【i7】短編まとめ
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今日は家でゆっくり過ごそう、ということになったのは、ここのところ仕事続きでろくに休めていないであろう天を心配した、私のお節介から始まったことだった。「次の休み、どこかに出掛ける?」と言った天に私がそう力説すれば、どうにかして私の気持ちが伝わり二つ返事で了承してくれた結果、今二人ソファに並んで映画を観ている。今見ている映画は、前に天が観たいと言っていたミステリー映画だ。観る前に出演者を確認したところ、Re:valeの千さんの名前が載っており、仕事がない日でも天は天なんだな、と彼のワーカーホリックぶりに苦笑した。
ここが映画館ではないのをいいことに、「あの人が怪しい」「冒頭で彼女が言ってたのって伏線じゃ――」と、ああでもない、こうでもないとふたりで考察を広げながら観ていくのはとても楽しい。天は博識だから、私がいくら考えても思い付かないような発想を言ってのけるのだから尚更だ。
そうこうしているとあっという間に最後まで見終わり、エンドロールが流れ始める。天が映画のエンディングと自分の考察を擦り合わせながら話しているのを横目に、私は全く関係ないことに気を取られていた。
――髪、伸びたな。
元から長い天の前髪は今や更に長くなっていて、伸びた前髪を時折払っているのを何度か見かけていた。横から見ていても左右に分けられた前髪の間から覗く精悍な顔は見えづらい。
そういえば、昨朝の情報番組に天が生出演していた時、珍しく前髪をセンターパートにしていたことを思い出した。当然その日のSNSは大荒れしたし、私もファン同様に中々見られない天の姿を見た瞬間胸を押さえてその場でしゃがみ込んでしまったのは記憶に新しい。
「……なに?」
「あっ、ごめん」
気付かないうちに見過ぎてしまっていたらしく、私の視線に気付いて顔を上げた天に怪訝な顔をされてしまった。反射的に謝りながら首を傾げる天を見て、そんな仕草も様になるのだからずるい。
天は動いたからか、数秒前に避けた前髪がまた顔に掛かってしまったようで髪を耳に掛ける仕草をした。
「髪長いな、と思って」
「あぁ」
私の理由に納得した様子で空いてる手で前髪を弄りながら頷いた。髪が伸びたことは自分でも気にしていたらしい。
「仕事も落ち着いたし、近々切りに行こうかなって思ってる」
――今日切りに行ってもよかったのでは。
こんなに鬱陶しそうにしているのにも関わらず、私に会うことを優先してくれたことに申し訳なく思う。が、同時に込み上げてくる喜びの方が勝ってしまうのだから私はどうしようもない。
因みに天は、先日自分の髪型のことでSNSが騒がしくなっていたことを知っているらしく、「暫くはこのまあまでいけそう」と言っていた。さすがアイドルだだ。自身の需要と使い方をよく分かっている。
「あっ、ちょっと待ってて!」
天の髪を眺めているとふと思い付いて、ソファから立ち上がってリビングを出た。そのまま早歩きで寝室に向かい、ベッド横のサイドテーブルに置いてあった小さめのシュシュを手にしてさっさと天の元に戻る。
「おかえり――わっ」
いきなり動き出したかと思えば慌ただしくリビングに戻ってきた私に目を白黒させている天には気付かないふりをして、彼の正面に立つ。そのまま柔らかくて淡い色味の前髪を触った。
今日は仕事の予定は無いと聞いてはいるが、一応「いい?」と天の反応を窺いながら顔を覗き込む。急に慌ただしくなった私の様子が彼のツボを押してしまったのか、クスクスと笑いながら「どうぞ」と頷いた。
前髪をひとつに纏めて、そっと上にあげる。長いから簡単に纏まってくれると思っていたが、そう簡単にはいかなかった。しっかりケアをされた天の髪は柔らかで、それでいて指で解いても一切引っ掛かからないほどにサラサラだ。せっかく上げた前髪はシュシュを抜けて重力に逆らいスルスルと落ちてしまう。
「ふふっ」
「ちょっと、笑ってるじゃない」
「天だって――あっ、動かないで!じっとして!」
「はいはい」
天が目に掛かった前髪を振り払おうと顔を動かすものだから余計に髪が乱れてしまい嗜めると、笑いながらも動かないように徹してくれた。
「はい、できた!あはは、かわいい!」
暫くめげずにそうしていれば何とか形になり、そのまま手に持っていたシュシュで結ぶ。あっという間にちょんまげの完成である。
身体を少しだけ引いて見てみると、珍しく気の抜けた姿に仕上がってしまったようで思わず笑うと、天は自分の頭に手を持っていく。違和感があるのか上げられた前髪をちょんちょんと弄る仕草が可愛くて、更に笑ってしまった。
「似合ってる?」
「うん、凄く」
次第に天も声を出して笑い始める。部屋に私達の笑い声が響く中、ふと天に名前を呼ばれて顔を上げた。――その瞬間、今まで中途半端に空中を泳いでいた手を強く引かれたと思えば、その勢いで前に倒れ込んだ。そして、唇に柔らかいものが当たって目を見開く。
「いいかも、これ。キミの照れた顔がよく見える」
してやったり、と意地悪そうに微笑む天の表情と、不意打ちにされたキスのせいで顔に熱が集まるのを感じる。更にこれみよがしに言葉を重ねられるものだから、思わず片手で天の胸元を目一杯押し、もう片方の手で今しがた結んだちょんまげを解こうとシュシュに伸ばした。
「ダメ」
