隣席の亥清くんと友達になりました
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「ただいま」
しーん、と静まり返っている家に帰ってくると、誰も咎める人がいないのを良いことにリビングに入った途端そこら辺に鞄を置く。そして、着替えないままソファに身を投げた。
返答が返ってこないと分かっていても、帰ってきたらどうしても口にしてしまう言葉だった。
こうして帰って来ても共働きの両親が家にいることなんて殆ど無く、逆に夜遅くに帰ってくるふたりを『おかえり』と出迎えることの方が圧倒的に多い。
どちらも忙しい身であるから、休日である土日ですら一日中家を空けていることもあるのだ。
幼い頃はこの静かな家にひとりでいるのは寂しくて、毎日のように友達を連れ出して外に遊びに行っていたことを思い出した。今では寂しさなど感じなくなったが、現在はその時間をアルバイトに費やしている。
「――はっ、買い物!」
目を瞑りながらボーッとしていると、おつかいを頼まれていたことを思い出し勢いよく飛び起きた。
厳密にいうと、今朝家を出る前にリビングのテーブルにメモ用紙がポツンと置かれていたのを見つけただけなのだが。
そのまあまテーブルまで足を運ぶと、朝に見かけた状態のままそれは置かれていた。
『買い物お願いね』
一言簡潔に書かれたメモ用紙の横には、千円札三枚、と『10%OFF』と一面に大きく書かれた割引券もある。いつやら母がスーパーに買い物に行った際に貰ってきたものらしい。
「これ見たことあるな……」
数秒思案した後、先程放り投げた鞄から財布を取り出した。中を開けると、今まさにテーブルに置かれている割引券と同じ物が出てきて、ゆっくりと抜き取る。そういえば、私も先日買い物に行った時に一枚貰っていたことを思い出した。
割引券に書かれてある小さな字を追うと『ひと会計につき一枚のみ使用可能』という表記がある。
二枚あっても仕方がないだろうが、せっかくあるのだ。結局二枚とも私の財布に収まることとなった。
* * *
スーパーに入ると、時間帯のせいか店内はかなり賑わっていた。
人混みを上手く縫いながら目的の食材を買い物カゴにポンポンと軽快に入れていく。何回も来ているので、野菜の目利きなど最早お手のものである。
「あっ」
順々に店内の奥の方に入っていくと、不意に目に入ったものに思わず声を上げてその場で立ち止まった。
綺麗なミントグリーンの髪。
黒と白を基調としたスタイリッシュな服装。
周りにいる女性客よりも背が高いからか頭ひとつ分飛び出ているあの後ろ姿は――
「――亥清くん?」
見たことある後ろ姿だと思えば、亥清くんじゃないか。
あまりジロジロ見るのはよくないと分かっていても、亥清くんが私の存在に気付いていないのをいいことに後ろ姿を目で追う。
片手に買い物カゴを持ち、もう片方の手で壁棚に並んでいる食材を手に取ってはカゴに放り込んでいる。その動作には一切迷いがないから、もしかしたらよく買い物をしにこのスーパーに訪れているのかもしれない。――と、そこまで考えて、はたと気付く。
私が今探している物が並んでいる陳列棚の前に亥清くんがいるのだが、さあ困った。
このまま何食わぬ顔で食材を取って素早く撤退すればいい話なのだが、どうにも行きづらい。
そもそも亥清くんは私を見てもクラスメイトだと気付かない可能性もあるのだが、そうは言っても目が合ってしまったら何だか気まずい。
迷った挙句、結局亥清くんがその場を離れるまで離れたところで時間を潰すことに決めた。
そう思い至り、早速お菓子コーナーを目指そうと歩き出した、その時――
「あっ」
「え?」
思いっきり目が合ってしまった。
しーん、と静まり返っている家に帰ってくると、誰も咎める人がいないのを良いことにリビングに入った途端そこら辺に鞄を置く。そして、着替えないままソファに身を投げた。
返答が返ってこないと分かっていても、帰ってきたらどうしても口にしてしまう言葉だった。
こうして帰って来ても共働きの両親が家にいることなんて殆ど無く、逆に夜遅くに帰ってくるふたりを『おかえり』と出迎えることの方が圧倒的に多い。
どちらも忙しい身であるから、休日である土日ですら一日中家を空けていることもあるのだ。
幼い頃はこの静かな家にひとりでいるのは寂しくて、毎日のように友達を連れ出して外に遊びに行っていたことを思い出した。今では寂しさなど感じなくなったが、現在はその時間をアルバイトに費やしている。
「――はっ、買い物!」
目を瞑りながらボーッとしていると、おつかいを頼まれていたことを思い出し勢いよく飛び起きた。
厳密にいうと、今朝家を出る前にリビングのテーブルにメモ用紙がポツンと置かれていたのを見つけただけなのだが。
そのまあまテーブルまで足を運ぶと、朝に見かけた状態のままそれは置かれていた。
『買い物お願いね』
一言簡潔に書かれたメモ用紙の横には、千円札三枚、と『10%OFF』と一面に大きく書かれた割引券もある。いつやら母がスーパーに買い物に行った際に貰ってきたものらしい。
「これ見たことあるな……」
数秒思案した後、先程放り投げた鞄から財布を取り出した。中を開けると、今まさにテーブルに置かれている割引券と同じ物が出てきて、ゆっくりと抜き取る。そういえば、私も先日買い物に行った時に一枚貰っていたことを思い出した。
割引券に書かれてある小さな字を追うと『ひと会計につき一枚のみ使用可能』という表記がある。
二枚あっても仕方がないだろうが、せっかくあるのだ。結局二枚とも私の財布に収まることとなった。
* * *
スーパーに入ると、時間帯のせいか店内はかなり賑わっていた。
人混みを上手く縫いながら目的の食材を買い物カゴにポンポンと軽快に入れていく。何回も来ているので、野菜の目利きなど最早お手のものである。
「あっ」
順々に店内の奥の方に入っていくと、不意に目に入ったものに思わず声を上げてその場で立ち止まった。
綺麗なミントグリーンの髪。
黒と白を基調としたスタイリッシュな服装。
周りにいる女性客よりも背が高いからか頭ひとつ分飛び出ているあの後ろ姿は――
「――亥清くん?」
見たことある後ろ姿だと思えば、亥清くんじゃないか。
あまりジロジロ見るのはよくないと分かっていても、亥清くんが私の存在に気付いていないのをいいことに後ろ姿を目で追う。
片手に買い物カゴを持ち、もう片方の手で壁棚に並んでいる食材を手に取ってはカゴに放り込んでいる。その動作には一切迷いがないから、もしかしたらよく買い物をしにこのスーパーに訪れているのかもしれない。――と、そこまで考えて、はたと気付く。
私が今探している物が並んでいる陳列棚の前に亥清くんがいるのだが、さあ困った。
このまま何食わぬ顔で食材を取って素早く撤退すればいい話なのだが、どうにも行きづらい。
そもそも亥清くんは私を見てもクラスメイトだと気付かない可能性もあるのだが、そうは言っても目が合ってしまったら何だか気まずい。
迷った挙句、結局亥清くんがその場を離れるまで離れたところで時間を潰すことに決めた。
そう思い至り、早速お菓子コーナーを目指そうと歩き出した、その時――
「あっ」
「え?」
思いっきり目が合ってしまった。