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色眼鏡


血を吸ったような俺様の髪とは違う金の髪。
世界を映す、俺様とは違う澄んだ瞳。
淑女の装いに包まれた、血のかよった白い肌。
俺様と違って望まれてクルシスの輝石と共に生まれた命。
俺様と違って笑顔に隠した本音を見つけてくれる幼馴染がいる。
俺様と違って誰かのために自分の身を世界に賭けられる。
そんな、神子という同じ使命を負った女の子。
世界でお互いだけ、2人でひとつ、たった1人の俺の鏡。



フラノールでの夜、すっかり冷えて宿屋のドアを開けるとコレットがいた。
ゼロスが凍った頬を動かしてどうにか笑顔を作ると、コレットの表情が曇った。
外は雪が降っていていつかの記憶を刺激して気分が悪いし、見たくもなかったものを見てしまってもう早くこの陳腐な物語が終わってしまわないものかと思っていたところだったから、コレットが声をかけたのに答えるのに、少し間が空いた。

「…​…​ゼロス?」
「…​…​やあ、コレットちゃん。こんな時間にどうした?」
「なにかあったかい物を飲もうと思って、宿の人にお願いしようと思って出てきたの。」

その後当然されるだろう質問に、咄嗟に頭を巡らせる。

「…​…​ゼロスは?こんな時間に外で何してたの?」
「いやぁ、眠れなかったから散歩でもと思ってな。でも、雪が降ってたから戻ってきたんだ」

想像通りのセリフに、頭の中で作ったセリフを返す。
嘘ではない。すこし説明を端折っただけだ。ロイドと話をしようと思ってロイドの部屋を訪ねて、すげなく断られてしまった後、ロイドがひとり宿の外へ出かけていくのが窓から見えたから、こんな時間にひとりで何をしに行く気なのかと後をつけたのだ。
どうせ眠れなかったから散歩がてら、どこかでロイドとわざと鉢合わせて話が出来たらというちょっとの下心も込めて。
生憎の雪だったが、その時はすこし気分が高まっていて、あまり気にはならなかった。
そしてこっそりロイドの後をついていって、それを見たのだ。

久しぶりに再会した父親と話すロイドは、とても熱心に話をしているようだった。
表情は暗くてよく見えなかったが、親子の並んで話す姿を見るゼロスの胸中には、冥い闇が広がっていった。

結局俺じゃなくてソイツを信じるのか。
俺じゃなくてソイツを選ぶのか。
結局その目には俺は映っていないのか。
俺は所詮"みんな"の中のひとりでしかなくて、"特別"になんてなれないのか。

わけも分からないけれど、ゼロスの心は絶望に引きずり込まれていった。
ロイドは自分を選ばなかった。
そんな確信めいたものがずっしりと胸の内に広がった。
もうこの場には居たくないと踵を返して、トラウマを呼び起こす雪の降る中、ゼロスは宿に戻ったのだった。

「そう、なんだ。外に出たなら、ロイドを見なかった?さっき外に出たみたいで、きっと冷えて帰ってくるんじゃないかなって思って、なにかあったかい物をって思ったの」
「…​…​あー」

さっき感じた絶望がありありと思いおこされたが、顔に笑みを貼り付けたまましれっと言う。

「残念だけど見なかったな。きっと帰りは遅くなるから、コレットちゃんはもう寝たほうがいいぜ」

そう、きっと遅くなる。あの親子があんなに熱心に話していたんだから。

「…​そっか。じゃあ、おやすみ、ゼロス」

少し間が空いて、コレットが答えた。そして、くるりと背中を向けて、ふとその動きが止まった。

「ねえ、ゼロス、」

少し切羽詰まった響きを乗せて、振り返りながらコレットが言った。
その声色にゼロスは察する。きっと、ゼロスが何かに絶望したことを、この聡い少女は、ゼロスの片割れの少女は、気付いたのだ。コレットは優しいから、同じ神子であるゼロスを救ってくれようとしているのだ。

「私はゼロスが大好きだよ、私はずっとゼロスの味方だよ、私だけじゃない、きっとみんなもそう…​」
「俺様もコレットちゃんがだーいすきだぜ?」

紡がれる言葉も、それを伝えるコレットの必死さもゼロスの胸にはどうしても響かなくて、ゼロスはその言葉を遮った。
エンパシーもシンパシーも感じてくれなくていい。同じ神子だからといって助けてくれなくていい。
ぽんぽん、とコレットの頭を撫でて拒絶の意思をのせて言う。

「ほら、もう寝な。明日はきっとキツくなる」

何か言いたげに言葉を探したコレットの、その言葉が見つかる前にゼロスはその体を部屋の方へ向けさせ背中を押した。



ロイドの光の中に居る限り"みんな"のうちのひとりで、彼の"特別"になれないのなら、自分の中に巣食うあの影と同じように、ロイドの影に強く強く存在を刻みつければいい。
ロイドを裏切って広げた羽は、己の強欲を示すように派手な金色に輝いていた。

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