隣席の亥清くんと友達になりました
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思いの外喜んでくれたようだ。
自分でも気付かぬうちに緊張していたようで、安堵のため息を溢したのと同時に肩の力が抜けたのが分かった。
「足止めさせてごめん」
しかし、ジワジワと湧いてくる照れ臭さで顔に熱が集まっているのが分かり、暗くて見えるはずないのに赤くなっているであろう顔を思わず背ける。そして、「帰ろう」と佇んだままの悠くんに言って背を向けた。
だけど、悠くんはその場から動かなかった。
「悠く――」
「ねぇ、蒼」
悠くんが一向に動かないことに気付いたのと同時に名前を呼ばれて振り向く。
いつの間にか手に持っていたマドレーヌを袋に終われており、代わりに何かの箱が握られていた。
「これ」
呆気に取られていると、早く受け取れと言わんばかりに持っている物をヒラヒラと上下に揺している。
私は戸惑いながらも離れていた距離を縮め、その箱をそっと受け取った。
「これは――」
「もうすぐクリスマスだろ」
それは、手のひらサイズの小さな箱だった。黒色ベースの包装紙には金色の星が銀河のように広がっており、全体を白いリボンで包んでいる。
「ごめん、私何も用意してない……」
「オレが勝手にやったことだし気にしなくていいって」
まさかクリスマスプレゼントをもらうと思っていなくて、思わず呆けてしまう。悠くんの誕生日プレゼントのことしか考えていなかったから、クリスマスについてはすっかり頭から抜けていたのだ。
今度お返しをしようと心に決めて、箱のリボンに手をかける。解く前に「開けてもいい?」と訊こうと顔を上げると、悠くんがジッと真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「――――」
この辺りは薄暗いはずなのに、ここからでもはっきりと見える琥珀色から目を逸らすことができない。
「オレ――」
途端に騒ぎ出した心臓を抑えたいのに、まるで金縛りにあったかのように身体が動かない。
その間にも悠くんは何度か言おうか迷う素振りを見せ、口を開いたり閉じたりを繰り返している。
そして、もう一度口を開き、何かを言おうとした時――。
「あれ、もしかしてŹOOĻの亥清悠くん?」
そんな声が遠くから聞こえてきて、ふたりで息を呑んだ。
もしかして話し声でバレてしまったのだろうか。気付かないうちに話し声が大きくなっていたのかもしれないと、もっと気を配っておくべきだったと後悔した。
「やっぱり悠くんだ! こんなところで会えるなんて!」
「あ……どうも」
目の前で悠くんがファンに話しかけられているのを視界に入れながら、すっかり血の気が引いて働かなくなっている頭を必死に動かした。
――とりあえずここから離脱しなければ。
私は逃げるように悠くんの横を通り過ぎ、この場を後にしたのだった。
* * *
「はぁ……」
話し声や園内に流れているBGMが耳に入ってきたのは、たくさんの人で賑わっている場所まで出てきた時だった。無我夢中で走っていたから今自分がいる場所は把握できていないが、恐らくそれなりに離れた所まで来てしまっただろう。
道の端に寄って自分の前を通る人達を眺めていると、やっと落ち着きを取り戻すことができた。――しかし、冷静になればなるほど嫌な考えが頭を過ぎる。
さっきの女の子達に私の姿は見えていたはずだから、何か勘違いでもされてしまえば悠くんの今後の仕事に支障が出てしまう。
私のこともファンのひとりだと思ってくれたらいい。――そう思うのに、この状況に酷く動揺しているのは何故なのだろうか。
暫くそうしていると、握りしめていたスマホに悠くんから連絡が入った。『今どこにいる?』というラビチャから通話に移り、そう時間も掛からず合流できた。
私達は、その足でゲートを潜った。もう夜遅いからと家まで送ってくれたが、家に着くまでのことはあまり覚えていない。ただ、心ここにあらずといった様子だったのは悠くんも同様だった。
目を瞑ると、蘇ってくるのはあの場面。
小さな箱を片手に正面に立つ悠くんの言葉を待った、あの時だ。
――あの時の私は、何を期待していた?
