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未来からの贈りもの

 旅行当日の朝。月野家へ行くと謙之さんが車を出してくれていた。

「おはようございます。今日は車をありがとうございます」
「やぁ、衛くん。こちらこそ二人を頼むよ」
「はい。任せてください」
「ワガママ言ったら怒っていいのよ?」
「あはは。そんなこと言いませんよ」
「お待たせー!」

 ご両親と軽い挨拶を済ませると、夏らしい色違いのワンピースを着たうさとちびうさが玄関から出てくる。うさは白、ちびうさはピンク色をベースに決めてきたようだった。

「じゃあ行くか」
「うん。パパママ、行ってくるね!」
「謙之パパ、育子ママ、行ってきます!」
「あぁ、楽しんでおいで」
「行ってらっしゃい」

 二人に見送られながら車を出す。暫く走らせていると、うさから旅行の日程を再確認する質問が来た。

「泊まるのは温泉街なんだよね?」
「あぁ、思い出の場所の近くに温泉街があるんだ」
「わぁい、温泉!」
「楽しみか? ちびうさ」
「うん! 温泉だけじゃなく今も楽しいよ!」

 後部座席で体を揺らしながら跳ねるちびうさを見て、うさと目を合わせる。その可愛らしい仕草に微笑みを交わしたオレたちは幸せを分かち合う。

「それにしてもはしゃぎすぎじゃなーい?」
「だって、未来ではパパやママとドライブ旅行なんてしたことなかったもん」
「そうなのか?」
「うん。旅行には行くんだけど、王族ともなると警護のみんながいつもそばに居るし」
「そっか。じゃあ今回は思いっきり楽しんじゃおう!」
「うん!」

 ハイタッチする恋人と未来の娘をバックミラー越しに見て口元が緩む。そうだよな。オレは思い出の場所を解明することに気を取られていたが、初めての三人での旅行なんだ。たっぷり楽しんで「今」の思い出を作ればいいじゃないか。
 そう思ったオレは二人の嬉しそうな声を聞きながら運転を続けた。





 現地の旅館に着き、駐車場に車を停めたオレたちは受付へ向かった。

「こんにちは。予約した地場です」
「いらっしゃいませ。お部屋へ案内いたします」

 通された部屋は三人でも十分すぎるほど広い部屋で、窓からの眺めも良い景色だった。

「早速浴衣に着替えて街へ行こうよ」
「あぁ。いいぜ」
「ねぇねぇ、温泉街ってどんな所なの?」
「ふふっ、行けば分かるわよ」
「うん!」

 着替えを済ませたオレたちはちびうさが真ん中へくるように手を繋いで、温泉街へ向かった。





「まもちゃん、アレなぁに?」
「アレは射的だな。空気鉄砲でコルクを飛ばして的に当てるんだよ」
「やりたいやりたい!」
「あたしもー」

 二人して浴衣の裾を掴んでおねだりしてくるので少し恥ずかしかったが、今日は元々たっぷり楽しんでもらうつもりだ。オレは店主にお金を渡してコルクを三つずつ受け取った。

「一つの的を狙い続けてもいいし、全部違う的に当ててもいいってよ」
「よーし……そりゃっ!」
「あたしも……えいっ!」

 一発目。二人とも検討外れな方向へ飛んでいった。

「あーん! 全然できないよぉ」
「……なるほど」

 べそをかくうさと、何かを掴んだようなちびうさ。こうして見ると親子なのに全然似てないところも可愛いよな。なんて惚気と親バカな感想が浮かんでくる。

「違うのにしようっと」
「もう少し……角度を上げて……」

 二発目。うさは全く違う場所にある景品を狙ってまたも外れる。そしてちびうさは。

 ポンッ!

「当たった!」
「凄いじゃないか!」
「えっ、ちびうさ当てたの?」
「えっへん!」

 落としたのは小さなネコの人形だったが、人生初の射的を二発目で把握するなんてスナイパーの素質があるんじゃないかと笑みが零れる。

「もう一発あるぞ」
「うん!」
「あたしも頑張るぞ!」

 三発目。やはり別の的に狙いを定めたうさだったが、スレスレ当たらず今回も外れる。

「よし……あれなら……」

 ポンッ!

 再び軽快な音を鳴らせたちびうさ。これは本当に天性の才能なんじゃないだろうか。当てたのはさっきのと同じシリーズと思われるウサギの人形だった。

「はぁ。ホントにあたしって何やってもダメだなぁ……」
「はいっ!」
「えっ?」

 ガックリと肩を落とすうさに、ちびうさがネコとウサギを差し出す。

「好きな方選んでいいよ」
「いいの?」
「うん。元々そのつもりだったし」
「ありがとう。ちびうさ」

 うさは少し涙ぐみながらウサギの人形を受け取った。

「ごめんね。四発あればまもちゃんのも取れたのに」
「大丈夫だよ。面白いものも見学できたしな」

 サラッと末恐ろしい発言をする娘に汗をたらしつつ、オレたちは散策を続けることにした。

 その後オレたちは出来立ての温泉饅頭を頬張りながらヨーヨー釣りをしたり、みんなへのお土産を買ったりしながら楽しく街を満喫した。
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