隣席の亥清くんと友達になりました
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「この問題を解くには先日教えた数式を使って――」
カツカツとチョークを鳴らしながら黒板に数字を書いていく教科担任の後ろ姿を眺める。
板書を写すわけでもなく頬杖をつきながら考えるのは、やはり昨日のことだった。
昨日は偶然鉢合わせたからとはいえ、何故亥清くんと買い物をする流れになったのかは今考えても分からない。ただ、いつもスーパー内を巡る時はひとりだった為新鮮に思えたのは確かである。
今頃亥清くんも私と同じように頭上に無数のハテナマークを浮かべながら首を傾げているのかな、とボンヤリ思いながら隣をチラリと見た。やっぱり今日も空席である。
それもそうだろう。昨日、授業で出された課題を気にしたことで今まで話したことがないクラスメイトに声を掛けたくらいなのだから。仕事が忙しいのかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間に一時間経っていたのか教室にチャイム音が響いた。
「――はい、今日の授業はここまで。先日出した課題を出していない人、今週中に出すんだぞ」
以上、と担任が締め括ると号令が掛かり、私も周りの動きに合わせて挨拶をする。先生が教室を出て行った途端騒がしくなる教室を気に留める余裕などなく、静かに椅子に座り直して頭を抱えた。
「あー……もしかして、課題終わってない感じ?」
そんな私の様子が離れた席から見えていたのか、友人が苦笑しながら近寄ってきた。図星である。
「一昨日に出された大量の英語の課題に気を取られてすっかり忘れてた……」
「そんなことだろうと思った」
友人は私の目の前の席に座ったと思えば、私と向かい合わせになるように机をくるりと回して席につき、ランチバッグから弁当を取り出した。そういえば今の授業は午前中最後のコマだったことを思い出す。
「最近多いよね、課題」
「本当に」
同感だ。試験が近くなると、どうしても各教科で毎度大量の課題を出されてしまう。これは今回に限ったことではないのだから特別驚くことはないけれど、やはりその時になれば嘆きたくもなる。
「家帰ってやらないと」
「その前に板書をノートに写した方がいいんじゃない?」
既に昼食を食べ始めている友人はそう言って持っていた箸で自身の背を指した。それに釣られて黒板を見ると、クラスメイトが黒板消しを手に持っている姿が見えて、慌てて写し始めたのだった。
* * *
「――朝倉?」
「あ、亥清くん」
一日の授業がやっと終わり早々に荷物を纏めて教室を出ると、昇降口辺りで背後から呼ばれた名前に反応して無意識に振り向く。職員室にでも行っていたのだろうか。プリントを片手に、私が歩いてきた廊下とは別の方から歩いてきたらしい亥清くんがいた。
「来てたんだ」
「補習の課題を出しに来ただけだけどな」
今日一日教室で姿を見ていないのに、と不思議に思っていればすんなりと答えが返ってきて「へぇ」と気の抜けた返事を返してしまった。
亥清くんみたいに芸能活動を行っている生徒は学業よりも仕事を優先することが殆どだ。だから必然的に欠席しなければいけない授業が出てくる。それは無情にも仕事が忙しい人――世間に注目されている人程その傾向が大きいのだ。
この学校はそういった生徒への救済措置として定期的に補習が開かれていた。亥清くんや四葉くん、あとは成績優秀な和泉くんもよく参加している話を風の噂で耳にしたことがある。中には成績不良等を理由として芸能活動を行っていない一般生徒も混ざっていたりするのだが。それはさておき。
「提出物が多くて嫌になる」
「追い打ちかけるようでアレだけど、今日も数学で課題出されたの知ってる?」
「うわ、聞きたくないんだけど」
昼休憩の時も友人と似たような会話をしたな。
ため息を隠そうともせず心の声を漏らした亥清くんに肯定を示す。靴箱からローファーを取り出して履き替え、ふたりともなく昇降口を出た。
外はすっかりオレンジ色に染まっており、遠くに見える建物の隙間から見える太陽はもう半分も見えない。
偶々帰る方向が同じだった為他愛ない話を交わしながら並んで歩いていると、ふと視界に飛び込んできたものに足を止めた。
「猫……」
塀の上で寛いでいるのは、昨日私の手から逃げるように去っていった猫だった。
じーっとその猫を見つめていると、私が足を止めたことで亥清くんも猫の存在に気付いたようで「かわいい……」と小さな声で呟く声が微かに聞こえた。
「随分人慣れしてるみたいだな」
見知らぬ人間にジロジロと顔を覗かれているというのに太々しい態度でこちらの様子を伺っている猫を見て、今ならいけるかもしれないと徐に近付く。昨日のリベンジである。
「お?」
ゆっくりと猫の前に手を差し出すと、猫は私の手に顔を近付けた。しかし、
プイッ。
「えぇ……」
「あ、顔背けた」
勢いよく顔を背けられてしまった。
