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色眼鏡

色眼鏡

風になびくのは私と同じ長い髪。
世界を映す、私と同じ碧の綺麗な瞳。
意外と露出の少ない同じ白い肌。
胸元に輝く、同じ色をしたエクスフィア。
笑顔で本音を隠すところも同じ。
誰かのために自分の身を賭けられるのも、きっと、同じ。
そして、神子という同じ使命を負った人。
世界でお互いだけ、2人でひとつ、たった1人の私の鏡。



フラノールでの夜、すっかり冷えて外から帰ってきたゼロスが何を見たのかは分からない。
でも、凍えて色の悪くなった頬を歪ませて笑ったゼロスに、コレットは心の底が冷えるような悪い予感を覚えた。

「…​…​ゼロス?」
「…​…​やあ、コレットちゃん。こんな時間にどうした?」
「なにかあったかい物を飲もうと思って、宿の人にお願いしようと思って出てきたの。…​…​ゼロスは?こんな時間に外で何してたの?」
「いやぁ、眠れなかったから散歩でもと思ってな。でも、雪が降ってたから戻ってきたんだ」

直感的に、嘘だ、と思う。コレットがロイドと話をしようと思ってロイドの部屋を訪ねた時、同じようにロイドの部屋を訪ねていたゼロスの姿を、コレットは見ていた。ゼロスは断られたようで1人で部屋の外に出てきた。その後、コレットも同じように断られてしまったけど。
そうしてコレットとゼロスの誘いを断ったロイドが、どうやらひとりで外に出ていったのも、コレットは知っていた。
コレットが窓からそれを見たように、ゼロスもきっと窓からそれを見たのだ。
コレットはそれを訝しがりはしても追いかけはしなかったが、きっとゼロスはそれを追いかけて、何かを見たのだ。
ロイドに関係するなにかなのか、関係の無いなにかなのか、そこまでは分からないけれど。

「そう、なんだ。外に出たなら、ロイドを見なかった?さっき外に出たみたいで、きっと冷えて帰ってくるんじゃないかなって思って、なにかあったかい物をって思ったの」
「…​…​あー」

ロイドという名前が出た瞬間、スッとゼロスの瞳が晦く色を変えた。

「残念だけど見なかったな。きっと帰りは遅くなるから、コレットちゃんはもう寝たほうがいいぜ」
「…​そっか。じゃあ、おやすみ、ゼロス」

少し息を呑んで、コレットは答えた。
強く乞い、恋焦がれたものに裏切られたような色を宿したゼロスに、何があったのか知らない、知ることが出来ないコレットは何も言えずゆっくりつま先を部屋へと向ける。
同じ神子であるからこそ、ゼロスはコレットに何も言わないだろう。コレットがそうであるのと同じように。
そう思ってゼロスに背を向けかけた時、ふとコレットは気付いた。
きっと、ゼロスも同じだったのだ。コレットと同じようにロイドに、あの強い光に惹かれていたのだ。そして、何かを見て、その光に絶望した。

気付いたコレットは、ゼロスに何か言わなければと、部屋へ向けかけたつま先を戻しながらゼロスに向けて訴えるように口を開いた。

「ねえ、ゼロス、私はゼロスが大好きだよ、私はずっとゼロスの味方だよ、私だけじゃない、きっとみんなもそう…​」
「俺様もコレットちゃんがだーいすきだぜ?」

言い募った言葉を遮るように、ゼロスが言葉を被せてきた。
同じ神子である私の言葉は届かない。ロイドだったら、ロイドだったらゼロスを絶望から救ってくれるはずなのに。
涙目になったコレットの頭をゼロスがぽんぽん、となだめるように撫でて言った。

「ほら、もう寝な。明日はきっとキツくなる」

そう言ったゼロスが、どこかへ消えてしまうような気がして、居なくなってしまう気がして、コレットは引き止める言葉を探したが、結局言葉に出来ずにゼロスに背中を押されて空気に混じって消えた。



その夜、コレットは天使の羽を背負ったゼロスの夢を見た。
黄昏色をしたそれは、ゼロスの紅い髪に映えて眩く黄金に輝いて、とてもとても綺麗に見えた。

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