隣席の亥清くんと友達になりました
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七月半ばになり、ついに猛暑に苦しめられる日々が近づいてきた。
担任の形だけの挨拶が終わり空調が効いた教室を一歩出れば、酷い暑さを感じると共に嫌な湿気が肌にまとわりついて思わず顔を顰める。私の後ろに続いて出てきた友人も私と同じような反応を見せた。
あと数日で夏休みが始まる。それに先駆けて、最近では各教科で夏休みの課題を与えられることが増え、受け取る度に「この間試験終わったばかりなのに」というため息が教室を駆け巡ったのは言うまでもなかった。
本来は夏休みがやってくることを喜ぶ人が大半だ。しかし、私の場合はあまり嬉しいとは思わなかった。
常に両親が不在である家にひとりでいることが苦手な私は、長期休みが近付いてくると外に出る予定を作るのに必死なのだ。高校生になってからはアルバイトに明け暮れていたのだが、今年の春休みについに店長に「かなりシフト入れてたけど、無理しちゃダメだよ」と心配されてしまい、今回の夏休みはセーブすることになるかもしれない。暇な夏休みを過ごすことになりそうだ。
「あっ、いた」
今日は部活が無いという友人と昇降口までの廊下を歩いていると、友人が向こう側から歩いてくる人影を指さした。その指を目で追えば、先にいるのは友人の彼氏だった。
こちらに手を振る彼氏に友人も同じ仕草で返し、私に「また明日!」と可愛らしい笑顔で颯爽と去っていく。反射的に私も友人の背中に向かって手を振ったが、きっと彼女は気付いていないだろう。ふたりが手を繋いで視界からいなくなったところで、私もゆっくりと歩き出した。
昇降口を出てから校門までは少々距離がある。その道中には大きなグラウンドがあり、放課後は運動部が交代で使用しているらしいのだが、どうやら今日はサッカー部が練習しているらしい。蛍光色のユニフォームを着た部員がサッカーボールを追いかけている光景がここから見える。
「あ、あの人……」
こちらに背を向けサッカーゴール目掛けてリフティングしているのは、確かクラスでも度々話題に出る先輩だった筈だ。
彼はサッカー部のキャプテンを務めている三年生で、優秀なスペックやルックスを持ち合わせており、まるで漫画に出てきたような人である。更に言えば風の噂で帰国子女だという話を聞いた。彼を見る度、”天は二物を与えず”という言葉が頭に浮かんでは首を傾げている。
友人は自分の彼氏に夢中だし私もあまり興味が向かないから、お互い彼について話す機会は無い。しかし、教室にいれば他のクラスメイトが話している会話が自然と耳に入ってくることも少なくないのだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか足が止まっていたらしい。今自分が道のど真ん中に突っ立っていることに気が付いた。
早く帰ろうと慌てて歩き始めた時、グラウンドから複数の大声が聞こえて再び足を止めてしまう。
「――えっ? わっ」
サッカー部の誰かが思いっきり蹴ったボールが高所で大きく曲線を描き、こちらに向かって飛んできた。驚きで咄嗟に動けずその場でたじろいでいると、ボールは私がいる手前で地面に落ち、そのままコロコロと足元まで転がってくる。
自分に当たらなかったことで安心したのも束の間、果たしてこのボールをどうすればいいのか。蹴ってグラウンドに戻せばいいのだろうか。でも、蹴ったところで見当違いな方向に飛んでいってしまうのは想像に容易い。
暫くの間ボールを見下ろしていると、遠くから「おーい!」という声が聞こえて顔を上げた。
「蹴って!」
口元に手を添えてこちらに向かって声をかけてきたのは、私がついさっきまで様子を眺めていたキャプテンだった。
蹴る――え? やっぱり蹴るの?
