序章
「主!急いでくれ!」
近侍である歌仙の叫び声を聞きながら、俺は背後を振り返りたい衝動を抑えながら本丸を走る。
「どうして...どうしてこんなことに...!」
*
今から3年前ーまだ16歳だった俺、安部晴人はかの有名な陰陽師、安倍晴明に連なる家系の生まれであり、遺伝なのか幼い頃から妙な物が色々見える以外はごく普通の男子高校生だった。
ある日、突然政府のナントカ機関だか組織だかの人が家に来て、俺に審神者になって欲しいと言ってきた。両親や親戚達と共に話を聞くと、どうやら「歴史改変主義者」なる連中が暗躍していて、日本の歴史を自分達の思い通りに書き換えようとしているらしい。
歴史が変わってしまえば現代がめちゃくちゃになり、最悪世界そのものが消えてしまうようで、それを阻止する為に日本刀に宿る付喪神を過去に送り、改変主義者達が送り込んだ「遡行軍」を倒す必要があると言った。そして、その日本刀に宿る付喪神を権現させ、過去の時代に送る「審神者」の才能が俺にあるようで、是非引き受けて欲しいというものだった。
歴史が変えられるのは確かに大事(おおごと)だし、今生きている子孫達の中でも唯一俺だけが持っている、妙なものが見えるというあまり嬉しくない力を活用出来ると言われてしまえば、断る理由は少なくなる。親や親戚達と一晩話し合った結果、俺はその仕事を引き受けることにした。
審神者業を始めてからは苦難の日々が続いた。初めて権現させた付喪神(刀剣男士と呼ぶらしい)の歌仙兼定を初陣で大怪我させ数日間落ち込みまくったり、資材を節約したいが為に鍛刀を渋ったり、戦場での出会いにも恵まれず、始めてから半年くらいはたった四振りで戦い抜いて組織の偉い人に苦言を提されたりと散々だったが、この3年間で力も安定し、男士の人数も着実に増えて本拠地である本丸もかなり賑やかになった。俺自身にとっても刀剣男士達は家族のようなかけがえのない存在で、誰ひとり失うことはないと思っていた。
そんなある日、出陣のノルマを終え、本丸はいつものように賑やかな団らんの時を迎えていた。だけど、突如本丸を覆う不快感のある力を感じ取り、俺は身震いをした。歴史改変主義者達が審神者を直接始末しようと、遡行軍を本丸に送り込んできのだ。一瞬にして平和だった本丸は戦場になった。慣れ親しんだ屋敷のあちこちから刀が斬り結び合う高い金属音、刀剣達の怒号、様々な物が破壊される音が聞こえる。
歌仙によって屋敷の一番奥に押し込まれた俺は、しばらくこの状況の打開策を必死に考えた。しかし、感じ取れるだけでも敵の気配の数は多く、他の本丸を管理している審神者達に救援を出したところで、彼らが来てくれる頃にはここが陥落している可能性も充分ある。何より自分自身が恐怖に駆られて考えがうまく纏まらない。すると、扉が開けられ、現れた歌仙が苦々しい顔で俺にある事を告げた。
「刀剣達がここで遡行軍を足止めし、僕が主を本丸から脱出させる」
その言葉に俺は反抗した。それはつまり、家族も同然の刀剣達を見捨てて自分だけが逃げるということだ。それならここに残って皆と共に戦いたい。しかし、俺よりも冷静だった近侍の歌仙はそれを許してくれなかった。俺が生き残りさえすればやり直せるのだと、死んでしまえば全てが終わるのだと、説得された。
「僕だって、本当はこのような決断をしたくはない...だが、こうするしかないんだ。分かってくれ、主...!」
歌仙の苦しそうな表情を見て、俺は
近侍である歌仙の叫び声を聞きながら、俺は背後を振り返りたい衝動を抑えながら本丸を走る。
「どうして...どうしてこんなことに...!」
*
今から3年前ーまだ16歳だった俺、安部晴人はかの有名な陰陽師、安倍晴明に連なる家系の生まれであり、遺伝なのか幼い頃から妙な物が色々見える以外はごく普通の男子高校生だった。
ある日、突然政府のナントカ機関だか組織だかの人が家に来て、俺に審神者になって欲しいと言ってきた。両親や親戚達と共に話を聞くと、どうやら「歴史改変主義者」なる連中が暗躍していて、日本の歴史を自分達の思い通りに書き換えようとしているらしい。
歴史が変わってしまえば現代がめちゃくちゃになり、最悪世界そのものが消えてしまうようで、それを阻止する為に日本刀に宿る付喪神を過去に送り、改変主義者達が送り込んだ「遡行軍」を倒す必要があると言った。そして、その日本刀に宿る付喪神を権現させ、過去の時代に送る「審神者」の才能が俺にあるようで、是非引き受けて欲しいというものだった。
歴史が変えられるのは確かに大事(おおごと)だし、今生きている子孫達の中でも唯一俺だけが持っている、妙なものが見えるというあまり嬉しくない力を活用出来ると言われてしまえば、断る理由は少なくなる。親や親戚達と一晩話し合った結果、俺はその仕事を引き受けることにした。
審神者業を始めてからは苦難の日々が続いた。初めて権現させた付喪神(刀剣男士と呼ぶらしい)の歌仙兼定を初陣で大怪我させ数日間落ち込みまくったり、資材を節約したいが為に鍛刀を渋ったり、戦場での出会いにも恵まれず、始めてから半年くらいはたった四振りで戦い抜いて組織の偉い人に苦言を提されたりと散々だったが、この3年間で力も安定し、男士の人数も着実に増えて本拠地である本丸もかなり賑やかになった。俺自身にとっても刀剣男士達は家族のようなかけがえのない存在で、誰ひとり失うことはないと思っていた。
そんなある日、出陣のノルマを終え、本丸はいつものように賑やかな団らんの時を迎えていた。だけど、突如本丸を覆う不快感のある力を感じ取り、俺は身震いをした。歴史改変主義者達が審神者を直接始末しようと、遡行軍を本丸に送り込んできのだ。一瞬にして平和だった本丸は戦場になった。慣れ親しんだ屋敷のあちこちから刀が斬り結び合う高い金属音、刀剣達の怒号、様々な物が破壊される音が聞こえる。
歌仙によって屋敷の一番奥に押し込まれた俺は、しばらくこの状況の打開策を必死に考えた。しかし、感じ取れるだけでも敵の気配の数は多く、他の本丸を管理している審神者達に救援を出したところで、彼らが来てくれる頃にはここが陥落している可能性も充分ある。何より自分自身が恐怖に駆られて考えがうまく纏まらない。すると、扉が開けられ、現れた歌仙が苦々しい顔で俺にある事を告げた。
「刀剣達がここで遡行軍を足止めし、僕が主を本丸から脱出させる」
その言葉に俺は反抗した。それはつまり、家族も同然の刀剣達を見捨てて自分だけが逃げるということだ。それならここに残って皆と共に戦いたい。しかし、俺よりも冷静だった近侍の歌仙はそれを許してくれなかった。俺が生き残りさえすればやり直せるのだと、死んでしまえば全てが終わるのだと、説得された。
「僕だって、本当はこのような決断をしたくはない...だが、こうするしかないんだ。分かってくれ、主...!」
歌仙の苦しそうな表情を見て、俺は
1/1ページ