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あの唄を覚えてる

「ねぇ、エンディミオン。月で有名な海についての唄があるの」

 オレたちは砂浜の近くの大きな岩の上で肩を並べていた。茜色の空と海を二人で眺めていると、セレニティは口を開いた。

「へえ、どんなものか興味があるな」

 月にも海に関する唄があると聞いて、オレは興味を抱かずにいられなかった。

「……という曲なの」

 セレニティはオレに曲のタイトルを伝えると、サビのフレーズを唄った。不思議なことに、そのタイトルとメロディはオレも聞き馴染みがあった。確か、オレが幼い頃にネフライトから教えてもらった、昔の流行りの唄だったはずだ。

「その曲、オレも知っているかもしれない」

 オレの言葉に、セレニティは口に手を添えて、驚いた顔を見せた。

「まあ! この地球でも知られている曲なのね! ねえ、一緒に唄ってみない?」

「オレは唄があまり得意ではないけど」

 セレニティの柔らかくて高い唄声はオレのお気に入りだった。だから、セレニティと一緒にオレが唄うよりも、ずっとセレニティの声を聴いていたかった。

「上手く唄うことなんてどうでもいいの。あたしはただ貴方と声を重ねたいの」

 声を重ねたい。セレニティにそう言われて、オレは心変わりした。セレニティと二人で唄うのは初めてだけど、オレたち二人ならきっとオレたちにしか出せないハーモニーを唄えるかもしれない、と期待して。

「では、セレニティがそう言うなら」

「じゃあ、せーので唄いましょ! いち、に、せーの!」

 セレニティが指揮者のように指を振って合図を出すと、オレたちはあの唄を斉唱した。

 オレの中で再生された記憶はここまでだった。しかし、セレニティと唄った記憶はあるのに、唄に関する記憶が全く抜け落ちていた。タイトルはおろか、メロディも、歌詞も全く思い出せない。
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