01. So many people So many colors
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それきり会うこともないと思っていたユーリとの再会は一ヶ月も過ぎた頃。
偶然でもなんでもなく、ユーリの方から会いたいと連絡してきてのことだった。
その頃にはユーリを助けたことなどすっかり忘却の彼方で、ユーリ・ペトロフと名乗られてもなかなか思い出せず、気まずそうに「顔の傷の」と言われたところでようやく思い至ったほどだ。
だから正直「あの時のお礼を」なんて言われても面倒な気持ちのほうが大きいくらいだった。
日が経ちすぎていたというのもある。
それにあの時渡したのも近場のドラッグストアでいつでも買えるメイク落としシートに貰い物のハンカチ。
わざわざお礼の為に時間を取るほどのものでもない。
それでも結局時間をとって会うことを決めたのは、電話の向こうのユーリが「相談したいことがある」と苦々しく口にしたからだった。
お礼を受け取るのを面倒だとは思ったが時間を作れないわけではない。
天宮姉妹の人付き合いが悪い方と名高い幸恵であるが、友人知人が困っているのを面倒だと切り捨てるほど非情でもなかった。
それに相談があると言うのを突っぱねては姉に顔向けできない。
そう思い互いの予定が合う日取りを軽く電話で打ち合わせて、シルバーステージのカフェで会うことになった。の、だが──。
「先日はお世話になりました。遅くなりましたが、お借りしたハンカチをダメにしてしまって、代わりのものになりますが」
「いやいや、いやいやいや」
予定のカフェで先にテーブルへと通されていたユーリが開口一番にそう言って上等そうなブランドのペーパーバッグを差し出そうとするのを遮った。
「あの、あのさ? そのあれ。私、ペトロフさんのアレをどうこうしたお礼ってことでここに呼び出されたってので間違いないんですよね」
「そうですが?」
何がおかしいのかとばかりに首を傾げるユーリに幸恵は頭を抱えたくなった。
「そうですが、じゃないでしょ。なんでそれでほっぺたにアザ増やしてきてんですか。あの、これって修羅場ってやつとかじゃないですよね。私ペトロフさんの恋人に刺されるとか勘弁して欲しいんですけど」
「ああ、これは……。いえ、一応これも今回の相談に関わりがあるので打ち明けますが、母にぶたれたものなのでお気になさらないでください」
そして改めてお礼だと言う紙袋を差し出すユーリに幸恵は顔をこわばらせた。
そう言われたからとて「ハイ気にしません」と受け流せる人が一体どれほどいるというのか。
しかし立ち尽くしていても話は進まないと、ひとまず袋を受け取り腰を落ち着けることにした。
「改めまして、ユーリ・ペトロフと言います。先日は大変助かりました」
「天宮幸恵です。お役に立てたならよかったです。あれから肌荒れとか大丈夫でした?」
「教えていただいた通り、家に帰ってすぐに顔を洗いましたので。少し慣れない感覚はありましたが、特に問題はなかったので安心してください」
一問一答、上滑りするような会話を淡々と交わしながら、改めてお互いに自己紹介めいたことを話す。
ユーリはシュテルンビルトでもかなりハイレベルな大学の法学部の学生。
幸恵は古い出版社に務める事務職。
どちらも恋人はいない。
ユーリの家族は母一人。
幸恵の家族は姉一人。
ユーリはゴールドステージで母と二人暮らし。
幸恵は姉が結婚して家を出てからはブロンズステージで一人暮らし。
「その姉がね、困ってる人を見たら放っておけないタチでして」
「それはあなたもでは。助けてもらった身でいうのもなんですが、路地裏にいる男に近づくなんて自殺行為でしょう」
「私のは姉の猿真似みたいなものです。ああ、でも類は友を呼ぶと言いますか、姉の夫が輪をかけてお人好しでして」
「つまりあなたも含めてお人好し一家というわけですか」
「ただ義兄はちょっと突っ走るところがあるというか。あの時ペトロフさんを見つけたのが義兄だったら、あの人何も聞かないうちにあなたを担ぎ上げてどこかの病院に飛び込んでいたでしょうね」
「それは、流石に困りますね。感謝より先に文句を言ってしまいそうだ」
「おかげさまでトラブルが絶えません」
ハハと小さく笑い声が重なった。