隣席の亥清くんと友達になりました
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「――よし」
「あんまり濡れなくてよかったね」
「出来るだけ鞄は隠しながら走ってきたからな」
数枚重ねた新聞紙の上に教科書を広げる。玄関先でも確認したが、私達自身は結構濡れてしまったものの鞄の中身が無事だったのは不幸中の幸いだった。――無理矢理引っ張って走らせた私が言うのも何だが――因みにそのことを謝れば「いいよ、雨が強まる前に連れてきてくれて助かった」と言ってくれた。
あまり濡れていないとはいえ乾くまでに時間が掛かるから、亥清くんの物はここで完全に乾かし切ることは難しいだろう。
「麦茶飲む?」
「うん、さんきゅ」
キッチンで淹れてきた麦茶をお盆にふたつ乗せてリビングに戻れば、濡れてしまった物を粗方出し終えたのか控えめに部屋を見渡している様子の亥清くんがいた。声を掛ければこちらを振り向き、グラスをテーブルに下ろしてくれる。動かした衝撃で中の氷がカラン、と音を立てた。
お盆をテーブルの端に置きグラスを傾けて乾いた喉を潤しながら、先程から物凄い音がなっている窓に目を向けると、風が出てきた影響で雨の勢いが増しているようだった。これは帰ってきて正解だったようだ。
亥清くんは雨が弱まるまで様子を見てから家を出ることになるだろう。それまでくだらない話を交わしながら時間をつぶしていると、近くに置いてあった私のスマホからラビチャの通知音が聞こえた。スマホを手に取ると、アルバイト先の四葉くんファンの子から怒涛のトークが並んでおり、笑ってしまう。
内容としては言わずもがな、殆どがIDOLiSH7の話である。こうして度々連絡をくれるのだ。あの日私が番組に興味を持ったことが相当嬉しかったらしい。実際、最近では予定がない日に”キミと愛なNight”が放送されていれば観ているくらいだ。
「そういえば、この前亥清くんが”キミと愛なNight”に出てたよ」
彼女からのラビチャを読んでいると、段々アルバイト先のバックヤードで観せてもらった”キミと愛なNight”が蘇ってきてしまった。案の定、亥清くんは頭にはてなマークを浮かべている。
「オレ最近出演してないけど?」
「VTRに顔半分だけ映り込んでた」
「だからラビッターのトレンドにオレの名前が上がってたのか……」
私達も見切れた亥清くんの姿を見つけてギャーギャー言っていたが、やはりファンも同じ反応をしていたらしい。
「……っていうか、あんたIDOLiSH7のファンだったっけ?」
「ファンっていうとちょっと違う気もするけど――前にバイト先の子に番組を見せてもらったらかなり面白くってさ、最近観るようになったんだ」
「ふーん」
どこか適当で気の抜けた返事が返ってきたと思えば、数拍置いてまた亥清くんが口を開いた。
「じゃあ、”キミと愛なNight”の後に放送してる番組は観た?」
「観てないよ。何かやってたっけ」
「オレ出てたんだけど!」
「知らなかった……」
信じられないとでも言うような表情で顔を顰め、何やらスマホを操作し出した。そしてすぐさま目の前に出されたのは、近々放送する特番の公式ページだった。
「次の土曜日! 音楽番組にŹOOĻが出るから絶対観ろよな!」
二十一時な、と出演時間も付け加えて凄む亥清くんに思わず背中を仰け反らせた。その体勢で今週の土曜日の予定を擦り合わせる。確かこれといった予定はなかったはずだ。
「じゃあ、覚えてたら」
「当日ラビチャ入れるから観ろ」
「本人から出演通知が来るなんて贅沢だな……」
「そうだよ、超贅沢だ」
あまりの勢いに笑いながらそう返すと、亥清くんは戯けたような表情を見せる。そして、ふたりともなく吹き出した。
暫くの間部屋に笑い声が響く。この家の中がこんなにも賑やかなのは久しぶりかもしれない。