その場であたふたするもついに意を決し、とりあえず力一杯蹴ってみた。
「あっ、やば」
思っていた通りボールは変な方向に曲がり、キャプテンが待ち構えている手前で地面に落ちてしまった。
それを駆け足で取りに行き、ボールを手に持った状態でこちらに視線が向いた瞬間「ごめんなさい!」と手を合わせて謝る。この距離だから声は恐らく聞こえていないだろう。キャプテンは笑顔で手を振りながら背を向けてしまった。
「……確かにイケメンだな」
ああいう気さくなところも理由のひとつなのかもしれない。少しだけ人気な理由が分かった気がする。
再度グラウンドをボーッと見つめながら考えていると、後ろからふいに肩を叩かれた。
担任の形だけの挨拶が終わり空調が効いた教室を一歩出れば、酷い暑さを感じると共に嫌な湿気が肌にまとわりついて思わず顔を顰める。私の後ろに続いて出てきた友人も私と同じような反応を見せた。
あと数日で夏休みが始まる。それに先駆けて、最近では各教科で夏休みの課題を与えられることが増え、受け取る度に「この間試験終わったばかりなのに」というため息が教室を駆け巡ったのは言うまでもなかった。
本来は夏休みがやってくることを喜ぶ人が大半だ。しかし、私の場合はあまり嬉しいとは思わなかった。
常に両親が不在である家にひとりでいることが苦手な私は、長期休みが近付いてくると外に出る予定を作るのに必死なのだ。高校生になってからはアルバイトに明け暮れていたのだが、今年の春休みについに店長に「かなりシフト入れてたけど、無理しちゃダメだよ」と心配されてしまい、今回の夏休みはセーブすることになるかもしれない。暇な夏休みを過ごすことになりそうだ。
「あっ、いた」
今日は部活が無いという友人と昇降口までの廊下を歩いていると、友人が向こう側から歩いてくる人影を指さした。その指を目で追えば、先にいるのは友人の彼氏だった。
こちらに手を振る彼氏に友人も同じ仕草で返し、私に「また明日!」と可愛らしい笑顔で颯爽と去っていく。反射的に私も友人の背中に向かって手を振ったが、きっと彼女は気付いていないだろう。ふたりが手を繋いで視界からいなくなったところで、私もゆっくりと歩き出した。
昇降口を出てから校門までは少々距離がある。その道中には大きなグラウンドがあり、放課後は運動部が交代で使用しているらしいのだが、どうやら今日はサッカー部が練習しているらしい。蛍光色のユニフォームを着た部員がサッカーボールを追いかけている光景がここから見える。
「あ、あの人……」
こちらに背を向けサッカーゴール目掛けてリフティングしているのは、確かクラスでも度々話題に出る先輩だった筈だ。
彼はサッカー部のキャプテンを務めている三年生で、優秀なスペックやルックスを持ち合わせており、まるで漫画に出てきたような人である。更に言えば風の噂で帰国子女だという話を聞いた。彼を見る度、”天は二物を与えず”という言葉が頭に浮かんでは首を傾げている。
友人は自分の彼氏に夢中だし私もあまり興味が向かないから、お互い彼について話す機会は無い。しかし、教室にいれば他のクラスメイトが話している会話が自然と耳に入ってくることも少なくないのだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか足が止まっていたらしい。今自分が道のど真ん中に突っ立っていることに気が付いた。
早く帰ろうと慌てて歩き始めた時、グラウンドから複数の大声が聞こえて再び足を止めてしまう。
「――えっ? わっ」
サッカー部の誰かが思いっきり蹴ったボールが高所で大きく曲線を描き、こちらに向かって飛んできた。驚きで咄嗟に動けずその場でたじろいでいると、ボールは私がいる手前で地面に落ち、そのままコロコロと足元まで転がってくる。
自分に当たらなかったことで安心したのも束の間、果たしてこのボールをどうすればいいのか。蹴ってグラウンドに戻せばいいのだろうか。でも、蹴ったところで見当違いな方向に飛んでいってしまうのは想像に容易い。
暫くの間ボールを見下ろしていると、遠くから「おーい!」という声が聞こえて顔を上げた。
「蹴って!」
口元に手を添えてこちらに向かって声をかけてきたのは、私がついさっきまで様子を眺めていたキャプテンだった。
蹴る――え? やっぱり蹴るの?
その場であたふたするもついに意を決し、とりあえず力一杯蹴ってみた。
「あっ、やば」
思っていた通りボールは変な方向に曲がり、キャプテンが待ち構えている手前で地面に落ちてしまった。
それを駆け足で取りに行き、ボールを手に持った状態でこちらに視線が向いた瞬間「ごめんなさい!」と手を合わせて謝る。この距離だから声は恐らく聞こえていないだろう。キャプテンは笑顔で手を振りながら背を向けてしまった。
「……確かにイケメンだな」
ああいう気さくなところも理由のひとつなのかもしれない。少しだけ人気な理由が分かった気がする。
再度グラウンドをボーッと見つめながら考えていると、後ろからふいに肩を叩かれた。