隣席の亥清くんと友達になりました
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私の隣の席は空席であることが多い。
それは隣席に限った話ではなく教室を見渡しても欠席者が目立つのだが、これは日常茶飯事だったりするのだ。
というのも、この学校は学生の傍ら芸能活動をしている生徒が数多く通っており、テレビやSNSでよく見かけるあの人やこの人なんかも卒業生だという話を度々噂で耳にする。最初入学した時は名が知れた有名人ばかりで目眩を起こしかけたが、二年生になった今ではもう慣れてしまった。
そんな私が何故、あの人気アイドルの亥清悠の隣席に落ち着くことになったのか――答えは単なるくじ運だった。
席替えをする、と担任が両手で抱える程の大きさの段ボール箱と共に教壇に立った日、予告もなく突如始まった席替えに困惑しつつも皆に倣ってくじを引けば、なんと一番後ろの角席だったのだ。よし、とひとりで密やかに喜んでいると、担任が欠席者分のくじを適当に引き、席順を黒板に書き出しているのを眺めた。正直、自分の近くの席に誰が座るかなんてあまり気にしていなかった。――しかし、私の隣席になるであろう場所に名前が埋められた瞬間、絶句することになる。
「今決まった席で黒板が見難い生徒は?――大丈夫そうだな。それじゃあ、今期はこの席順で」
大丈夫なわけあるか。
そう担任に訴える勇気も乏しく、私が呆けている間に話は迫っている試験へと移ってしまう。
“亥清”という文字が私の名前の横に並んでいる黒板がどうしても気になってしまい、担任の話なんて一切耳に入ってこなかった。
――これから女子生徒からの嫉妬が混じった羨望の眼差しに晒されることになるのか。
待っているであろう未来がありありと想像出来、思わずため息を溢してしまったのだった。
* * *
隣の席が亥清くんになったことで何か変わったかと聞かれれば、一切ない。強いて言えば、席順が変わったことで後方から教室を見渡せるようになったくらいだ。というか、そもそも亥清くんは仕事で欠席しがちな為、あまり学校に来ないのだから顔を合わせることが少ない。
私にとって亥清くんは、たまたま隣の席になったクラスメイトだ。それ以上でも以下でもない。
最初こそクラスメイト――主に女子――から羨ましいと言わんばかりの視線を向けられることもあったが、一ヶ月程経った今では興味が削がれたのかパタリとなくなった。いい傾向である。
しかし、中には未だにその状況に置かれている私を面白がる物好きもいるもので、今だっていきなり蒸し返し出してはひとりで盛り上がる友人に思わず白い目を向けて、軽く肩にパンチを入れた。
「痛っ、ごめんって!」
「謝りながら笑わないでくれる?」
そこまで痛くないはずなのに大袈裟に肩を摩ってみせながら、それでも尚笑う友人に今度はため息が溢れてしまった。何がそんなに面白いのやら。
「蒼って恋愛関係の話、興味ないでしょ」
「うん」
私が惚気話聞かせても全く反応無いし! と嘆く友人は、笑いながらもどこか不満げだ。
この友人は入学してすぐに出来た友達で、部活や用事が無い日は今みたいに並んで登下校をする程には仲が良い。
そんな友人には二年生に進級してすぐに付き合い始めた彼氏がいるのだが、私がその手の話に興味が無いことを分かっているにも関わらず、お構いなしに惚気話を聞かせてくるのだ。恐らく話をする相手を間違えている。
「彼氏が出来たら教えてね」
「期待するだけ損だと思うけど」
私の肩に手を置いてポンポンと叩き、離れていく。どうしても私と恋バナをしたいらしい。
「あっ、猫だ」
軽口を叩き合いながら歩いていると、塀の上で猫が気持ち良さそうに寛いでいるのを見つけて足を止めた。そんな私に気付いた友人も立ち止まり、下から猫の顔を覗き込んだ。
「可愛い! どこの子だろう?」
友人が少し背伸びをしながら猫に手を差し出すと、猫はゆったりとした動きでその手に頬擦りをした。猫の可愛さにやられたのか完全に表情が緩んでいる。
「この辺に――」
にゃーん。
「あっ」
住んでるのかな、と言いながら私も友人と同じように手を差し出した途端、猫が塀の向こうに行ってしまった。
触らせてもらえなかったことを少し残念に思いながら引っ込めた手を見つめていると、隣から笑い声が聞こえてきた。
「今、明らかに蒼の手から逃げたね」
「えぇ……」
猫、好きなんだけどな。