コップの中の氷が音を立てる。しかし、いつもより近い距離で、且つその音を上回る声量で楽しげに話をする私達の耳には一切入らなかった。
「あんまり濡れなくてよかったね」
「出来るだけ鞄は隠しながら走ってきたからな」
数枚重ねた新聞紙の上に教科書を広げる。玄関先でも確認したが、私達自身は結構濡れてしまったものの鞄の中身が無事だったのは不幸中の幸いだった。――無理矢理引っ張って走らせた私が言うのも何だが――因みにそのことを謝れば「いいよ、雨が強まる前に連れてきてくれて助かった」と言ってくれた。
あまり濡れていないとはいえ乾くまでに時間が掛かるから、亥清くんの物はここで完全に乾かし切ることは難しいだろう。
「麦茶飲む?」
「うん、さんきゅ」
キッチンで淹れてきた麦茶をお盆にふたつ乗せてリビングに戻れば、濡れてしまった物を粗方出し終えたのか控えめに部屋を見渡している様子の亥清くんがいた。声を掛ければこちらを振り向き、グラスをテーブルに下ろしてくれる。動かした衝撃で中の氷がカラン、と音を立てた。
お盆をテーブルの端に置きグラスを傾けて乾いた喉を潤しながら、先程から物凄い音がなっている窓に目を向けると、風が出てきた影響で雨の勢いが増しているようだった。これは帰ってきて正解だったようだ。
亥清くんは雨が弱まるまで様子を見てから家を出ることになるだろう。それまでくだらない話を交わしながら時間をつぶしていると、近くに置いてあった私のスマホからラビチャの通知音が聞こえた。スマホを手に取ると、アルバイト先の四葉くんファンの子から怒涛のトークが並んでおり、笑ってしまう。
内容としては言わずもがな、殆どがIDOLiSH7の話である。こうして度々連絡をくれるのだ。あの日私が番組に興味を持ったことが相当嬉しかったらしい。実際、最近では予定がない日に”キミと愛なNight”が放送されていれば観ているくらいだ。
「そういえば、この前亥清くんが”キミと愛なNight”に出てたよ」
彼女からのラビチャを読んでいると、段々アルバイト先のバックヤードで観せてもらった”キミと愛なNight”が蘇ってきてしまった。案の定、亥清くんは頭にはてなマークを浮かべている。
「オレ最近出演してないけど?」
「VTRに顔半分だけ映り込んでた」
「だからラビッターのトレンドにオレの名前が上がってたのか……」
私達も見切れた亥清くんの姿を見つけてギャーギャー言っていたが、やはりファンも同じ反応をしていたらしい。
「……っていうか、あんたIDOLiSH7のファンだったっけ?」
「ファンっていうとちょっと違う気もするけど――前にバイト先の子に番組を見せてもらったらかなり面白くってさ、最近観るようになったんだ」
「ふーん」
どこか適当で気の抜けた返事が返ってきたと思えば、数拍置いてまた亥清くんが口を開いた。
「じゃあ、”キミと愛なNight”の後に放送してる番組は観た?」
「観てないよ。何かやってたっけ」
「オレ出てたんだけど!」
「知らなかった……」
信じられないとでも言うような表情で顔を顰め、何やらスマホを操作し出した。そしてすぐさま目の前に出されたのは、近々放送する特番の公式ページだった。
「次の土曜日! 音楽番組にŹOOĻが出るから絶対観ろよな!」
二十一時な、と出演時間も付け加えて凄む亥清くんに思わず背中を仰け反らせた。その体勢で今週の土曜日の予定を擦り合わせる。確かこれといった予定はなかったはずだ。
「じゃあ、覚えてたら」
「当日ラビチャ入れるから観ろ」
「本人から出演通知が来るなんて贅沢だな……」
「そうだよ、超贅沢だ」
あまりの勢いに笑いながらそう返すと、亥清くんは戯けたような表情を見せる。そして、ふたりともなく吹き出した。
暫くの間部屋に笑い声が響く。この家の中がこんなにも賑やかなのは久しぶりかもしれない。
コップの中の氷が音を立てる。しかし、いつもより近い距離で、且つその音を上回る声量で楽しげに話をする私達の耳には一切入らなかった。