単発SS

 ここが夢の中なのは言わずもがなだ。でなければ男はこの場所に存在しないし、彼女は会う筈もなかったであろう。人形のように整った顔に、人間味とはかけ離れた美しい笑顔。
「こんばんは、だな。愚かで自由な旅人さん」
「なんの用事?」
 形式的な言葉。だが、彼女がどれだけ冷たくあしらっても男には関係ないのであろう。ふっと息をするように笑う。いつもそうだ。自己のペースを崩すことなどなく、相手を手中に収めていく。
「今日は、お前の星で言うところのクリスマスというものなんだろう? たまには乗りかかってみるのも悪くないと思ってな」
 男の手が彼女の腕を掴むと、美しい銀色の輪が掛けられた。ブレスレットだ。中央には真っ赤な宝石があしらわれている。この男らしい趣味であると彼女は思ったが、口には出さなかった。同位体というものはどこまでも似ていて、だがこの男を認められない理由にもなる。
「気に入らなくてもいい。受け取れ」
 それは贈与というよりは強制だった。その笑顔の裏で何を考えているのか。わからなかったが、拒否すれば面倒になることだけは理解できるので、ただ相手のペースには乗せられまいと笑顔を返した。
「貴方も人に物を贈ることがあるのね」
「……ふ、そうだな」
 その言葉に籠められた意味を正しく理解することはできない。なにがこの男にそれだけの楽しみを与えたのか。ただ、僅かではあるが声色に、普段感じられない熱が、あった気がした。
「悪くない気分だ」
 用は済んだとばかりに周りの景色が崩れていく。気まぐれな逢瀬は終わりを告げ、意識は現実に浮かび上がり。男は満足げに目を閉じる。

 目を覚ますと、夜はまだ深かった。暗い世界に色はない。だが、目を凝らせば。その枕元には見覚えのあるブレスレットが置かれていた。自分勝手にプレゼントだけ押し付けていく男が――司教が、今年のサンタクロースだなんて。受け入れることも、捨てることもできないまま。手に取った赤い宝石を見つめる。そうしていると、あの鮮烈な命の色をした瞳が、脳裏に浮かぶような気がした。
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