またもやクスクスと笑い出した友人を肘でつつき、再び歩き出した。
それは隣席に限った話ではなく教室を見渡しても欠席者が目立つのだが、これは日常茶飯事だったりするのだ。
というのも、この学校は学生の傍ら芸能活動をしている生徒が数多く通っており、テレビやSNSでよく見かけるあの人やこの人なんかも卒業生だという話を度々噂で耳にする。最初入学した時は名が知れた有名人ばかりで目眩を起こしかけたが、二年生になった今ではもう慣れてしまった。
そんな私が何故、あの人気アイドルの亥清悠の隣席に落ち着くことになったのか――答えは単なるくじ運だった。
席替えをする、と担任が両手で抱える程の大きさの段ボール箱と共に教壇に立った日、予告もなく突如始まった席替えに困惑しつつも皆に倣ってくじを引けば、なんと一番後ろの角席だったのだ。よし、とひとりで密やかに喜んでいると、担任が欠席者分のくじを適当に引き、席順を黒板に書き出しているのを眺めた。正直、自分の近くの席に誰が座るかなんてあまり気にしていなかった。――しかし、私の隣席になるであろう場所に名前が埋められた瞬間、絶句することになる。
「今決まった席で黒板が見難い生徒は?――大丈夫そうだな。それじゃあ、今期はこの席順で」
大丈夫なわけあるか。
そう担任に訴える勇気も乏しく、私が呆けている間に話は迫っている試験へと移ってしまう。
“亥清”という文字が私の名前の横に並んでいる黒板がどうしても気になってしまい、担任の話なんて一切耳に入ってこなかった。
――これから女子生徒からの嫉妬が混じった羨望の眼差しに晒されることになるのか。
待っているであろう未来がありありと想像出来、思わずため息を溢してしまったのだった。
* * *
隣の席が亥清くんになったことで何か変わったかと聞かれれば、一切ない。強いて言えば、席順が変わったことで後方から教室を見渡せるようになったくらいだ。というか、そもそも亥清くんは仕事で欠席しがちな為、あまり学校に来ないのだから顔を合わせることが少ない。
私にとって亥清くんは、たまたま隣の席になったクラスメイトだ。それ以上でも以下でもない。
最初こそクラスメイト――主に女子――から羨ましいと言わんばかりの視線を向けられることもあったが、一ヶ月程経った今では興味が削がれたのかパタリとなくなった。いい傾向である。
しかし、中には未だにその状況に置かれている私を面白がる物好きもいるもので、今だっていきなり蒸し返し出してはひとりで盛り上がる友人に思わず白い目を向けて、軽く肩にパンチを入れた。
「痛っ、ごめんって!」
「謝りながら笑わないでくれる?」
そこまで痛くないはずなのに大袈裟に肩を摩ってみせながら、それでも尚笑う友人に今度はため息が溢れてしまった。何がそんなに面白いのやら。
「蒼って恋愛関係の話、興味ないでしょ」
「うん」
私が惚気話聞かせても全く反応無いし! と嘆く友人は、笑いながらもどこか不満げだ。
この友人は入学してすぐに出来た友達で、部活や用事が無い日は今みたいに並んで登下校をする程には仲が良い。
そんな友人には二年生に進級してすぐに付き合い始めた彼氏がいるのだが、私がその手の話に興味が無いことを分かっているにも関わらず、お構いなしに惚気話を聞かせてくるのだ。恐らく話をする相手を間違えている。
「彼氏が出来たら教えてね」
「期待するだけ損だと思うけど」
私の肩に手を置いてポンポンと叩き、離れていく。どうしても私と恋バナをしたいらしい。
「あっ、猫だ」
軽口を叩き合いながら歩いていると、塀の上で猫が気持ち良さそうに寛いでいるのを見つけて足を止めた。そんな私に気付いた友人も立ち止まり、下から猫の顔を覗き込んだ。
「可愛い! どこの子だろう?」
友人が少し背伸びをしながら猫に手を差し出すと、猫はゆったりとした動きでその手に頬擦りをした。猫の可愛さにやられたのか完全に表情が緩んでいる。
「この辺に――」
にゃーん。
「あっ」
住んでるのかな、と言いながら私も友人と同じように手を差し出した途端、猫が塀の向こうに行ってしまった。
触らせてもらえなかったことを少し残念に思いながら引っ込めた手を見つめていると、隣から笑い声が聞こえてきた。
「今、明らかに蒼の手から逃げたね」
「えぇ……」
猫、好きなんだけどな。
またもやクスクスと笑い出した友人を肘でつつき、再び歩き出した。
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