【eitr】短編まとめ
――本当に男運がないよね。
最近になって周りから言われるようになった言葉だ。そんなことない、とキッパリと否定したいものの、今のところそれらに言い返せたことは一度もなかった。
何故なのだろうか。せっかく素敵な男性と巡り会えたと思って付き合い始めても、その先に待ち受けているのはいつも破局だ。しかも最悪な形で。
「――で、どっちが何したんだ?」
「……向こうが全部悪い」
「前回も同じセリフ聞いたな」
目の前で焼き鳥を頬張りながら相槌を打つ生行に、溢れそうになった溜息を飲み込んだ。相変わず切れ味がいい。
私から連絡を入れたことで急遽決まったふたりだけの飲み会は、いつも利用している居酒屋で行われていた。
人気店故、来店する度にその客数に圧倒されるものの、一席毎に壁で区切られた個室が設けられているこの店は、周りを気にすることなく落ち着いて話をするのにうってつけなのだ。
何故わざわざ個室を選ぶのか。
それは、私達がしている話の内容が雑談の枠に収まり切らないくらいにヘビーだから。
「……私の友達と浮気してた」
「は……」
これはさすがの生行もドン引きである。
数日前、相手の不貞が発覚し、今まで付き合っていた恋人と別れた。
以前から多少の疑念は持っていたものの、確証はなかった上に単に相手を信じていたいという思いから長い間見て見ぬふりをしてきた。しかし、それが仇となり、ついに浮気現場を目撃してしまったのである。
実を言うと、これは初めてではない。
何度か男性と付き合った経験はあるのだが、何故だかそのほとんどが所謂”クズ男”に分類される人ばかりなのだ。
彼氏と別れ、生行に泣きつく度に「またか」と呆れられるが、仕事がある日でも終わり次第こうして駆けつけてくれるからつい甘えてしまう。言葉は刺々しいけど。
「何でいつもいつも……!」
空になったグラスを端に避け、テーブルに設置されているタブレットで同じものを注文する。ついでに生行のグラスも空きそうになっていたから追加しておいた。
「浮気をした方が悪いのは当たり前なんだが――男を見る目が無さ過ぎるのも問題だと思うが」
「これ以上傷を抉らないでくれる?」
決して好きで変な男性に引っかかっているわけではないのだが、自分のことながら生行がそう言いたくなる気持ちも分かってしまうのが悲しい。
先程配膳ロボットが運んできてくれたお酒を飲んでいると、ふと個室の外から笑い声が聞こえてそちらに目を向けた。
丁度私達の前を通り過ぎていったのは、手を繋いだ男女ふたり。遠目で見ても仲の良さが伝わってきて、不躾にも見入ってしまった。恐らくカップルだろう。
彼らの姿が見えなくなり、目線を生行に戻す。
――もしかして、私達も周りからそう見られていたりするのだろうか。
といってもほとんどの人は他のお客さんのことを気にすらしていないのだろうが、先程の私みたいにふとした時に視界に入ることもある。容姿が整っている人が隣にいれば尚更だ。
「ねえ、生行って彼女いないの?」
気になったことがそのまま口をついて出た。
定期的に飲みに行く仲ではあるが、私が話すことはあっても――勝手に、それでいて一方的に愚痴を垂れているだけだが――今まで生行の浮ついた話は聞いたことがない。
生行は一瞬目を見開いたものの、すぐに眉を顰めた。
「もしいたら飲みに来ないだろ」
「それもそうか」
はっきりと否定され、そして納得した。
よく考えてみれば、恋人がいるのに異性と飲みに行く行為はかなりグレーゾーンだ。私だったら絶対に怒っている。
アルコールのせいであまり回っていない頭でひとり納得していると、正面から溜息が聞こえてきて顔を上げた。
「お前にとって、俺はどういう存在なんだ?」
思わぬ質問に首を傾げる。
そう訊く生行の表情は相変わらず険しく、どこか不機嫌だ。心なしか声も硬い。
「えっ、と――友達?」