今日も敗北である。
「もしかして、動物に好かれない体質だったりする?」
「そんなことない……と思いたい」
「それもう願望じゃん」
カツカツとチョークを鳴らしながら黒板に数字を書いていく教科担任の後ろ姿を眺める。
板書を写すわけでもなく頬杖をつきながら考えるのは、やはり昨日のことだった。
昨日は偶然鉢合わせたからとはいえ、何故亥清くんと買い物をする流れになったのかは今考えても分からない。ただ、いつもスーパー内を巡る時はひとりだった為新鮮に思えたのは確かである。
今頃亥清くんも私と同じように頭上に無数のハテナマークを浮かべながら首を傾げているのかな、とボンヤリ思いながら隣をチラリと見た。やっぱり今日も空席である。
それもそうだろう。昨日、授業で出された課題を気にしたことで今まで話したことがないクラスメイトに声を掛けたくらいなのだから。仕事が忙しいのかもしれない。
そんなことを考えていると、いつの間に一時間経っていたのか教室にチャイム音が響いた。
「――はい、今日の授業はここまで。先日出した課題を出していない人、今週中に出すんだぞ」
以上、と担任が締め括ると号令が掛かり、私も周りの動きに合わせて挨拶をする。先生が教室を出て行った途端騒がしくなる教室を気に留める余裕などなく、静かに椅子に座り直して頭を抱えた。
「あー……もしかして、課題終わってない感じ?」
そんな私の様子が離れた席から見えていたのか、友人が苦笑しながら近寄ってきた。図星である。
「一昨日に出された大量の英語の課題に気を取られてすっかり忘れてた……」
「そんなことだろうと思った」
友人は私の目の前の席に座ったと思えば、私と向かい合わせになるように机をくるりと回して席につき、ランチバッグから弁当を取り出した。そういえば今の授業は午前中最後のコマだったことを思い出す。
「最近多いよね、課題」
「本当に」
同感だ。試験が近くなると、どうしても各教科で毎度大量の課題を出されてしまう。これは今回に限ったことではないのだから特別驚くことはないけれど、やはりその時になれば嘆きたくもなる。
「家帰ってやらないと」
「その前に板書をノートに写した方がいいんじゃない?」
既に昼食を食べ始めている友人はそう言って持っていた箸で自身の背を指した。それに釣られて黒板を見ると、クラスメイトが黒板消しを手に持っている姿が見えて、慌てて写し始めたのだった。
* * *
「――朝倉?」
「あ、亥清くん」
一日の授業がやっと終わり早々に荷物を纏めて教室を出ると、昇降口辺りで背後から呼ばれた名前に反応して無意識に振り向く。職員室にでも行っていたのだろうか。プリントを片手に、私が歩いてきた廊下とは別の方から歩いてきたらしい亥清くんがいた。
「来てたんだ」
「補習の課題を出しに来ただけだけどな」
今日一日教室で姿を見ていないのに、と不思議に思っていればすんなりと答えが返ってきて「へぇ」と気の抜けた返事を返してしまった。
亥清くんみたいに芸能活動を行っている生徒は学業よりも仕事を優先することが殆どだ。だから必然的に欠席しなければいけない授業が出てくる。それは無情にも仕事が忙しい人――世間に注目されている人程その傾向が大きいのだ。
この学校はそういった生徒への救済措置として定期的に補習が開かれていた。亥清くんや四葉くん、あとは成績優秀な和泉くんもよく参加している話を風の噂で耳にしたことがある。中には成績不良等を理由として芸能活動を行っていない一般生徒も混ざっていたりするのだが。それはさておき。
「提出物が多くて嫌になる」
「追い打ちかけるようでアレだけど、今日も数学で課題出されたの知ってる?」
「うわ、聞きたくないんだけど」
昼休憩の時も友人と似たような会話をしたな。
ため息を隠そうともせず心の声を漏らした亥清くんに肯定を示す。靴箱からローファーを取り出して履き替え、ふたりともなく昇降口を出た。
外はすっかりオレンジ色に染まっており、遠くに見える建物の隙間から見える太陽はもう半分も見えない。
偶々帰る方向が同じだった為他愛ない話を交わしながら並んで歩いていると、ふと視界に飛び込んできたものに足を止めた。
「猫……」
塀の上で寛いでいるのは、昨日私の手から逃げるように去っていった猫だった。
じーっとその猫を見つめていると、私が足を止めたことで亥清くんも猫の存在に気付いたようで「かわいい……」と小さな声で呟く声が微かに聞こえた。
「随分人慣れしてるみたいだな」
見知らぬ人間にジロジロと顔を覗かれているというのに太々しい態度でこちらの様子を伺っている猫を見て、今ならいけるかもしれないと徐に近付く。昨日のリベンジである。
「お?」
ゆっくりと猫の前に手を差し出すと、猫は私の手に顔を近付けた。しかし、
プイッ。
「えぇ……」
「あ、顔背けた」
勢いよく顔を背けられてしまった。
今日も敗北である。
「もしかして、動物に好かれない体質だったりする?」
「そんなことない……と思いたい」
「それもう願望じゃん」