retake sammer
ここは夢の中だろうか。見知ったアトリエの、その寂しさのことたるや。片づけられていないままの、散らばった絵の具が目に入る。この部屋は、彼女が自分の腕の中から旅立った、あの時の時間のまま止まっていた。大事に閉じ込めておきたかった雛鳥を羽ばたかせたあの日。いや、彼女はとうの昔に雛鳥ではなくなっていた。人間は、成長する生き物なのだ。
懐かしさすら感じる。彼女の母から託されたものと、帝国の任務で挟まれていたあの頃。正しさを求めて時を繰り返し、彼女は手元から旅立つのだと気づいたあの時。
残された絵の具を手に取ると、幻想的な蒼色が目に映る。彼女はこのメロウブルーの絵の具で、なにを書き残そうとしていたのか。今となっては二度と知る事はできない。
「ヨウケン……?」
彼女の声で目が覚める。まだ深夜だろうか、真っ暗な部屋の中、二人の鼓動だけが響いている。無意識のうちに彼女の腰に腕を回し、引き寄せた。
「どうしたの、甘えたい盛りの子供みたいだよ」
「……君がここにいることを、確かめたくなったんだ」
暖かな木漏れ日の匂いがする。五感を以って彼女の存在が全身に染み渡ってくるようだ。ここが彼の愛する世界の中心であり、世界そのものでもある。
「こうしてたら落ち着くかな?」
彼女はヨウケンの頭を抱え込むように腕を回した。まるで幼い子供をあやすように。柔らかな手が、ベットに広がった髪を梳く。愛情に満ちたその行為を、ただただ今日という日は受け入れた。
変わったのは、いつからだろうか。変わったのは、どうしてだろうか。変わったのは——誰だったのだろうか。
人間らしさというのは一夕一朝で身につくものではない。彼女と重ねてきた時間の多くが、今のヨウケンを構成している。だから、手離せはしない。これが欲であるのなら、彼の中ではあまりに確かすぎる変化だ。
「ずっと、ヨウケンと一緒にいられたらいいのに」
「……私もそう思っているよ」
止まることのない時の中で、叶うことのない夢を見ながら、今だけは微睡みに漂う。瞼の裏に残るあの幻想的な蒼を、忘れることができないまま。
懐かしさすら感じる。彼女の母から託されたものと、帝国の任務で挟まれていたあの頃。正しさを求めて時を繰り返し、彼女は手元から旅立つのだと気づいたあの時。
残された絵の具を手に取ると、幻想的な蒼色が目に映る。彼女はこのメロウブルーの絵の具で、なにを書き残そうとしていたのか。今となっては二度と知る事はできない。
「ヨウケン……?」
彼女の声で目が覚める。まだ深夜だろうか、真っ暗な部屋の中、二人の鼓動だけが響いている。無意識のうちに彼女の腰に腕を回し、引き寄せた。
「どうしたの、甘えたい盛りの子供みたいだよ」
「……君がここにいることを、確かめたくなったんだ」
暖かな木漏れ日の匂いがする。五感を以って彼女の存在が全身に染み渡ってくるようだ。ここが彼の愛する世界の中心であり、世界そのものでもある。
「こうしてたら落ち着くかな?」
彼女はヨウケンの頭を抱え込むように腕を回した。まるで幼い子供をあやすように。柔らかな手が、ベットに広がった髪を梳く。愛情に満ちたその行為を、ただただ今日という日は受け入れた。
変わったのは、いつからだろうか。変わったのは、どうしてだろうか。変わったのは——誰だったのだろうか。
人間らしさというのは一夕一朝で身につくものではない。彼女と重ねてきた時間の多くが、今のヨウケンを構成している。だから、手離せはしない。これが欲であるのなら、彼の中ではあまりに確かすぎる変化だ。
「ずっと、ヨウケンと一緒にいられたらいいのに」
「……私もそう思っているよ」
止まることのない時の中で、叶うことのない夢を見ながら、今だけは微睡みに漂う。瞼の裏に残るあの幻想的な蒼を、忘れることができないまま。
