名探偵ほたる
その日の夜。夕食を食べ終えたはるか、みちる、せつなの三人がリビングでコーヒーを飲みながらくつろいでいると、キッチンから愛娘の悲鳴が聞こえてくる。
「あーっ!?」
「ど、どうしたの? ほたる」
「無いのっ! 楽しみに取っておいたプリンが!」
「プリン?」
大慌てでリビングへ戻り事情を説明するほたるに、素っ頓狂な声を上げるはるか。
「あぁ、あの行列のできるスイーツ屋のか」
「ちびうさちゃんたちと並んでやっと買えたのに……」
「確かに取っておいたの?」
「うん、冷蔵庫に入れておいたよ」
半泣き状態の娘を見たみちるは噓を吐いているとは思えず、はるかたちの方へ振り返る。すると気まずそうに苦笑いを浮かべているせつなと目が合った。
『……あなたが食べたの?』
みちるが小声で訊くと、せつなは手を合わせながらコクコクと頷いた。
『面白い展開になりそうだな』
『はるか?』
『ここはほたるが自力で気付くか芝居を打たないか?』
『ふふっ、楽しそうね』
再び冷蔵庫を漁っているほたるを指差しながら提案をするはるかと、それに乗り気なみちる。
『ちょっと!?』
『いいじゃない。夕食の時に話してた探偵ぶりを披露してもらいましょうよ』
夕食の時、なるるのミラーを見つけたことを嬉しそうに話していたほたるを思い出したみちるがウインクをしながら言うと、せつなも溜息を吐きながら同意した。
『まぁ、私のせいだしね……』
『決まりだな』
三人が頷きあうと、ほたるがリビングへ戻って来る。
「……もしかして、ママたちの誰かが食べた?」
「そんな訳ないじゃない」
「じーっ」
白々しく高めの声で答えるみちるに対して疑惑の眼差しを向けるほたる。
「もし僕たちが食べたって言うなら、推理してみせなよ。可愛い探偵さん?」
「……いいよ。この難事件を見事に解いてあげるわ」
「まぁ、頼もしいわね」
ノリノリの二人とは対照的に口数が少ないせつな。そんな様子を見たはるかは笑いを堪えながらほたるを誘導するようみちるへアイコンタクトをした。
「ならほたる。プリンは今朝までは有ったって言うのね?」
「うん。学校へ行く前に確認したもん」
「ということは……帰るのが遅かったせつなに食べるチャンスはあまりないから、私とはるかのどちらかが食べたってこと?」
『お、早くもミスリードを……』
『はるか、あまり吹き出さないで』
せつなから気を逸らすトラップを仕掛けるみちるを見て口を押さえるはるかと、バレないか心配するせつなを尻目にほたるは切り返す。
「そうとも言い切れないよ。せつなママにも食べるチャンスは十分あったもの」
「あら、じゃあせつなが犯人なの?」
「まだ分かんない……でも三人のうち誰かが食べたのは間違いないハズよ」
「だから僕らじゃないって言ってるだろ?」
「うーん……」
唸りながら思案するほたるを優しく見守る三人。するとほたるは何かに気付いたように目を見開く。
「……せつなママ」
「な、なぁに? ほたる」
「今日は口数が少ないけど、どうしたの?」
「べ、別に……ちょっと仕事の疲れが出てて……」
「あたしが宿題をやりに部屋へ向かう時に見かけたんだけど、キッチンに居たよね?」
ギクッ
そんな擬音が聞こえるよう大袈裟に体を震わせるせつな。
『意外と演技派だなぁ』
『聞こえるわよ?』
ほたるとせつなの様子を楽しそうに観察する二人がクスリと笑いあいながら状況を見守る。
「だ、だからって私が食べたことにはならないわよ?」
「それはそうだけど……」
「冷蔵庫なんだから、料理をするみちるが怪しいんじゃない?」
「みちるママ?」
「あら、私?」
自分の番が回ってきたと嬉しそうに笑うみちる。
「そうよ、料理をするみちるじゃないと野菜室にあるなんて気付かないわ!」
