隣席の亥清くんと友達になりました
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何で補習があったのかを知っているのかというと、放課後のチャイムが鳴った瞬間にクラスメイトが「補習行きたくねー!」と大声で叫んでいたからである。
「何、救世主?」
私の言葉で一気に怪訝な表情を見せた亥清くんはスタスタとこちらに近づいてきて私の手元を覗き込み、「あぁ」と納得した。
「英語苦手?」
「うん、嫌い」
「せっかくオブラートに包んだのに、あんたさぁ」
ズバッと切り捨てた私に呆れたような表情をした。実際呆れているかもしれない。
悪いと思いつつもどうやったって好きになれないのだから仕方ないのだ。
「冠詞がつく時とつかない時の違いは何なの?何で英単語って発音しないアルファベットが入ってんの?こんなの覚えられないって!」
「四葉と同じこと言ってんじゃん」
頭を抱える私を見て亥清くんはため息をつき、自分の席の椅子を引いて腰掛けた。帰らないのかと隣を見ると、案外近くに整った顔があって思わず体をのけぞらせる。
「これ違う」
「え?」
「文法間違ってるって言ってんの」
私の机に身を乗り出して半分閉じかけていたノートを開いたと思えば、私が書き出した記述を指さして「直して」と言う。まさか教えてくれるのだろうか。
ムスッとした表情を隠そうともせず、更に催促するようにノートを指で叩いた。私はそれに数秒フリーズした後、亥清くんの気が変わらないうちにと急いで手を動かした。
亥清くんの説明はとても分かりやすい。どんなに長文問題でもサラッと読んで理解してしまうし、私が出した答えに間違いが見つかれば指摘と共に理由も教えてくれる。あまりにも英文に慣れているから英語が得意なのかと聞くと、以前海外に留学していたことがあると返された。そりゃあ、得意なわけである。
* * *
「――お前ら、まだ残ってたのか」
どれくらい教科書に齧り付いていたのか。
廊下から声が聞こえて亥清くんとふたりして顔を上げると、担任が教室の入り口に立っていた。どうやら他の教室に用があって通り掛けたところ、自身の教室から話し声が聞こえて覗いてみれば私達が顔を突き合わせて勉強しているのを見つけたらしい。
「勉強するのは良いことだが、もう下校時刻が迫ってきてるから早めに帰れよ」
それだけ言って手をヒラヒラと振って歩いていってしまった担任に緩い返事を返し、言われた通り教科書や筆記用具を鞄に詰め込んだ。隣を見ると、特に片付けるものが無かったのか亥清くんが鞄を肩にかけて机の前に立っている。どうやら私を待っていてくれているらしい。
ようやく荷物を纏めて席を立った時、何故今まで教室に残っていたのかを思い出した。途中から勉強会が始まったから頭から抜けていたが、部活の顧問を探しに行ったっきり戻って来ない友人を待っていたのだ。
友人には先に帰っていいと言われているが、一応帰る旨をラビチャで報告しておく。
「これでよし。――帰ろっか」
「ん」
ふたりで教室を出て横に並んで昇降口を目指す。
さっきまでオレンジ色で染まっていた校舎は日が落ちたことで薄暗くなっていた。
「もうちょっとやりたかったな」
数十分の間だったが、とても有意義な時間だったように思う。ひとりでやるよりうんと効率がいいし、いつもよりしっかりと勉強できた気がするのだ。亥清くんに教えてもらえば英語の成績が上がるのでないかとさえ思えてきた。
「送ってこれば?」
「え?」
「ラビチャ」
小さな声でボソッと呟いた亥清くんに思わず聞き返した。でもそれは聞き間違いでも亥清くんの言い間違いでも無かったようで「オレの連絡先持ってるじゃん」と小さな声が聞こえた。
「いいの?」
「ダメだったら渡してない」
隣を歩く亥清くんの顔を下から覗き込むと、それに気付いた亥清くんが顔を背ける。
亥清くんが迷惑ではないと言っているのなら、お言葉に甘えるべきだろう。ラビチャでのやりとりならお互いの手が空いている時に返信ができる。
「じゃあ、分からない問題の写真送りつけるよ」
「その代わり数学教えてよ」
「数学なら英語より出来るから任せてよ!」
