隣席の亥清くんと友達になりました
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やっと悠くんに追いつけた安心感と、途中から全速力で走り出した猫を見失わないように走ってきたせいでどっと押し寄せる疲労感からその場にしゃがみ込みそうになったが、膝に手をつくことでなんとか耐えた。
「……落ち着いた?」
少しの間呼吸を整えていると、悠くんが戸惑いを隠せない様子でそう訊いた。返事をする代わりに頷いたが、声を出すことすら億劫になっている私を見て「落ち着いてないじゃん」と言わんばかりのジト目を向けられ、顔を逸らした。ここに来るまでにかなりの距離を走ってきたのだから多めに見てほしいところだ。
ここじゃ何だから、と未だに動けなかった私の腕を半ば強制的に引いて亥清家に押し込まれる。何だこの状況は――と、いきなり訪れた展開に目を回した。
悠くんが扉をピシャリと閉める。外での話し声や車の音など全てが遮断されたことで自身の呼吸音が気になるほどに静かだ。誰もいないのだろうか。
「今日ばあちゃんはいないよ」
考えていたことが顔に出ていたのか、そう教えてくれた。詳しく訊けば、今おばあさんは病院に行っているらしい。
因みに悠くんの腕に抱き抱えられて心地良さそうに寝ていた猫は、悠くんの家に入る直前に逃げ出した。すっかり悠くんに懐いている様子だったが、流石に知らない家には入りたくなかったようだ。
「とりあえず中入っ――」
「待って、悠くん!」
先に家の中に入っていこうとする悠くんを玄関先で引き留め、鞄からラッピングされたチョコレートを取り出して彼に押し付けた。緊張からか、私の手は若干震えている。
「これ、あげる」
もっとタイミングってものがあっただろうに。
一瞬勢いに任せたことを後悔したが、とりあえず押し戻されることなく受け取ってもらえたことに安堵した。
未だにはち切れそうなくらい音を立てている心臓を落ち着かせようと深呼吸をしていると、ずっと黙っていた悠くんが何かを言いかけて、すぐに口を噤んだ。その表情はどこか不機嫌で、拗ねているようにも見える。
「……これ、何のチョコ?」
友チョコ、と言いかけて言葉が喉につっかえた。
――もういっそのこと言ってしまえばいいのでは。告白の二文字が頭を掠めるも、すぐさま思いとどまった。玉破前提はよくない。
黙り続ける私に痺れを切らしたのか、口を尖らせたまま悠くんが言った。
「好きなヤツいるんじゃないの? この間告白したって話だけど」
一瞬何を言われているのか理解できなかった。
好きな人? 告白? 私の好きな人は目の前にいるし、告白なんてしていない――と、頭を捻ったところで、このやりとりに既視感を覚える。つい最近友人とも同じような会話をした。
「違うから。全部誤解!」
「誤解? そうなの?」
「あ、いや。全部は言い過ぎたかも」
「どっちだよ!」
まさか悠くんの耳にまで噂が届いていたなんて思わなかった。
唖然としながらも、テンパって更に誤解を生まないように気を付けつつ事のあらましを説明した。あまりこういう話を人に話すのはよくないと分かっているが、やむを得ない。
バレンタインデーを目前に控えたあの日。職員室での用事を済ませた帰り道でバッタリと先輩に会った。「久しぶり」と声を掛けてきたのは、この学校で特に人気が名高いサッカー部のエースだったのだ。そのまま「少しいい?」と人気の少ない階段の踊り場まで移動し、あとは悠くんが見た通りである。
因みに手紙を渡されたが、告白を断るのと同時に手紙を受け取ることもしなかった。断るなら相応の対応をしなければいけないと思ったのだ。
「――つまり? 告白したのはあんたじゃなくて”先輩の方”だと」
「うん」
なんとか説明し終えると、悠くんは片手で顔を覆った。指の隙間から見える表情は苦虫を噛み潰したような、渋い顔をしているように見える。理解していただけたようで何よりだ。
どうやら悠くんは偶々あの現場に鉢合わせてしまったらしく、最後まで私達の会話を聞かずに立ち去ったようだった。その上で変な噂を聞いてしまったものだから勘違いを加速させる要因になったのだと。
「オレの勘違いかよ……てか、紛らわしいんだけど!」
「私何も悪くないのに……」
今度は詰め寄ってくる悠くんを宥める。口では文句を言いながらも、表情は少しだけ穏やかに見えるのは気のせいではないはずだ。
「で、何で断ったわけ? あの人女子の間でめっちゃ人気なんじゃないの」
「…………」
「何だよ」
思わずジト目を向けてしまった。
態々私に言わせようなんて、振り回してしまったことへの意趣返しのつもりなのだろうか。
――今の会話から気付いているんでしょう?