「野菜室?」
「えっ?」
言っている意味が分からない。そんな素振りで訊き返すはるかと、しまったという顔をするせつな。
「……ついに尻尾をだしたわね、真犯人さん!」
「いや、その……」
「プリンって野菜室に有ったのか?」
「うん。あたしが間違って食べられないように隠したの」
「つまりそれを知っているのは持ち主であるほたると、料理をするみちる。それに……」
「犯人のせつなママだけよ!」
謎は解けた。満足気な表情でせつなを見つめるほたると、心の中で拍手を送る三人。
「せつな……本当に君がやったのか?」
「出来心で……つい……」
「あなただけは食べないって信じてたのに」
「許して……あんまり美味しそうだったから……」
まるで刑事ドラマのようにオーバーな演技をする三人。それを眺めていたほたるがせつなの元へ寄り、手を差し出す。
「せつなママ……間違いは誰にでもあるわ」
「ほたる……」
「もう一回並んでプリンを買ってきてくれたら水に流すよ」
「ありがとう、ほたる」
涙を浮かべながらほたるの手を取るせつな。こうして外部家族プリン消失事件は解決したのであった。
「じゃあ、あたしもう寝るね?」
「えぇ。本当にごめんなさいね」
「もういいよ。あと……」
「どうしたの?」
自室へ向かう足を止めたほたるは、三人に振り返って笑顔で言った。
「今日は付き合ってくれてありがと!」
ペロッと舌を出しながらそう告げると、ほたるは駆け足でリビングを後にした。
「気付いてたのか」
「ふふっ、本当に探偵さんみたいね」
「何だか私が一番疲れたわ……」
「元はと言えばせつながプリンを食べちゃうからじゃない」
「それは……反省してる」
「ふふっ」
「あははっ」
学校と団らんの場で起きた二つの小さな事件。
それらを解決に導いた小さな探偵を愛おしく思いながらすっかり冷めたコーヒーを口に含む三人であった。
END
「あーっ!?」
「ど、どうしたの? ほたる」
「無いのっ! 楽しみに取っておいたプリンが!」
「プリン?」
大慌てでリビングへ戻り事情を説明するほたるに、素っ頓狂な声を上げるはるか。
「あぁ、あの行列のできるスイーツ屋のか」
「ちびうさちゃんたちと並んでやっと買えたのに……」
「確かに取っておいたの?」
「うん、冷蔵庫に入れておいたよ」
半泣き状態の娘を見たみちるは噓を吐いているとは思えず、はるかたちの方へ振り返る。すると気まずそうに苦笑いを浮かべているせつなと目が合った。
『……あなたが食べたの?』
みちるが小声で訊くと、せつなは手を合わせながらコクコクと頷いた。
『面白い展開になりそうだな』
『はるか?』
『ここはほたるが自力で気付くか芝居を打たないか?』
『ふふっ、楽しそうね』
再び冷蔵庫を漁っているほたるを指差しながら提案をするはるかと、それに乗り気なみちる。
『ちょっと!?』
『いいじゃない。夕食の時に話してた探偵ぶりを披露してもらいましょうよ』
夕食の時、なるるのミラーを見つけたことを嬉しそうに話していたほたるを思い出したみちるがウインクをしながら言うと、せつなも溜息を吐きながら同意した。
『まぁ、私のせいだしね……』
『決まりだな』
三人が頷きあうと、ほたるがリビングへ戻って来る。
「……もしかして、ママたちの誰かが食べた?」
「そんな訳ないじゃない」
「じーっ」
白々しく高めの声で答えるみちるに対して疑惑の眼差しを向けるほたる。
「もし僕たちが食べたって言うなら、推理してみせなよ。可愛い探偵さん?」
「……いいよ。この難事件を見事に解いてあげるわ」
「まぁ、頼もしいわね」
ノリノリの二人とは対照的に口数が少ないせつな。そんな様子を見たはるかは笑いを堪えながらほたるを誘導するようみちるへアイコンタクトをした。
