01. So many people So many colors
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路地と呼ぶにも狭すぎるビルとビルの隙間。
わずかに見えた白いものを最初は猫かと思った幸恵だったが、よくよく見れば膝を抱えてうずくまっている人間だった。
薄い色彩でふわふわとした柔らかそうな髪だったから、背を丸めた猫のように見えたらしい。
とはいえとても路地裏が似合うとは言えない人間だった。
仕立ての良さそうなジャケットに綺麗な革靴。
ゴールドステージあたりで優雅な暮らしをしていそうな身なりだというのに、どうしてこんなところで膝を抱えているのか。
少しだけ悩んで、結局声をかけることに決めたのは姉ならそうするだろうと思ったからだった。
ヒーローマニアで底抜けのお人好し。
困っている人を見過ごせない、絵に描いたような善き人。
それが幸恵の姉、天宮友恵という人だった。
「あのぅ、大丈夫ですか? 救急車とか呼びますか?」
とはいえ幸恵は友恵ほどお人好しではなかったので、人助けする時にどう声を掛ければいいかなどわからなかった。
落し物をしたとか迷子になっているぐらいならともかく、路地裏に落ちているタイプの困っている人なんてそうそういる物ではない。
そもそもうずくまっているその人が本当に困っているかわいそうな人なのかさえはっきりしていなかった。
シュテルンビルトはきらびやかな大都市だが、ヒーローが颯爽と現れて危険に立ち向かうエンターテイメントレスキュー番組なんてものが成立する程度には危険な都市でもある。
大体意識があるかどうかすらわからない。顔が見えないので。
声をかけた以上放って立ち去ることもできず。
さてここからどうしようと考えながら屈みこもうとすれば、ひどく億劫そうに相手が腰をあげた。
思ったよりも背が高い。少なくとも幸恵の頭一つ分以上の差がある。
「……すみません、少しだけ、気分が悪くて。もう、大丈夫です」
「いや、だいじょばないでしょ」
とっさにそう返して、やらかしたと後悔するが出てしまったものはしょうがない。
天宮姉妹の雑な方と言えば幸恵のことである。
思いついたまま行動するのはやめなさいと何度言われたことか。
だが幸い、相手も自分の状態がとても大丈夫ではないと自覚していたのか、反論されることはなかった。
首が折れそうなほどにうなだれている相手の顔ははっきりとはわからないが、まるで自分を守るように組まれた腕と前髪を握る仕草はどこか幼く見えた。
あるいは本当に少年と呼んでもいい年頃なのかもしれない。
いっそ青白く見えるほどの肌の色や、薄い髪色からして血筋は北方系なのだろう。
東洋系が何かと幼く思われがちなように、北方系は年嵩に見られがちだ。
ややあって、小さなため息とともに相手が腕をだらりと下げた。
諦めのようでもあった。
「……少し、古傷が痛んだだけです。しばらくしたら収まるので」
そうしてようやくはっきりと見えた相手の顔には、顔の上半分を覆うような赤く痛ましい痣が広がっていた。
古傷というが、まるでつい最近出来たかのような痛ましさで、思わず顔をしかめる。
「見ていて気持ちがいいものでもないでしょう。分かったんだから、もう行ってください。大丈夫なので」
「いや痛むんなら、やっぱり大丈夫じゃないでしょ」
とはいえできたばかりというわけでもない傷を引っさげて病院に行ったところで、処方されるのは痛み止めぐらいだろう。
なんとも人助けとは難しい物だと考えながらカバンの中を確認すれば、いつも通りメイクポーチがちゃんと収まっていた。
「それ、触っても大丈夫ですか?」
「……は?」
「こんなところでうずくまってるぐらいだし、あんまり見られたくないんでしょ?」
「だったら、なんだっていうんですか」
「もしよければ、ちょっと隠そうかなと思って。顔触られて大丈夫ならですけど」
わずかに見えた白いものを最初は猫かと思った幸恵だったが、よくよく見れば膝を抱えてうずくまっている人間だった。
薄い色彩でふわふわとした柔らかそうな髪だったから、背を丸めた猫のように見えたらしい。
とはいえとても路地裏が似合うとは言えない人間だった。
仕立ての良さそうなジャケットに綺麗な革靴。
ゴールドステージあたりで優雅な暮らしをしていそうな身なりだというのに、どうしてこんなところで膝を抱えているのか。
少しだけ悩んで、結局声をかけることに決めたのは姉ならそうするだろうと思ったからだった。
ヒーローマニアで底抜けのお人好し。
困っている人を見過ごせない、絵に描いたような善き人。
それが幸恵の姉、天宮友恵という人だった。
「あのぅ、大丈夫ですか? 救急車とか呼びますか?」
とはいえ幸恵は友恵ほどお人好しではなかったので、人助けする時にどう声を掛ければいいかなどわからなかった。
落し物をしたとか迷子になっているぐらいならともかく、路地裏に落ちているタイプの困っている人なんてそうそういる物ではない。
そもそもうずくまっているその人が本当に困っているかわいそうな人なのかさえはっきりしていなかった。
シュテルンビルトはきらびやかな大都市だが、ヒーローが颯爽と現れて危険に立ち向かうエンターテイメントレスキュー番組なんてものが成立する程度には危険な都市でもある。
大体意識があるかどうかすらわからない。顔が見えないので。
声をかけた以上放って立ち去ることもできず。
さてここからどうしようと考えながら屈みこもうとすれば、ひどく億劫そうに相手が腰をあげた。
思ったよりも背が高い。少なくとも幸恵の頭一つ分以上の差がある。
「……すみません、少しだけ、気分が悪くて。もう、大丈夫です」
「いや、だいじょばないでしょ」
とっさにそう返して、やらかしたと後悔するが出てしまったものはしょうがない。
天宮姉妹の雑な方と言えば幸恵のことである。
思いついたまま行動するのはやめなさいと何度言われたことか。
だが幸い、相手も自分の状態がとても大丈夫ではないと自覚していたのか、反論されることはなかった。
首が折れそうなほどにうなだれている相手の顔ははっきりとはわからないが、まるで自分を守るように組まれた腕と前髪を握る仕草はどこか幼く見えた。
あるいは本当に少年と呼んでもいい年頃なのかもしれない。
いっそ青白く見えるほどの肌の色や、薄い髪色からして血筋は北方系なのだろう。
東洋系が何かと幼く思われがちなように、北方系は年嵩に見られがちだ。
ややあって、小さなため息とともに相手が腕をだらりと下げた。
諦めのようでもあった。
「……少し、古傷が痛んだだけです。しばらくしたら収まるので」
そうしてようやくはっきりと見えた相手の顔には、顔の上半分を覆うような赤く痛ましい痣が広がっていた。
古傷というが、まるでつい最近出来たかのような痛ましさで、思わず顔をしかめる。
「見ていて気持ちがいいものでもないでしょう。分かったんだから、もう行ってください。大丈夫なので」
「いや痛むんなら、やっぱり大丈夫じゃないでしょ」
とはいえできたばかりというわけでもない傷を引っさげて病院に行ったところで、処方されるのは痛み止めぐらいだろう。
なんとも人助けとは難しい物だと考えながらカバンの中を確認すれば、いつも通りメイクポーチがちゃんと収まっていた。
「それ、触っても大丈夫ですか?」
「……は?」
「こんなところでうずくまってるぐらいだし、あんまり見られたくないんでしょ?」
「だったら、なんだっていうんですか」
「もしよければ、ちょっと隠そうかなと思って。顔触られて大丈夫ならですけど」
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