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あの唄を覚えてる

 あの唄を思い出した後、オレたちは再びホテルの近くの浜辺へ来ていた。夜も深くなったこともあり、オレたち以外に人は誰もいなかった。砂浜の近くに設置されたベンチに座って、オレたちは、月と星を浮かべた空とそれを映す海を眺めていた。
 うさはふうっと息を吐くと、夜の海へと歩き出した。

「同じ宙の中で 同じ海の中で 貴方と私はー」

 うさは立ち止まると、波の音に合わせて、あの唄のサビのフレーズを口にしていた。

「うさ、あの唄を?」

「あ、うん、思い出せたのが嬉しくって。海を見たら唄いたくなっちゃった」

 オレの方へ向くと、うさははにかんでいた。

「もっと聴かせて」

 オレがうさへリクエストすると、うさは静かに頷いて深くブレスした。

「さざなみの中で 聞こえる 星々の鼓動」

 うさがあの唄の最初のフレーズを口ずさんだ。あの頃と変わらない、優しく柔らかな唄声が聴こえた。あの日と同じように、月光のスポットライトに照らされて、うさは波の音の伴奏とともに声を響かせた。うさの唄は、オレというたった一人の観客の心を震わせた。そして、うさが唄い終わってお辞儀をすると、オレは無言で拍手をした。

「聴いてくれて、ありがと。あれ、まもちゃん? 泣いてる?」

「いや、海風のせいで、目にゴミが入っただけだよ」

「ふふ、そっか」

 オレは目からこぼれたものを手で拭った。その直後、うさはオレへ手を差し出した。

「ねぇ、あたしと一緒に唄おう?」

 うさがあの頃のセレニティと重なった。オレはうさの手を取ってゆっくりと立ち上がった。

「ああ、そうだな」

 うさが「いち、に、せーの!」と声と目で合図を出すと、オレたちは呼吸を合わせて、声を重ねた。

「さざなみの中で 聞こえる 星々の鼓動
そらのうみに溶けていく 貴方と私
声の届かない場所でも 見えない糸があるから
どんな時でも 私たちになれるの

あのそらは覚えている
光と闇から生まれた日を
あのうみは覚えている
氷と岩から放たれた日を

同じ宙の中で 同じ海の中で
貴方と私は 回りながら ステップを踏み続ける
常に貴方を見ながら 手を取り合っているの
きっと さいごの時を 迎える日まで」

 二人のオクターブユニゾンのハーモニーは空に響くと、海の中へすぐに消えていった。でも、あの頃の思い出も今日の出来事も、この唄を思い出す度に、この先ずっと消えはしないだろう。

 ──この唄が、前世とこれからのオレたちをこの先もずっと繋いでいくんだ。

 ──そうだね、まもちゃん。

 ハーモニーを重ねた後、オレたちの唇は重なり合っていた。海は二人の唄に拍手を響かせて、月と星の明かりは二人を照らしていた。まるで、二人だけの小さなステージを彩るかのように。
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