隣席の亥清くんと友達になりました
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今日のバイト先は、休日だからか普段より人の出入りが激しい。それに伴いこの時間帯は従業員の人数が増やされている筈なのだが、それでも尚忙しいのは何故なのかと嘆きたくなるのをぐっと堪えた。先輩にこの愚痴を溢せば共感してくれるのだろうが、生憎彼はキッチンでせっせと調理に励んでいる。
バイト以外で特にこれといった用事がない私はバイト三昧な休日を送っており、今週も例に漏れず開店時間から出勤していた。要は暇なのだ。
「朝倉さん、もうあがっていいよ。お疲れ様」
「お疲れ様です!」
先輩がキッチンから顔を出して、表で片付けをしていた私に声を掛けてくれる。店内の壁に掛けられたお洒落な時計を見ると丁度十七時になるところで、もう退勤する時間になっていた。
現在の店内はかなり落ち着いていて、数十分前まで目が回りそうな程忙しかったのが嘘みたいに静かだ。店内に響くゆったりとした曲調のBGMが寂然さを増幅させているのかもしれない。
近くでテーブルを拭いていた新人の女の子に声を掛けて、バックヤードへと引っ込む。自分の荷物が置いてあるロッカー室まで歩いていくと、何やら陽気な話し声や笑い声が聞こえてきて首を傾げた。出勤してきた従業員が来ているのだろうか。それにしても人数が多い気がするが。
「あっ、蒼ちゃん!お疲れ様!」
疑問に思いながらもドアをノックしてから部屋に入ると、今しがた出勤してきたであろう同い年の女の子が片手をヒラヒラと振りながら笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様。――なんか動画でも観てた?」
人が沢山いると思っていたロッカー室は彼女ひとりしかおらず、どうやら手に持っているスマホから音が聞こえてきているようだ。私の問いに笑顔で頷いた。
「”キミと愛なNight”観てた!番組が放送してた時丁度バイトだったから観てないの」
”キミと愛なNight”といえば、IDOLiSH7の冠番組だ。教室にいるとクラスメイトが話しているのをよく耳にする為、番組名はしっかりと覚えている。更に言えばどんな番組なのか、いつテレビで放送されているのか等は知っているし、何度か観たこともあった。同じクラスの同級生がテレビに出ている姿は、学校で見るよりも輝いて見えたのを覚えている。
「誰のファンなの?」
「環くん!!」
「おわっ」
いきなり身を乗り出して大きな声を出すものだから思わずたじろいだ。いつ会っても明るくて活発な人だが、こんなにもテンションが高いところを見るのは珍しいように思う。
スマホから聞こえる楽しそうな声に釣られて、すぐに帰ろうと思っていた気持ちが萎んでしまった。まだここにいるのか聞けば、実は出勤時間よりも早く着いてしまったようで暫くはここで待機しているとのことだった。「私も観てもいい?」と聞くと快く受け入れてくれた為、お言葉に甘えて一緒に動画を見始める。
すると、四葉くんと七瀬陸くんが和気あいあいと話している写真が出てきて、あるものが映り込んでいるのを見つけて画面に向かって指をさした。
「亥清くんだ」
「え!?」
ふたりの写真の後ろに見覚えのあるミントグリーンが見え、半ば無意識に声を上げる。彼女は四葉くんに気を取られていて見逃したらしく「どこ!?」と驚きながらいそいそと巻き戻し始めた。
「悠くんはね、環くんや一織くんと仲が良いらしいよ! 確か三人共同じ高校に通ってるはず」
――仲良いです。三人で帰ってるところをよく見かけます。
既知の情報に内心ドキッとして一瞬固まってしまったが、不自然にならないようにとりあえず相槌を打っておいた。
それからもアイドル同士の関係性やエピソードについての解説を聞きながら一緒に動画を観進めていくと、ふと気になったことを聞いてみた。
「亥清くんに詳しいね」
この人の好きなアイドルは四葉くんで、亥清くんとは別のグループに所属している。最早亥清くんのファンでもあるのではないかと思えるくらいにはいろんなことを知っている。
「うん、だって環くんが悠くんの話よくするから詳しくもなるよ!」
四葉くんの通学鞄についていた王様プリンのキーホルダーを見ながらキョトンとした後、笑顔でそう返してきた。恐らく四葉くん――のみならずIDOLiSH7のメンバーも――が出演した番組は勿論、ラジオや雑誌等様々な媒体を駆使して彼らを追いかけ応援しているらしい。その熱量に膝を打った。