「…………」
質問の意図が分からないまま、とりあえず答えた。むしろ友達以外に答えようはあるのか。
何か言いたげな視線を受け彼が話し始めるのを待っていると、どういうわけか不機嫌そうな表情から一変、ニコッと笑いかけられて硬直する。笑顔は笑顔でも、貼り付けたような冷たい笑顔だったからだ。
「俺は友達だなんて思ったことはない」
冷徹な声色で、そう吐き捨てた。
えっ、と自分の口から弱々しい声が漏れるが気にしていられなかった。
「何で……」
「何で?」
生行は持っていたグラスを静かに置いて、テーブルの上で両手を組む。
先程まであれだけ聞こえていた店内の騒音も一切耳に入らず、代わりにお酒の中で溶けた氷が立てた音がやけに大きく聞こえた。
「お前に恋人ができる度、腹が煮え繰り返る思いをしてたなんて知らないだろ」
ドッ、と痛いくらいに心臓が騒ぎ始める。
真っ直ぐ見つめられ、思わず身を引こうとするも叶わなかった。テーブルの上に乗せていた私の手を強く掴まれてしまったから。
「それもお前を粗雑に扱う男ばかりで、何度殴り込みに行ってやろうと思ったことか」
テーブルに身を乗り出し、空いてる方の手を私の頬に添える。
これでもかと熱が集まった顔を見られたくなくて顔を背けても顔を覗き込んでくるから逃れられず、観念してそっと顔を上げた。――そして、後悔した。
「俺じゃダメか?」
今まで見たことがないくらいの甘い表情で、私の顔にかかっていた髪をそっと避けられる。
こんな顔を見せられて、意識するなという方が無理な話である。
色々な感情が押し寄せてきて、我慢ならずテーブルに突っ伏す。クスッと笑う声が小さく聞こえて、文句を言う代わりにテーブルの下にある生行の足を軽く蹴った。
もしかしたら、私が白旗をあげる日はあまり遠くないのかもしれない。
蹴られても尚笑いが止まらない生行に、そう確信したのだった。
最近になって周りから言われるようになった言葉だ。そんなことない、とキッパリと否定したいものの、今のところそれらに言い返せたことは一度もなかった。
何故なのだろうか。せっかく素敵な男性と巡り会えたと思って付き合い始めても、その先に待ち受けているのはいつも破局だ。しかも最悪な形で。
「――で、どっちが何したんだ?」
「……向こうが全部悪い」
「前回も同じセリフ聞いたな」
目の前で焼き鳥を頬張りながら相槌を打つ生行に、溢れそうになった溜息を飲み込んだ。相変わず切れ味がいい。
私から連絡を入れたことで急遽決まったふたりだけの飲み会は、いつも利用している居酒屋で行われていた。
人気店故、来店する度にその客数に圧倒されるものの、一席毎に壁で区切られた個室が設けられているこの店は、周りを気にすることなく落ち着いて話をするのにうってつけなのだ。
何故わざわざ個室を選ぶのか。
それは、私達がしている話の内容が雑談の枠に収まり切らないくらいにヘビーだから。
「……私の友達と浮気してた」
「は……」
これはさすがの生行もドン引きである。
数日前、相手の不貞が発覚し、今まで付き合っていた恋人と別れた。
以前から多少の疑念は持っていたものの、確証はなかった上に単に相手を信じていたいという思いから長い間見て見ぬふりをしてきた。しかし、それが仇となり、ついに浮気現場を目撃してしまったのである。
実を言うと、これは初めてではない。
何度か男性と付き合った経験はあるのだが、何故だかそのほとんどが所謂”クズ男”に分類される人ばかりなのだ。
彼氏と別れ、生行に泣きつく度に「またか」と呆れられるが、仕事がある日でも終わり次第こうして駆けつけてくれるからつい甘えてしまう。言葉は刺々しいけど。
「何でいつもいつも……!」
空になったグラスを端に避け、テーブルに設置されているタブレットで同じものを注文する。ついでに生行のグラスも空きそうになっていたから追加しておいた。
