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あの唄を覚えてる

 お土産の紙袋とキャリーバッグを手に、オレたちは麻布十番駅に到着した。旅行のワクワク感もいいが、こうして旅行先から戻った東京の空気はどこか安心するものだった。

「うさぎー、おっかえりー!」

 改札を抜けて地上までエスカレーターを上がると、聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。声の主は銀時計の前で、腕を振っていた。

「えっ、どうしたの、美奈P!? それに、皆も!」

 美奈の横には亜美、レイ、まこがオレたちの帰りを待っていた。

「さっきまで皆でお茶してたんだけど、そういえばそろそろうさぎが衛さんとの旅行から帰ってくるって思い出して、お迎えに来たのよ! お土産話でも聞こうと思ってね!」

「えー! 嬉しい!!」

 オレはテンションの高い美奈に圧倒されていた。旅行の疲れはどこにいったのか、うさのキャッキャとはしゃぐ声が街に響いていた。

「わ、私は止めたのよ。美奈がどうしてもって言うから」

 亜美は、暴走状態の美奈に困った顔をしていた。しかし、こうして一緒に待っていたことから察するに、美奈の提案に実は乗り気なのかもしれない。

「美奈ったら、絶対に皆で迎えに行くって聞かなくて困ってたのよ。私は美奈ほどヒマ人ではないのに……」

 レイが腕を組んで怪訝そうに、美奈へ嫌味を言った。

「まあまあ、うさぎからお土産話の一つや二つを聞いてすぐに解散でいいんじゃないか?」

 まこはレイの肩を軽く叩いて、レイを宥なだめていた。

「で、どうだったのよ? りょ・こ・う・は!」

 美奈はうさとオレを交互に見て、「早く旅行の感想を言いなさい」と言わんばかりに迫ってきた。美奈の勢いに呑まれて、こんな公然で「セレニティと過ごした日を思い出して、唄って楽しく過ごした」なんて、オレの口からは言えなかった。一方のうさは、頬を赤く染めながらニコッとしていた。おいおい、何を言い出すつもりだ、うさ……。

「ふふ。大昔の恋人に会ってきたの」

 その言い方は色々誤解を与えかねない、爆弾発言だ。旅行の疲労も相まって、オレは頭が痛くなった。一方、美奈たちは驚きの色を隠せず、一斉に「えー!」と大声を上げた。

「ちょっと、どういうこと!? まさか浮気でもしたの!?」

 美奈がオレに説明を求めてきた。確かに、あの言い方では、浮気を疑われてもしょうがないだろう。

「それは聞き捨てならないよ! うさぎが大昔の恋人に会ったっていうのに、平気なのかい?」

 美奈に続いて、まこも興奮した様子でオレに迫った。

「衛さん、説明次第ではどうなるか分かりますよね?」

 亜美はこほんと咳をして、ニコッとオレを見た。こういう時の笑顔こそ怖いもの……ということを彼女は知っているのだろう。

「二人とも、私達が納得できる説明をしていただけないかしら?」

 レイは唯一冷静だったが、変な言い訳や冗談は聞かないという雰囲気を醸し出していた。
 こうなった以上、オレも開き直るしかなかった。一気に息を吐き出して、うさの肩に手を添えた。

「いや、言葉の通りだよ?」

 オレは美奈たちの疑問に堂々かつ簡潔に答えた。

「ねー、まもちゃん!」

「ああ」

 うさとオレは目を合わせて、笑顔で頷いた。美奈たちは、オレたちを見ながら呆然とした様子で立ち尽くしていた。
 この時、オレの頭の中では「あの唄」を唄ううさの声が響いていた。


 END
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