次の日に友人に聞いた話なのだが、顧問を見つけるのにはそれほど時間は掛からなかったらしい。だが、用事を済ませて教室に戻る途中で彼氏と鉢合わせ、そこから長話をしていたとのことだった。先に帰って良かったと思ったと同時に、私のこと忘れやがって、と軽く肘でつついておいた。
「何、救世主?」
私の言葉で一気に怪訝な表情を見せた亥清くんはスタスタとこちらに近づいてきて私の手元を覗き込み、「あぁ」と納得した。
「英語苦手?」
「うん、嫌い」
「せっかくオブラートに包んだのに、あんたさぁ」
ズバッと切り捨てた私に呆れたような表情をした。実際呆れているかもしれない。
悪いと思いつつもどうやったって好きになれないのだから仕方ないのだ。
「冠詞がつく時とつかない時の違いは何なの?何で英単語って発音しないアルファベットが入ってんの?こんなの覚えられないって!」
「四葉と同じこと言ってんじゃん」
頭を抱える私を見て亥清くんはため息をつき、自分の席の椅子を引いて腰掛けた。帰らないのかと隣を見ると、案外近くに整った顔があって思わず体をのけぞらせる。
「これ違う」
「え?」
「文法間違ってるって言ってんの」
私の机に身を乗り出して半分閉じかけていたノートを開いたと思えば、私が書き出した記述を指さして「直して」と言う。まさか教えてくれるのだろうか。
ムスッとした表情を隠そうともせず、更に催促するようにノートを指で叩いた。私はそれに数秒フリーズした後、亥清くんの気が変わらないうちにと急いで手を動かした。
亥清くんの説明はとても分かりやすい。どんなに長文問題でもサラッと読んで理解してしまうし、私が出した答えに間違いが見つかれば指摘と共に理由も教えてくれる。あまりにも英文に慣れているから英語が得意なのかと聞くと、以前海外に留学していたことがあると返された。そりゃあ、得意なわけである。
* * *
「――お前ら、まだ残ってたのか」
どれくらい教科書に齧り付いていたのか。
廊下から声が聞こえて亥清くんとふたりして顔を上げると、担任が教室の入り口に立っていた。どうやら他の教室に用があって通り掛けたところ、自身の教室から話し声が聞こえて覗いてみれば私達が顔を突き合わせて勉強しているのを見つけたらしい。
「勉強するのは良いことだが、もう下校時刻が迫ってきてるから早めに帰れよ」
それだけ言って手をヒラヒラと振って歩いていってしまった担任に緩い返事を返し、言われた通り教科書や筆記用具を鞄に詰め込んだ。隣を見ると、特に片付けるものが無かったのか亥清くんが鞄を肩にかけて机の前に立っている。どうやら私を待っていてくれているらしい。
ようやく荷物を纏めて席を立った時、何故今まで教室に残っていたのかを思い出した。途中から勉強会が始まったから頭から抜けていたが、部活の顧問を探しに行ったっきり戻って来ない友人を待っていたのだ。
友人には先に帰っていいと言われているが、一応帰る旨をラビチャで報告しておく。
「これでよし。――帰ろっか」
「ん」
ふたりで教室を出て横に並んで昇降口を目指す。
さっきまでオレンジ色で染まっていた校舎は日が落ちたことで薄暗くなっていた。
「もうちょっとやりたかったな」
数十分の間だったが、とても有意義な時間だったように思う。ひとりでやるよりうんと効率がいいし、いつもよりしっかりと勉強できた気がするのだ。亥清くんに教えてもらえば英語の成績が上がるのでないかとさえ思えてきた。
「送ってこれば?」
「え?」
「ラビチャ」
小さな声でボソッと呟いた亥清くんに思わず聞き返した。でもそれは聞き間違いでも亥清くんの言い間違いでも無かったようで「オレの連絡先持ってるじゃん」と小さな声が聞こえた。
「いいの?」
「ダメだったら渡してない」
隣を歩く亥清くんの顔を下から覗き込むと、それに気付いた亥清くんが顔を背ける。
亥清くんが迷惑ではないと言っているのなら、お言葉に甘えるべきだろう。ラビチャでのやりとりならお互いの手が空いている時に返信ができる。
「じゃあ、分からない問題の写真送りつけるよ」
「その代わり数学教えてよ」
「数学なら英語より出来るから任せてよ!」
次の日に友人に聞いた話なのだが、顧問を見つけるのにはそれほど時間は掛からなかったらしい。だが、用事を済ませて教室に戻る途中で彼氏と鉢合わせ、そこから長話をしていたとのことだった。先に帰って良かったと思ったと同時に、私のこと忘れやがって、と軽く肘でつついておいた。