しかし、天から距離をとることもシュシュを取ることも叶わずぐるんっと視界が回り、気付けばソファと天に挟まれていた。
「もっと見たいから、外さないで」
色を含んだ天の声に反応してドクッ、と心臓が跳ねる。再び顔が近付いて唇が重なれば、天に聞こえそうなくらいに大きな心音を気にかける余裕も無くなっていた。
ここが映画館ではないのをいいことに、「あの人が怪しい」「冒頭で彼女が言ってたのって伏線じゃ――」と、ああでもない、こうでもないとふたりで考察を広げながら観ていくのはとても楽しい。天は博識だから、私がいくら考えても思い付かないような発想を言ってのけるのだから尚更だ。
そうこうしているとあっという間に最後まで見終わり、エンドロールが流れ始める。天が映画のエンディングと自分の考察を擦り合わせながら話しているのを横目に、私は全く関係ないことに気を取られていた。
――髪、伸びたな。
元から長い天の前髪は今や更に長くなっていて、伸びた前髪を時折払っているのを何度か見かけていた。横から見ていても左右に分けられた前髪の間から覗く精悍な顔は見えづらい。
そういえば、昨朝の情報番組に天が生出演していた時、珍しく前髪をセンターパートにしていたことを思い出した。当然その日のSNSは大荒れしたし、私もファン同様に中々見られない天の姿を見た瞬間胸を押さえてその場でしゃがみ込んでしまったのは記憶に新しい。
「……なに?」
「あっ、ごめん」
気付かないうちに見過ぎてしまっていたらしく、私の視線に気付いて顔を上げた天に怪訝な顔をされてしまった。反射的に謝りながら首を傾げる天を見て、そんな仕草も様になるのだからずるい。
天は動いたからか、数秒前に避けた前髪がまた顔に掛かってしまったようで髪を耳に掛ける仕草をした。
「髪長いな、と思って」
「あぁ」
私の理由に納得した様子で空いてる手で前髪を弄りながら頷いた。髪が伸びたことは自分でも気にしていたらしい。
「仕事も落ち着いたし、近々切りに行こうかなって思ってる」
――今日切りに行ってもよかったのでは。
こんなに鬱陶しそうにしているのにも関わらず、私に会うことを優先してくれたことに申し訳なく思う。が、同時に込み上げてくる喜びの方が勝ってしまうのだから私はどうしようもない。
因みに天は、先日自分の髪型のことでSNSが騒がしくなっていたことを知っているらしく、「暫くはこのまあまでいけそう」と言っていた。さすがアイドルだだ。自身の需要と使い方をよく分かっている。
「あっ、ちょっと待ってて!」
天の髪を眺めているとふと思い付いて、ソファから立ち上がってリビングを出た。そのまま早歩きで寝室に向かい、ベッド横のサイドテーブルに置いてあった小さめのシュシュを手にしてさっさと天の元に戻る。
「おかえり――わっ」
いきなり動き出したかと思えば慌ただしくリビングに戻ってきた私に目を白黒させている天には気付かないふりをして、彼の正面に立つ。そのまま柔らかくて淡い色味の前髪を触った。
今日は仕事の予定は無いと聞いてはいるが、一応「いい?」と天の反応を窺いながら顔を覗き込む。急に慌ただしくなった私の様子が彼のツボを押してしまったのか、クスクスと笑いながら「どうぞ」と頷いた。
前髪をひとつに纏めて、そっと上にあげる。長いから簡単に纏まってくれると思っていたが、そう簡単にはいかなかった。しっかりケアをされた天の髪は柔らかで、それでいて指で解いても一切引っ掛かからないほどにサラサラだ。せっかく上げた前髪はシュシュを抜けて重力に逆らいスルスルと落ちてしまう。
「ふふっ」
「ちょっと、笑ってるじゃない」
「天だって――あっ、動かないで!じっとして!」
「はいはい」
天が目に掛かった前髪を振り払おうと顔を動かすものだから余計に髪が乱れてしまい嗜めると、笑いながらも動かないように徹してくれた。
「はい、できた!あはは、かわいい!」
暫くめげずにそうしていれば何とか形になり、そのまま手に持っていたシュシュで結ぶ。あっという間にちょんまげの完成である。
身体を少しだけ引いて見てみると、珍しく気の抜けた姿に仕上がってしまったようで思わず笑うと、天は自分の頭に手を持っていく。違和感があるのか上げられた前髪をちょんちょんと弄る仕草が可愛くて、更に笑ってしまった。
「似合ってる?」
「うん、凄く」
次第に天も声を出して笑い始める。部屋に私達の笑い声が響く中、ふと天に名前を呼ばれて顔を上げた。――その瞬間、今まで中途半端に空中を泳いでいた手を強く引かれたと思えば、その勢いで前に倒れ込んだ。そして、唇に柔らかいものが当たって目を見開く。
「いいかも、これ。キミの照れた顔がよく見える」
してやったり、と意地悪そうに微笑む天の表情と、不意打ちにされたキスのせいで顔に熱が集まるのを感じる。更にこれみよがしに言葉を重ねられるものだから、思わず片手で天の胸元を目一杯押し、もう片方の手で今しがた結んだちょんまげを解こうとシュシュに伸ばした。
「ダメ」
しかし、天から距離をとることもシュシュを取ることも叶わずぐるんっと視界が回り、気付けばソファと天に挟まれていた。
「もっと見たいから、外さないで」
色を含んだ天の声に反応してドクッ、と心臓が跳ねる。再び顔が近付いて唇が重なれば、天に聞こえそうなくらいに大きな心音を気にかける余裕も無くなっていた。
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