ついこの間亥清くんと初めて話し、数ヶ月経った今ではそれなりに仲良い関係になっていると思っていた。しかし、当然だけどファンの方が断然詳しいという事実に、言葉にするには難しい、漠然とした不思議な気持ちが湧き上がった――気がした。
バイト以外で特にこれといった用事がない私はバイト三昧な休日を送っており、今週も例に漏れず開店時間から出勤していた。要は暇なのだ。
「朝倉さん、もうあがっていいよ。お疲れ様」
「お疲れ様です!」
先輩がキッチンから顔を出して、表で片付けをしていた私に声を掛けてくれる。店内の壁に掛けられたお洒落な時計を見ると丁度十七時になるところで、もう退勤する時間になっていた。
現在の店内はかなり落ち着いていて、数十分前まで目が回りそうな程忙しかったのが嘘みたいに静かだ。店内に響くゆったりとした曲調のBGMが寂然さを増幅させているのかもしれない。
近くでテーブルを拭いていた新人の女の子に声を掛けて、バックヤードへと引っ込む。自分の荷物が置いてあるロッカー室まで歩いていくと、何やら陽気な話し声や笑い声が聞こえてきて首を傾げた。出勤してきた従業員が来ているのだろうか。それにしても人数が多い気がするが。
「あっ、蒼ちゃん!お疲れ様!」
疑問に思いながらもドアをノックしてから部屋に入ると、今しがた出勤してきたであろう同い年の女の子が片手をヒラヒラと振りながら笑顔で迎えてくれた。
「お疲れ様。――なんか動画でも観てた?」
人が沢山いると思っていたロッカー室は彼女ひとりしかおらず、どうやら手に持っているスマホから音が聞こえてきているようだ。私の問いに笑顔で頷いた。
「”キミと愛なNight”観てた!番組が放送してた時丁度バイトだったから観てないの」
”キミと愛なNight”といえば、IDOLiSH7の冠番組だ。教室にいるとクラスメイトが話しているのをよく耳にする為、番組名はしっかりと覚えている。更に言えばどんな番組なのか、いつテレビで放送されているのか等は知っているし、何度か観たこともあった。同じクラスの同級生がテレビに出ている姿は、学校で見るよりも輝いて見えたのを覚えている。
「誰のファンなの?」
「環くん!!」
「おわっ」
いきなり身を乗り出して大きな声を出すものだから思わずたじろいだ。いつ会っても明るくて活発な人だが、こんなにもテンションが高いところを見るのは珍しいように思う。
スマホから聞こえる楽しそうな声に釣られて、すぐに帰ろうと思っていた気持ちが萎んでしまった。まだここにいるのか聞けば、実は出勤時間よりも早く着いてしまったようで暫くはここで待機しているとのことだった。「私も観てもいい?」と聞くと快く受け入れてくれた為、お言葉に甘えて一緒に動画を見始める。
すると、四葉くんと七瀬陸くんが和気あいあいと話している写真が出てきて、あるものが映り込んでいるのを見つけて画面に向かって指をさした。
「亥清くんだ」
「え!?」
ふたりの写真の後ろに見覚えのあるミントグリーンが見え、半ば無意識に声を上げる。彼女は四葉くんに気を取られていて見逃したらしく「どこ!?」と驚きながらいそいそと巻き戻し始めた。
「悠くんはね、環くんや一織くんと仲が良いらしいよ! 確か三人共同じ高校に通ってるはず」
――仲良いです。三人で帰ってるところをよく見かけます。
既知の情報に内心ドキッとして一瞬固まってしまったが、不自然にならないようにとりあえず相槌を打っておいた。
それからもアイドル同士の関係性やエピソードについての解説を聞きながら一緒に動画を観進めていくと、ふと気になったことを聞いてみた。
「亥清くんに詳しいね」
この人の好きなアイドルは四葉くんで、亥清くんとは別のグループに所属している。最早亥清くんのファンでもあるのではないかと思えるくらいにはいろんなことを知っている。
「うん、だって環くんが悠くんの話よくするから詳しくもなるよ!」
四葉くんの通学鞄についていた王様プリンのキーホルダーを見ながらキョトンとした後、笑顔でそう返してきた。恐らく四葉くん――のみならずIDOLiSH7のメンバーも――が出演した番組は勿論、ラジオや雑誌等様々な媒体を駆使して彼らを追いかけ応援しているらしい。その熱量に膝を打った。
ついこの間亥清くんと初めて話し、数ヶ月経った今ではそれなりに仲良い関係になっていると思っていた。しかし、当然だけどファンの方が断然詳しいという事実に、言葉にするには難しい、漠然とした不思議な気持ちが湧き上がった――気がした。