?」
心底不思議そうな表情でそう言い、「先に行くぞ」と今度こそ中に入って行ってしまった。
「い、いやいやいや……」
入らないのか、じゃない。
輝矢くんの姿が見えなくなってようやく理解した先程の言葉の意味に、顔に熱が集まるのを感じて思わず下を向く。
こっちはこんなにも混乱しているのに、さらっととんでもないことを言い残した張本人が、何であんな平然としているのか。
ぐるぐると一人で考えていると、いつの間にか職員室から出てきていた輝矢くんに顔を覗き込まれて大きく体を仰反った。
「まだここにいたのか。先生が中で待っていらっしゃるから早く行くといい」
そうだった。すっかり忘れていたが、わざわざ職員室まで足を運んだのは、私が今両手に抱えているクラスメイトの課題を提出するためである。
輝矢くんは私が職員室から出てくるまで待っていてくれるらしい。早々に壁際に寄ったのを見ていると言いたいことが込み上げてきたが、その前に日直の仕事を終わらせる方が先だろう。場所も場所である。
私は挙動不審になっているのを自覚しながらも職員室のドアをノックした。あまり強く叩いていないはずなのに、心なしがノック音が大きかったように感じた。
用事を終え、待っていてくれていた輝矢くんと二人並んで教室まで戻る道中、暫く沈黙が流れた。
放課後になってから随分と時間が経っているからか普段騒がしい廊下も閑散としているため、余計な気まずさを感じてしまう。
チラリと隣を横目に見た。
そこには、職員室を離れてから一言も話してくれないところ以外、いつもと何ら変わりない様子の輝矢くんが歩いている。
もしかして、さっきのは聞き間違いだったのだろうか。私の曲解だったのだとしたら恥ずかしいことこの上ないのだが。
「先程の話だが」
ビクッと体を揺らした。
今まさに考えていたことを言い当てられたような心地で、大きく音を立てる心臓を押さえながら振り向く。隣にいると思っていた輝矢くんはいつの間にか立ち止まっていて、数歩後ろにいた。
「つい話の流れで言ってしまったことだが、あまり深く考えないでほしい。それに僕に対して友人以上の感情を抱いていないのは理解しているからな」
その通りだった。輝矢くんのことは仲の良いクラスメイトだとは思っているが、恋愛対象として見たことは無かった。
再び沈黙が落ちて、多少の焦りを感じた。
何か、言うべきなのだろうか。そう思って慌てて口を開くと、何故だかそれを遮るかのように輝矢くんが言葉を被せてきた。
「――だから僕を意識してもらえるよう、これから全力を尽くすつもりだ」
「……え?」
予想外の言葉に、開きかけた口から思わず間抜けな声が漏れてしまった。開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。
そんな私の反応を見て、輝矢くんがクスッと笑う。崩した表情の中にどこか挑戦的な笑みが含まれているように感じるのは気のせいだろうか。
「本当はもう少し慎重に事を進めたかったのだが、予め好意を伝えておくのも悪くない作戦だと聞いた」
近付いてきた輝矢くんが私の手を取る。
「だから、覚悟していてほしい」
そう力強く語った輝矢くんの眼は、きらきらと輝いているように見えた。
「手始めに、まずは呼び方を改めてみてくれないだろうか。名字ではなく名前で呼んでもらえると嬉しい」
「えっと、それは……」
「駄目、だろうか」
「ま、待って待って! それ以上近付かれると私の心臓が壊れる!」
* * *
「おっ、七基じゃん!」
ある日の放課後のことだった。
部活動を終え、昇降口に向かって廊下を歩いていると、名前を呼ばれるのと同時に背中にずっしりとした重みを感じて思わず唸った。
そのはつらつとした声だけで誰か分かったが、背後に目をやると思った通りの人物が俺の顔を覗き込んでいた。
「あく太――と、潮?」
「何、俺はついで?」
どうやらあく太の後ろにもう一人いたらしい。潮がいることに驚いていると、聞き慣れた皮肉が返ってきて顔を顰めた。
「あく太で隠れて見えなかっただけです。二人も帰るところ?」
俺の問いに頷いたのはあく太だった。
どうやら部活を終えて帰ろうとしていた矢先、家庭科室から出てきた潮と鉢合わせ、そのまま一緒にここまで歩いてきたらしい。
丁度各部活動が下校をする時間だったことから、残りのメンバーにもタイミングがよければ会えるだろうと俺達の部室近くまでやってきた、ということだった。
ここまで話を聞いていた潮は「アホ竹が勝手に着いてきただけだけどね」などと言っているが、何だかんだ言いつつ満更でもないのではないか。文句を言われそうだから、思ったことは口に出さないでおく。
「あっ」
ふと窓の外を見ると、偶然にも渡り廊下を歩いている宗氏の姿を見つけた。
丁度宗氏も帰るところなのだろうか、その肩には鞄が掛かっている。
ナイスタイミング、と俺はスマホを取り出して宗氏に電話をかけようとした。ここからでは距離があるため、口頭で呼んでも聞こえないだろうと思ったからだ。
しかし、かける前に正面から伸びてきた手によってスマホの電源が落とされてしまった。
「え、ちょっと――」
「見て」
顎をしゃくって窓を指す潮に釣られて窓に視線を戻す。
すると、宗氏と並んで歩きながら親しげに会話をしている女子生徒が目に入った。どうやら先程は宗氏の影に隠れて姿が見えなかったらしい。――というか。
「なんか、雰囲気良さそうに見えたけど」
「……」
数秒の出来事だったが、あれは明らかに友達と呼べる距離感ではなかった。宗氏に何かを言われて相手の女の子が照れている様子も、それを見つめる宗氏の表情も。遠目からでもよく分かった。
ここ最近、五人で集まると度々宗氏から恋愛相談をされるようになったのだが、話を聞く限りでは難航しているようなことを言っていたような。
「いや、あれのどこが難航してるって?」
「本当にね」
思わずそう溢すと、珍しく潮からも共感を得られた。メンバーの中で宗氏の一番近くにいるのは潮だから、普段から俺以上に焦ったく思っているのかもしれない。
俺と潮がそうしているうちにあく太は季肋を見つけたようで、季肋の腕を引いてこちらに戻ってくるところだった。
「うっし、あとは宗氏だけだな」
あく太はそう言いながら、最後残った宗氏を探そうとスマホを取り出した。俺としようとしたように電話をかけるつもりなのだろう。
「待っ――」
「はい、アホ竹、とっとと帰るよ」
電話する手を止めようと俺が声を上げるよりも先に動いたのは、意外にも潮だった。
「えっ、宗氏は?」
「……生徒会の集まりが長引いてるんだって」
「そっかァ、んじゃ仕方ないかー」
そんな言葉を交わしながらさっさと歩き出してしまう潮とあく太に、季肋がその後をついていく。
その場に一人で残されると、三人を追いかける前にもう一度窓の外に目を向けた。すると、もう宗氏達はとっくに去った後なのか渡り廊下には誰の姿もなかった。
先程の様子を見るに、二人が付き合い始めるのも時間の問題だろう。
変に拗れなければいいと思いながら、いつの間にか姿が見えなくなってしまっていた三人に追いつこうと、今度こそ足を踏み出したのだった。
2/6ページ
