いつか同じ日に生まれてくる娘へ

「ふわぁ……」

 すっかり陽も暮れた夜道を歩きながらあくびをする。去年はこの道を三人で手を繋いで帰ったっけ。

「ちびうさも未来で大きくなってるかな」

 どちらかといえば、あたしよりまもちゃんに似てるとこあるからシッカリ自立してそうなイメージ。もちろんまもちゃんも。

「一人ぼっちで寂しがりやなのは、あたしだけか」

 こんなんじゃ二人に怒られちゃうよね。あたしも頑張らなきゃ。両手で軽く頬を叩いて目を開く。視線の先には大きな満月が煌々と輝いていた。

「あなたも祝福してくれるの?」

 返事はないけれど、そうだと言ってくれたような気がした。

「とか何とか言ってるうちに着いちゃった」

 あたしは淡い期待を胸に秘めながら郵便受けの中を覗いた。

「あっ」

 エアメール。差出人はもちろん。

「まもちゃん!」

 あたしはギュッと手紙を抱きしめながら涙を流した。

「ありがとう……」

 温かい気持ちを胸に玄関のドアを開ける。家族からは朝のうちに祝ってもらえたので、帰宅の挨拶だけして自室へ向かった。

「何が書いてあるんだろう」

 ドキドキしながら封を開けると、丁寧な字で書かれた文章が目に映る。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 うさへ

 元気か? オレはレベルの高い講義についていくので必死だよ。
 でも絶対に食らいついて夢を叶えてみせる。

 自分のためにも。
 いつか来る未来のためにも。

 そしてお誕生日おめでとう。みんなには祝ってもらえたか? オレやちびうさがいなくなって寂しい想いをしてるんじゃないかと少し心配したけど、きっとうさならみんなと一緒に成長できたと信じてる。

 何たってセーラームーンは、月野うさぎは最強だからな。

 本当はセンスの良いメッセージで締めようと思ったけど、月並みな言葉で許してくれ。

 愛してる。

 必ず迎えに行くから待っていてくれ。

 地場衛

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「まもちゃん……」

 心の内から熱くなっていくのが分かる。遠く離れていても心は一緒だって、繋がってるって感じ取れた。それだけであたしは幸せだよ。

「ん?」

 感慨に耽っていると、ベッドの上にカサッと何かが落ちた音がした。

「こっちもメール?」

 差出人は。

「スモールレディ!?」

 もしかしてちびうさも未来からあたしを祝福してくれたのかな?

「読んでみよう」

 あたしはハート型のシールを剝がして封を開けた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 うさぎへ

 元気? ちびうさだよ。実はプルートにムリ言ってこの手紙だけうさぎの部屋に転送してもらったの。無事に届いてるといいな。

 お誕生日おめでとう! というかあたしも誕生日なんだけどね。今日はパパやママ、カルテットたちみんなからお祝いしてもらえたの。心なしか背も少し伸びたみたい。

 うさぎの方はどうかな。みんなとパーティーした? あたしやまもちゃんがいないから寂しがってるんじゃないかと思って、こんなお節介焼いちゃったわよ。

 でも大丈夫だって信じてる。だってみんながいるもん。まもちゃんだって、海の向こうからお祝いしてくれたでしょ?

 うさぎを想う気持ちはみんな一緒だよ。いつもあたしたちの大切な人でいてくれてありがとう。大好きだよ。

 うさぎ・スモールレディ・セレニティ

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ちびうさ……ありがとう」

 思いがけない娘からの祝福に目頭が熱くなる。

「本当に……本当に幸せ者だね。あたし」

 もう一人ぼっちなんかじゃない。

 あたしにはかけがえのない仲間が。

 未来の娘が。

 愛する人がいる。

 だから前を向こう。

 もっともっと強くなって、みんなと楽しく暮らすために。

 それが等身大のあたしの夢だから。

 だからその日が来るまで。

「楽しみに待ってるよ」

 いつか同じ日に生まれてくる娘へ。

 happy birthday.



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