だって、明らかに口角が上がっているのだから。
既に靴を脱いで廊下に上がっている悠くんを見上げる。何も言わずにジッと見る私を怪訝そうに「何?」と言う悠くんに、私は両手を伸ばして思いっきり首に抱きついた。
「……落ち着いた?」
少しの間呼吸を整えていると、悠くんが戸惑いを隠せない様子でそう訊いた。返事をする代わりに頷いたが、声を出すことすら億劫になっている私を見て「落ち着いてないじゃん」と言わんばかりのジト目を向けられ、顔を逸らした。ここに来るまでにかなりの距離を走ってきたのだから多めに見てほしいところだ。
ここじゃ何だから、と未だに動けなかった私の腕を半ば強制的に引いて亥清家に押し込まれる。何だこの状況は――と、いきなり訪れた展開に目を回した。
悠くんが扉をピシャリと閉める。外での話し声や車の音など全てが遮断されたことで自身の呼吸音が気になるほどに静かだ。誰もいないのだろうか。
「今日ばあちゃんはいないよ」
考えていたことが顔に出ていたのか、そう教えてくれた。詳しく訊けば、今おばあさんは病院に行っているらしい。
因みに悠くんの腕に抱き抱えられて心地良さそうに寝ていた猫は、悠くんの家に入る直前に逃げ出した。すっかり悠くんに懐いている様子だったが、流石に知らない家には入りたくなかったようだ。
「とりあえず中入っ――」
「待って、悠くん!」
先に家の中に入っていこうとする悠くんを玄関先で引き留め、鞄からラッピングされたチョコレートを取り出して彼に押し付けた。緊張からか、私の手は若干震えている。
「これ、あげる」
もっとタイミングってものがあっただろうに。
一瞬勢いに任せたことを後悔したが、とりあえず押し戻されることなく受け取ってもらえたことに安堵した。
未だにはち切れそうなくらい音を立てている心臓を落ち着かせようと深呼吸をしていると、ずっと黙っていた悠くんが何かを言いかけて、すぐに口を噤んだ。その表情はどこか不機嫌で、拗ねているようにも見える。
「……これ、何のチョコ?」
友チョコ、と言いかけて言葉が喉につっかえた。
――もういっそのこと言ってしまえばいいのでは。告白の二文字が頭を掠めるも、すぐさま思いとどまった。玉破前提はよくない。
黙り続ける私に痺れを切らしたのか、口を尖らせたまま悠くんが言った。
「好きなヤツいるんじゃないの? この間告白したって話だけど」
一瞬何を言われているのか理解できなかった。
好きな人? 告白? 私の好きな人は目の前にいるし、告白なんてしていない――と、頭を捻ったところで、このやりとりに既視感を覚える。つい最近友人とも同じような会話をした。
「違うから。全部誤解!」
「誤解? そうなの?」
「あ、いや。全部は言い過ぎたかも」
「どっちだよ!」
まさか悠くんの耳にまで噂が届いていたなんて思わなかった。
唖然としながらも、テンパって更に誤解を生まないように気を付けつつ事のあらましを説明した。あまりこういう話を人に話すのはよくないと分かっているが、やむを得ない。
バレンタインデーを目前に控えたあの日。職員室での用事を済ませた帰り道でバッタリと先輩に会った。「久しぶり」と声を掛けてきたのは、この学校で特に人気が名高いサッカー部のエースだったのだ。そのまま「少しいい?」と人気の少ない階段の踊り場まで移動し、あとは悠くんが見た通りである。
因みに手紙を渡されたが、告白を断るのと同時に手紙を受け取ることもしなかった。断るなら相応の対応をしなければいけないと思ったのだ。
「――つまり? 告白したのはあんたじゃなくて”先輩の方”だと」
「うん」
なんとか説明し終えると、悠くんは片手で顔を覆った。指の隙間から見える表情は苦虫を噛み潰したような、渋い顔をしているように見える。理解していただけたようで何よりだ。
どうやら悠くんは偶々あの現場に鉢合わせてしまったらしく、最後まで私達の会話を聞かずに立ち去ったようだった。その上で変な噂を聞いてしまったものだから勘違いを加速させる要因になったのだと。
「オレの勘違いかよ……てか、紛らわしいんだけど!」
「私何も悪くないのに……」
今度は詰め寄ってくる悠くんを宥める。口では文句を言いながらも、表情は少しだけ穏やかに見えるのは気のせいではないはずだ。
「で、何で断ったわけ? あの人女子の間でめっちゃ人気なんじゃないの」
「…………」
「何だよ」
思わずジト目を向けてしまった。
態々私に言わせようなんて、振り回してしまったことへの意趣返しのつもりなのだろうか。
――今の会話から気付いているんでしょう?
だって、明らかに口角が上がっているのだから。
既に靴を脱いで廊下に上がっている悠くんを見上げる。何も言わずにジッと見る私を怪訝そうに「何?」と言う悠くんに、私は両手を伸ばして思いっきり首に抱きついた。
