01. So many people So many colors
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「それで、頼みってなんだったの?」
「ああ、そういえばそうだった」
姉妹二人きり。
昔話や生まれてくる子どもの話、それに虎徹のいくつでもあるうっかりなどで散々盛り上がった頃に友恵がそう言うまで、幸恵は自分が何のために鏑木家を訪れたのかをすっかり忘れるところであった。
「ほら、さっき話したカフェの人なんだけどね。色々教える約束になったって言ったでしょ」
幸恵はユーリのことをすっかりすべて友恵に話したわけではなかった。
道端で助けたとかお礼の話になったとか、加えて彼の困りごとに手を貸すことになったとか、口にしたのはその程度のことだ。
「ええ。それでお礼がどうのって揉めたのよね」
「まあそれは今日のカフェ代ってことで収まったんだけど、問題は色々面倒を見るのに場所がなくって」
もちろんその困り事が化粧を教えることだなんていうのも話していない。
友恵は男性がメイクしていてもスカートを履いていても気にするタイプではないが、ユーリに確認をとっていない以上幸恵が勝手に話していいような内容とも思っていなかった。
「それで、うちの方のお姉ちゃんの部屋をちょっとその人に貸してあげてもいいか聞きたくって」
「うちの方って、あのアパートの?」
「そう。お姉ちゃんが戻ってくる時とか、何かあった時の為にってそのままにしてあるんだけど」
「私は構わないけど。でも、その人男の人なのよね」
「それはそうなんだけど、何も住まわせるってわけじゃないし。お姉ちゃんが使われて嫌っていうんなら他の方法も考えるけど」
「私のことより幸恵の方こそいいの? だって、まだ二回しか会った事のない人なんでしょ?」
「そこを突かれると痛い。けど結構センシティブな問題だからオープンなカフェってわけにもいかなくて。ゴールドステージにあるような個室のカフェとかレストランもお高くってそう何度も使える物じゃないし。一応学生さんだから、ワイルドタイガーのマネージャーがホテルに連れ込むっていうのもまずいでしょ」
「一応聞くけど、恋人ってことだったり」
「ナイナイ。もしそうならちゃんと言うって
一瞬瞳を煌めかせた友恵だったが、幸恵の否定にすぐさまつまらなさそうに唇を尖らせた。
「なんだ。それなら虎徹くんがいる時にウチに連れてきてもらおうと思ったのに」
「ハハハ……。まあ、そういうわけだから。お姉ちゃんさえ良ければ、あの部屋使わせてもらっても構わないかな」
「もちろん良いに決まってるじゃない。いま住んでるのは幸恵なんだもの。来るのが男の人っていうのがちょっと心配だけど、好きに使ってちょうだい」
朗らかにそう言って笑う友恵に安堵したのは確かだった。
だが同時に残念だという思いも少しだけあった。
高校時代から付き合っていた虎徹と結婚し、今や妊娠までした友恵にとって帰る場所が幸恵の住むアパートではなく、鏑木家のアパートであることはとっくにわかっている話だ。
姉妹だからとていつまでもずっと一緒にいられるわけではない。
それこそ虎徹がヒーローを引退する頃になればオリエンタルタウンの鏑木家へ移り住むことも容易に想像ができる。
それでも鏑木友恵としての時間が増えるたびに天宮友恵がどんどん遠のくようで、胸中には寂しさが薄く広がって行くのだった。