家には誰もいないのに、黒色の包装紙と白いリボンで包まれた箱で赤く染まっているであろう顔を隠した。
自分でも気付かぬうちに緊張していたようで、安堵のため息を溢したのと同時に肩の力が抜けたのが分かった。
「足止めさせてごめん」
しかし、ジワジワと湧いてくる照れ臭さで顔に熱が集まっているのが分かり、暗くて見えるはずないのに赤くなっているであろう顔を思わず背ける。そして、「帰ろう」と佇んだままの悠くんに言って背を向けた。
だけど、悠くんはその場から動かなかった。
「悠く――」
「ねぇ、蒼」
悠くんが一向に動かないことに気付いたのと同時に名前を呼ばれて振り向く。
いつの間にか手に持っていたマドレーヌを袋に終われており、代わりに何かの箱が握られていた。
「これ」
呆気に取られていると、早く受け取れと言わんばかりに持っている物をヒラヒラと上下に揺している。
私は戸惑いながらも離れていた距離を縮め、その箱をそっと受け取った。
「これは――」
「もうすぐクリスマスだろ」
それは、手のひらサイズの小さな箱だった。黒色ベースの包装紙には金色の星が銀河のように広がっており、全体を白いリボンで包んでいる。
「ごめん、私何も用意してない……」
「オレが勝手にやったことだし気にしなくていいって」
まさかクリスマスプレゼントをもらうと思っていなくて、思わず呆けてしまう。悠くんの誕生日プレゼントのことしか考えていなかったから、クリスマスについてはすっかり頭から抜けていたのだ。
今度お返しをしようと心に決めて、箱のリボンに手をかける。解く前に「開けてもいい?」と訊こうと顔を上げると、悠くんがジッと真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「――――」
この辺りは薄暗いはずなのに、ここからでもはっきりと見える琥珀色から目を逸らすことができない。
「オレ――」
途端に騒ぎ出した心臓を抑えたいのに、まるで金縛りにあったかのように身体が動かない。
その間にも悠くんは何度か言おうか迷う素振りを見せ、口を開いたり閉じたりを繰り返している。
そして、もう一度口を開き、何かを言おうとした時――。
「あれ、もしかしてŹOOĻの亥清悠くん?」
そんな声が遠くから聞こえてきて、ふたりで息を呑んだ。
もしかして話し声でバレてしまったのだろうか。気付かないうちに話し声が大きくなっていたのかもしれないと、もっと気を配っておくべきだったと後悔した。
「やっぱり悠くんだ! こんなところで会えるなんて!」
「あ……どうも」
目の前で悠くんがファンに話しかけられているのを視界に入れながら、すっかり血の気が引いて働かなくなっている頭を必死に動かした。
――とりあえずここから離脱しなければ。
私は逃げるように悠くんの横を通り過ぎ、この場を後にしたのだった。
* * *
「はぁ……」
話し声や園内に流れているBGMが耳に入ってきたのは、たくさんの人で賑わっている場所まで出てきた時だった。無我夢中で走っていたから今自分がいる場所は把握できていないが、恐らくそれなりに離れた所まで来てしまっただろう。
道の端に寄って自分の前を通る人達を眺めていると、やっと落ち着きを取り戻すことができた。――しかし、冷静になればなるほど嫌な考えが頭を過ぎる。
さっきの女の子達に私の姿は見えていたはずだから、何か勘違いでもされてしまえば悠くんの今後の仕事に支障が出てしまう。
私のこともファンのひとりだと思ってくれたらいい。――そう思うのに、この状況に酷く動揺しているのは何故なのだろうか。
暫くそうしていると、握りしめていたスマホに悠くんから連絡が入った。『今どこにいる?』というラビチャから通話に移り、そう時間も掛からず合流できた。
私達は、その足でゲートを潜った。もう夜遅いからと家まで送ってくれたが、家に着くまでのことはあまり覚えていない。ただ、心ここにあらずといった様子だったのは悠くんも同様だった。
目を瞑ると、蘇ってくるのはあの場面。
小さな箱を片手に正面に立つ悠くんの言葉を待った、あの時だ。
――あの時の私は、何を期待していた?
家には誰もいないのに、黒色の包装紙と白いリボンで包まれた箱で赤く染まっているであろう顔を隠した。
