retake sammer

「君はこういう曲が好みなのか?」
 二人きりの生徒会室で、私にスマホとイヤホンを返したシーラン先輩が聞く。流していたのは最近ネット上で見かけた曲だ。偶然にも再生したその曲は私の耳に残り、時々聞きたい気分に駆られるようになった。曲が繰り返すたびに、ぼんやりと音楽が思考の上を流れていく。その時だった。先輩が、私に近づいてきたのは。
「聞かせてもらった手前なにかお礼をすべきかと思ったが、あいにく手持無沙汰でな……」
「そんな、気にしなくていいですよ!」
 いつも通り律儀に対応するシーラン先輩に、私は慌てて答えた。
「聞いてたのもたまたまですし、好みというかなんというか……耳に残る曲ってあるじゃないですか、そんな感じで」
 ちょっと物を貸しただけだし、相手が他でもない先輩なら気にするようなことじゃない。なので気づかれないように少し話を逸らした。
「そういえば先輩は? こういった曲、好みだったりしますか?」
「いや、僕はあまり流行りの世代の曲というのは聴かないからな……」
 確かに、シーラン先輩がいわゆるネット音楽に慣れ親しんでいるような印象はない。時間があれば静かに読書をしたり勉強をしている姿が似合う人だからだろうか。それもあって無理に感想を聞き出すつもりじゃないことを伝えようとしたが、その前に先輩が口を開いた。
「だが、そうだな……美しい、愛を伝える歌だと思った」
 予想だにしていなかった言葉にびっくりしていると、ふわりとこちらを慈しむかの如く先輩は笑った。唇が弧を描く瞬間、美しさに視線が外せなくなる。優しい、私だけに向けられる表情。
「大袈裟かもしれないが……君を愛しているからな。気持ちが引っ張られたのかもしれない」
 愛している。真っ直ぐで純粋で、相手を想う為の言葉。シーラン先輩から聞くその言葉は、心が温かくなる魔法だ。何度聞いても、何度伝えても足りない、心の形。嬉しくなって、私は先輩の側に行って耳元に顔を寄せ、囁いた。
「ふふ、私も先輩のこと、愛していますよ」
「それはよかった」
 そっと髪に口付けが降ってくる。この関係が、ずっと続いたらいい。そう願わずにはいられない。愛している。もう一度、唇から音が紡がれた。
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