「浮気をした方が悪いのは当たり前なんだが――男を見る目が無さ過ぎるのも問題だと思うが」
「これ以上傷を抉らないでくれる?」
決して好きで変な男性に引っかかっているわけではないのだが、自分のことながら生行がそう言いたくなる気持ちも分かってしまうのが悲しい。
先程配膳ロボットが運んできてくれたお酒を飲んでいると、ふと個室の外から笑い声が聞こえてそちらに目を向けた。
丁度私達の前を通り過ぎていったのは、手を繋いだ男女ふたり。遠目で見ても仲の良さが伝わってきて、不躾にも見入ってしまった。恐らくカップルだろう。
彼らの姿が見えなくなり、目線を生行に戻す。
――もしかして、私達も周りからそう見られていたりするのだろうか。
といってもほとんどの人は他のお客さんのことを気にすらしていないのだろうが、先程の私みたいにふとした時に視界に入ることもある。容姿が整っている人が隣にいれば尚更だ。
「ねえ、生行って彼女いないの?」
気になったことがそのまま口をついて出た。
定期的に飲みに行く仲ではあるが、私が話すことはあっても――勝手に、それでいて一方的に愚痴を垂れているだけだが――今まで生行の浮ついた話は聞いたことがない。
生行は一瞬目を見開いたものの、すぐに眉を顰めた。
「もしいたら飲みに来ないだろ」
「それもそうか」
はっきりと否定され、そして納得した。
よく考えてみれば、恋人がいるのに異性と飲みに行く行為はかなりグレーゾーンだ。私だったら絶対に怒っている。
アルコールのせいであまり回っていない頭でひとり納得していると、正面から溜息が聞こえてきて顔を上げた。
「お前にとって、俺はどういう存在なんだ?」
思わぬ質問に首を傾げる。
そう訊く生行の表情は相変わらず険しく、どこか不機嫌だ。心なしか声も硬い。
「えっ、と――友達?」
「…………」
質問の意図が分からないまま、とりあえず答えた。むしろ友達以外に答えようはあるのか。
何か言いたげな視線を受け彼が話し始めるのを待っていると、どういうわけか不機嫌そうな表情から一変、ニコッと笑いかけられて硬直する。笑顔は笑顔でも、貼り付けたような冷たい笑顔だったからだ。
「俺は友達だなんて思ったことはない」
冷徹な声色で、そう吐き捨てた。
えっ、と自分の口から弱々しい声が漏れるが気にしていられなかった。
「何で……」
「何で?」
生行は持っていたグラスを静かに置いて、テーブルの上で両手を組む。
先程まであれだけ聞こえていた店内の騒音も一切耳に入らず、代わりにお酒の中で溶けた氷が立てた音がやけに大きく聞こえた。
「お前に恋人ができる度、腹が煮え繰り返る思いをしてたなんて知らないだろ」
ドッ、と痛いくらいに心臓が騒ぎ始める。
真っ直ぐ見つめられ、思わず身を引こうとするも叶わなかった。テーブルの上に乗せていた私の手を強く掴まれてしまったから。
「それもお前を粗雑に扱う男ばかりで、何度殴り込みに行ってやろうと思ったことか」
テーブルに身を乗り出し、空いてる方の手を私の頬に添える。
これでもかと熱が集まった顔を見られたくなくて顔を背けても顔を覗き込んでくるから逃れられず、観念してそっと顔を上げた。――そして、後悔した。
「俺じゃダメか?」
今まで見たことがないくらいの甘い表情で、私の顔にかかっていた髪をそっと避けられる。
こんな顔を見せられて、意識するなという方が無理な話である。
色々な感情が押し寄せてきて、我慢ならずテーブルに突っ伏す。クスッと笑う声が小さく聞こえて、文句を言う代わりにテーブルの下にある生行の足を軽く蹴った。
もしかしたら、私が白旗をあげる日はあまり遠くないのかもしれない。
蹴られても尚笑いが止まらない生行に、そう確信したのだった。
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