隣席の亥清くんと友達になりました
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それから、すぐにバレンタインデーはやってきた。
朝から誰が誰に告白した、チョコレートを渡したなどといった噂話が縦横無尽に飛び交っており、明らかに男女共に色めき立っているのが分かった。しばしば話の中に私の名前が入っていることもあったが、わざわざ話に割って入るわけにもいかず終始聞こえないふりをするしかなかった。
「あとは悠くんの分だけか」
鞄を開くと簡易的にラッピングされたチョコレートがポツンと残されており、あまり視界に入らないようにそっとファスナーを閉じた。
友人や他の交換を約束している人達には無事に渡すことができた為、残りはひとつだけだ。
悩んだが、結局用意することにしたのだ。昨日学校から帰ってから急いで作ったのだが、その割には満足のいくものが出来たと自画自賛しているというのはさておき――。実は今日の悠くんは珍しく朝から登校していた為、私の勇気と話しかけるタイミングさえあれ簡単にば渡せると思っていたのだが、先程ついに一日の授業が終わってしまったのだ。
「もしかして、もう帰っちゃった……?」
――今から追いかければ間に合うだろうか。
多分、今日この機会を逃せばこの先ずっと以前みたいに話せなくなってしまうような気がして、私は藁にもすがる思いで教室を飛び出した。
「――いた……!」
通学路以外の道も通りながら悠くんを探していると、見知った後ろ姿を見つけた。
こちらを振り向いた顔は目を丸くして驚いていて、少し声が大きかったかもしれないと反省する。
「よ、よつ――四葉くんと、和泉くん……」
「えっ、朝倉さん……?」
「そんなに走ってどうした?」
ぜーぜー、と両膝に手をついて息を整える。私が見つけたのは悠くんではなく、クラスメイトの四葉くんと和泉くんだった。もしかしたらこのふたりと一緒にいるかもしれないという淡い期待は見事に打ち砕かれてしまったようだ。
「大丈夫?」とふたりの心配する声を聞きながら深呼吸を繰り返していると、だいぶ落ち着いてきた。
「驚かせてごめん。あの、悠くん見てない?」
「いすみんなら、さっき通り過ぎてったけど」
「遅かったか……教えてくれてありがとう」
このままだと悠くんの家に着いてしまいそうだ。
できれば道中でどうにか捕まえたい、と思いながら再び歩き出そうとすると、背後から「ちょっと待って」と声が掛かった。四葉くんだった。
「髪のやつ落ちかけてる」
「うそ、本当?」
「うん。直してやっから、そのまま」
そう言って髪を留めていたバレッタを少し触り、暫くして「できた」と離れていく。崩さないようにそっと触ってみると、髪にしっかりとついていた。どうやら走ったことで落ちてきていたようだ。
「ありがとう」
取れてしまう前に気付けてよかった。
改めてお礼を言って、今度こそふたりと別れたのだった。
* * *
「……いおりん、ドキッとした?」
「はっ?」
後ろ姿が見えなくなると、隣にいる友人に問いかけた。
「してませんよ!」
「大丈夫、俺もした」
「何が大丈夫なんですか……」
だって、完全に恋する女の子の顔だったから。
いおりんはこう言ってるけど、多分誰が見てもときめくだろう。別に俺達に向けられたわけじゃないのに。
――あれ、いすみんから貰ったんだろうなぁ。
ガンバ、と心の中でエールを送った。
「いすみんにラビチャ入れといてやるか」
「亥清さんも素直じゃないですよね。見ているこっちがもどかしいですよ」
「なー」
朝から誰が誰に告白した、チョコレートを渡したなどといった噂話が縦横無尽に飛び交っており、明らかに男女共に色めき立っているのが分かった。しばしば話の中に私の名前が入っていることもあったが、わざわざ話に割って入るわけにもいかず終始聞こえないふりをするしかなかった。
「あとは悠くんの分だけか」
鞄を開くと簡易的にラッピングされたチョコレートがポツンと残されており、あまり視界に入らないようにそっとファスナーを閉じた。
友人や他の交換を約束している人達には無事に渡すことができた為、残りはひとつだけだ。
悩んだが、結局用意することにしたのだ。昨日学校から帰ってから急いで作ったのだが、その割には満足のいくものが出来たと自画自賛しているというのはさておき――。実は今日の悠くんは珍しく朝から登校していた為、私の勇気と話しかけるタイミングさえあれ簡単にば渡せると思っていたのだが、先程ついに一日の授業が終わってしまったのだ。
「もしかして、もう帰っちゃった……?」
――今から追いかければ間に合うだろうか。
多分、今日この機会を逃せばこの先ずっと以前みたいに話せなくなってしまうような気がして、私は藁にもすがる思いで教室を飛び出した。
「――いた……!」
通学路以外の道も通りながら悠くんを探していると、見知った後ろ姿を見つけた。
こちらを振り向いた顔は目を丸くして驚いていて、少し声が大きかったかもしれないと反省する。
「よ、よつ――四葉くんと、和泉くん……」
「えっ、朝倉さん……?」
「そんなに走ってどうした?」
ぜーぜー、と両膝に手をついて息を整える。私が見つけたのは悠くんではなく、クラスメイトの四葉くんと和泉くんだった。もしかしたらこのふたりと一緒にいるかもしれないという淡い期待は見事に打ち砕かれてしまったようだ。
「大丈夫?」とふたりの心配する声を聞きながら深呼吸を繰り返していると、だいぶ落ち着いてきた。
「驚かせてごめん。あの、悠くん見てない?」
「いすみんなら、さっき通り過ぎてったけど」
「遅かったか……教えてくれてありがとう」
このままだと悠くんの家に着いてしまいそうだ。
できれば道中でどうにか捕まえたい、と思いながら再び歩き出そうとすると、背後から「ちょっと待って」と声が掛かった。四葉くんだった。
「髪のやつ落ちかけてる」
「うそ、本当?」
「うん。直してやっから、そのまま」
そう言って髪を留めていたバレッタを少し触り、暫くして「できた」と離れていく。崩さないようにそっと触ってみると、髪にしっかりとついていた。どうやら走ったことで落ちてきていたようだ。
「ありがとう」
取れてしまう前に気付けてよかった。
改めてお礼を言って、今度こそふたりと別れたのだった。
* * *
「……いおりん、ドキッとした?」
「はっ?」
後ろ姿が見えなくなると、隣にいる友人に問いかけた。
「してませんよ!」
「大丈夫、俺もした」
「何が大丈夫なんですか……」
だって、完全に恋する女の子の顔だったから。
いおりんはこう言ってるけど、多分誰が見てもときめくだろう。別に俺達に向けられたわけじゃないのに。
――あれ、いすみんから貰ったんだろうなぁ。
ガンバ、と心の中でエールを送った。
「いすみんにラビチャ入れといてやるか」
「亥清さんも素直じゃないですよね。見ているこっちがもどかしいですよ」
「なー」
