あの唄を覚えてる
「わあ、キレーイ! ねぇ、まもちゃん見てみて!」
長いトンネルを抜けるとすぐに、うさが歓喜の声を上げた。車窓一面には、うさの瞳と同じ色の青く澄んだ空と海が広がっていた。
「ああ、綺麗だな」
オレは読んでいた文庫本を閉じて、うさの後ろから身を乗り出すように窓の外を見た。窓ガラスには晴れやかな景色とともに透明なオレたちが映っていた。
「いい天気! 海がキラキラ光ってるよ! ねえ、泳げるかな?」
「少し寒いんじゃないか?」
オレたちは東京から電車を乗り継いで、海の見えるこの街にやってきた。うさとの国内旅行は、ちびうさが未来に帰る前に行った以来で随分ご無沙汰だった。オレの留学中にうさがボストンへ遊びに来たことはあったが、それでも半年ほど前の話だった。
駅に到着すると、オレたちはすぐに宿泊先のホテルにチェックインして、フロントで「507」と書かれたカードキーを受け取った。エレベーターで5階へ上がると、オレは部屋の扉を開け、うさを部屋に通した。
「わあ! オーシャンビューだ!! すっごーい! あ、ベランダに椅子とテーブルもあるよ!」
うさは部屋から見えた瑠璃色の景色に、興奮度が増した。声にこそ出さなかったが、オレもうさと同様だった。ガイドブックに掲載されたホテルの紹介には全室オーシャンビューと書かれていたが、予想以上に絶景だった。
うさは荷物をソファーの上に置いてすぐさま、ベランダの窓を開けた。部屋に風が入ると、心地よい潮の香りがした。うさはベランダへ出ると、「こっちこっち」とオレを手招いた。
「風が気持ちいいね」
「ああ」
うさは手すりに腕を載せて、気持ちよさそうに目を閉じていた。部屋の外で感じる海風は、うさの言うとおり穏やかで気持ちが良かった。
「少し休んだら、海岸を散歩するか?」
オレはうさの肩に手を載せて尋ねた。
「うん!」
うさは目を開けて、ニコッと笑って首を縦に振った。眩しい日差しを受けて、うさの晴れやかな顔を見ると、この旅行では予想出来ないような事が起きる気がして、オレは心踊る気分だった。
オレたちはホテルを出て、部屋から見えた浜辺へ向かった。駅からホテルへ向かう途中で見たこの街は、人混みがない上、自然も多く、落ち着いた印象があった。大きく白い石が敷きつめられた道をしばらく歩くと、視界は一気に広がった。
「わあ! 近くで見るとまた違うね!」
同じ海で、同じ空のはずなのに、東京にはない鮮やかな青の色。その景色にオレたち二人は改めて息を呑んでいた。
「あたし、サンダル脱いじゃお!」
うさはサンダルを両手に持つと、波打ち際まで走って、砂浜に小さな足跡を次々と残した。
「きゃあ! 冷たーいっ! 泳ぐには少し寒いね」
うさは浜辺に打ち寄せる波に素足をつけると、ライトブルーのワンピースの裾を翻して、オレの方へ振り返った。日差しが眩しすぎるせいだろうか、そんなうさが前世のセレニティと重なって見えた。
──エンディミオン、地球の海ってこんなに素敵なのね!
そうだ、「あの頃」に二人で来た海も優しい潮風が吹いていて、オレは波の音の中で「君」の声を聞いていた。海から反射した陽の光が眩しくて、オレは目を閉じた。すると、オレの中で「あの頃」の記憶が再生され始めた。
長いトンネルを抜けるとすぐに、うさが歓喜の声を上げた。車窓一面には、うさの瞳と同じ色の青く澄んだ空と海が広がっていた。
「ああ、綺麗だな」
オレは読んでいた文庫本を閉じて、うさの後ろから身を乗り出すように窓の外を見た。窓ガラスには晴れやかな景色とともに透明なオレたちが映っていた。
「いい天気! 海がキラキラ光ってるよ! ねえ、泳げるかな?」
「少し寒いんじゃないか?」
オレたちは東京から電車を乗り継いで、海の見えるこの街にやってきた。うさとの国内旅行は、ちびうさが未来に帰る前に行った以来で随分ご無沙汰だった。オレの留学中にうさがボストンへ遊びに来たことはあったが、それでも半年ほど前の話だった。
駅に到着すると、オレたちはすぐに宿泊先のホテルにチェックインして、フロントで「507」と書かれたカードキーを受け取った。エレベーターで5階へ上がると、オレは部屋の扉を開け、うさを部屋に通した。
「わあ! オーシャンビューだ!! すっごーい! あ、ベランダに椅子とテーブルもあるよ!」
うさは部屋から見えた瑠璃色の景色に、興奮度が増した。声にこそ出さなかったが、オレもうさと同様だった。ガイドブックに掲載されたホテルの紹介には全室オーシャンビューと書かれていたが、予想以上に絶景だった。
うさは荷物をソファーの上に置いてすぐさま、ベランダの窓を開けた。部屋に風が入ると、心地よい潮の香りがした。うさはベランダへ出ると、「こっちこっち」とオレを手招いた。
「風が気持ちいいね」
「ああ」
うさは手すりに腕を載せて、気持ちよさそうに目を閉じていた。部屋の外で感じる海風は、うさの言うとおり穏やかで気持ちが良かった。
「少し休んだら、海岸を散歩するか?」
オレはうさの肩に手を載せて尋ねた。
「うん!」
うさは目を開けて、ニコッと笑って首を縦に振った。眩しい日差しを受けて、うさの晴れやかな顔を見ると、この旅行では予想出来ないような事が起きる気がして、オレは心踊る気分だった。
オレたちはホテルを出て、部屋から見えた浜辺へ向かった。駅からホテルへ向かう途中で見たこの街は、人混みがない上、自然も多く、落ち着いた印象があった。大きく白い石が敷きつめられた道をしばらく歩くと、視界は一気に広がった。
「わあ! 近くで見るとまた違うね!」
同じ海で、同じ空のはずなのに、東京にはない鮮やかな青の色。その景色にオレたち二人は改めて息を呑んでいた。
「あたし、サンダル脱いじゃお!」
うさはサンダルを両手に持つと、波打ち際まで走って、砂浜に小さな足跡を次々と残した。
「きゃあ! 冷たーいっ! 泳ぐには少し寒いね」
うさは浜辺に打ち寄せる波に素足をつけると、ライトブルーのワンピースの裾を翻して、オレの方へ振り返った。日差しが眩しすぎるせいだろうか、そんなうさが前世のセレニティと重なって見えた。
──エンディミオン、地球の海ってこんなに素敵なのね!
そうだ、「あの頃」に二人で来た海も優しい潮風が吹いていて、オレは波の音の中で「君」の声を聞いていた。海から反射した陽の光が眩しくて、オレは目を閉じた。すると、オレの中で「あの頃」の記憶が再生され始めた。
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