「ならほたる。プリンは今朝までは有ったって言うのね?」
「うん。学校へ行く前に確認したもん」
「ということは……帰るのが遅かったせつなに食べるチャンスはあまりないから、私とはるかのどちらかが食べたってこと?」
『お、早くもミスリードを……』
『はるか、あまり吹き出さないで』
せつなから気を逸らすトラップを仕掛けるみちるを見て口を押さえるはるかと、バレないか心配するせつなを尻目にほたるは切り返す。
「そうとも言い切れないよ。せつなママにも食べるチャンスは十分あったもの」
「あら、じゃあせつなが犯人なの?」
「まだ分かんない……でも三人のうち誰かが食べたのは間違いないハズよ」
「だから僕らじゃないって言ってるだろ?」
「うーん……」
唸りながら思案するほたるを優しく見守る三人。するとほたるは何かに気付いたように目を見開く。
「……せつなママ」
「な、なぁに? ほたる」
「今日は口数が少ないけど、どうしたの?」
「べ、別に……ちょっと仕事の疲れが出てて……」
「あたしが宿題をやりに部屋へ向かう時に見かけたんだけど、キッチンに居たよね?」
ギクッ
そんな擬音が聞こえるよう大袈裟に体を震わせるせつな。
『意外と演技派だなぁ』
『聞こえるわよ?』
ほたるとせつなの様子を楽しそうに観察する二人がクスリと笑いあいながら状況を見守る。
「だ、だからって私が食べたことにはならないわよ?」
「それはそうだけど……」
「冷蔵庫なんだから、料理をするみちるが怪しいんじゃない?」
「みちるママ?」
「あら、私?」
自分の番が回ってきたと嬉しそうに笑うみちる。
「そうよ、料理をするみちるじゃないと野菜室にあるなんて気付かないわ!」
「野菜室?」
「えっ?」
言っている意味が分からない。そんな素振りで訊き返すはるかと、しまったという顔をするせつな。
「……ついに尻尾をだしたわね、真犯人さん!」
「いや、その……」
「プリンって野菜室に有ったのか?」
「うん。あたしが間違って食べられないように隠したの」
「つまりそれを知っているのは持ち主であるほたると、料理をするみちる。それに……」
「犯人のせつなママだけよ!」
謎は解けた。満足気な表情でせつなを見つめるほたると、心の中で拍手を送る三人。
「せつな……本当に君がやったのか?」
「出来心で……つい……」
「あなただけは食べないって信じてたのに」
「許して……あんまり美味しそうだったから……」
まるで刑事ドラマのようにオーバーな演技をする三人。それを眺めていたほたるがせつなの元へ寄り、手を差し出す。
「せつなママ……間違いは誰にでもあるわ」
「ほたる……」
「もう一回並んでプリンを買ってきてくれたら水に流すよ」
「ありがとう、ほたる」
涙を浮かべながらほたるの手を取るせつな。こうして外部家族プリン消失事件は解決したのであった。
「じゃあ、あたしもう寝るね?」
「えぇ。本当にごめんなさいね」
「もういいよ。あと……」
「どうしたの?」
自室へ向かう足を止めたほたるは、三人に振り返って笑顔で言った。
「今日は付き合ってくれてありがと!」
ペロッと舌を出しながらそう告げると、ほたるは駆け足でリビングを後にした。
「気付いてたのか」
「ふふっ、本当に探偵さんみたいね」
「何だか私が一番疲れたわ……」
「元はと言えばせつながプリンを食べちゃうからじゃない」
「それは……反省してる」
「ふふっ」
「あははっ」
学校と団らんの場で起きた二つの小さな事件。
それらを解決に導いた小さな探偵を愛おしく思いながらすっかり冷めたコーヒーを口に含む三人であった。
END
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