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あの唄を覚えてる

 日が完全に沈んで、オレたちはホテルの部屋へ戻ってきた。窓の外を見ると、昼にキラキラと光って見えた海辺は様子が変わって、灯台が煌々と沖を照らして海面には月と星々の光が映っていた。

「ねえ、あのオルゴールを開けてみない?」

 うさに言われるまで、オレはあのオルゴールの存在を忘れていた。「そうだな、開けてみよう」とオレが首を縦に振ると、うさはすぐさま包装紙からオルゴールを取り出して、テーブルの上に載せた。

「しかし、本当に開ける人によって曲が変わるのか?」

 タネも仕掛けもない、と老婆は言っていたが、オルゴールは手のひらに乗るほど小さく軽い。何か特別な仕掛けを施すようなスペースはなさそうだ。あの店で不思議な力を持つ商品を目の当たりにしたものの、オレはもしかしてあの老婆に騙されているのかもしれないと少し疑った。

「どうだろ? まあ、開けてみてのお楽しみってやつよね!」

 オルゴールをオレが手に取ると、うさとオレは一緒に蓋に手をつけた。オレたちは視線を合わせた後、ゆっくりとオルゴールの蓋を開いた。

「〜♪」

 蓋を開けた瞬間、オルゴールは高くて澄んだ音色を奏で始めた。素朴ながら、その旋律は心を落ち着かせるものだった。

「ねえ、この曲って!」

 うさが興奮気味に叫ぶと、オレたちは顔を合わせた。

「まさかと思ったが」

「やっぱりそうよ、あたしたちが海で唄ったあの曲と同じメロディよ! やっと思い出せた!!」

 あの唄のメロディ、歌詞、そしてあの唄のタイトル。前世の海で唄ったオレたちの唄声は鮮明に蘇ってきた。

「ああ、オレも思い出した。タイトルは確か……」

「『そらとうみの中で』!」

 うさとオレは同時にタイトルを叫んだ。うさとオレは同時に声を上げて笑った。
 オルゴールから同じメロディが繰り返される度に、欠落した記憶の中で歌詞が徐々に浮かび上がってくる感覚があった。忘れかけていた唄を思い出させるため、開ける人によって曲が変わる。このオルゴールの役目について語られた言葉を、オレたちは思い出した。
 温かく響き渡るオルゴールのメロディを何度もオレたちは聴き入った。音色を聴きながら、オレは何気なくオルゴールの蓋を見た。よく見ると、蓋の裏側には筆記体の白い文字で「Dedicate this song to you」と書かれていた。「この唄を貴方に捧げる」を意味するメッセージは「あの頃」のオレたちから今のオレたちに向けて贈られた言葉のような気がした。まるで、「大事な思い出を忘れないで」と伝えようとして。
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