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恋のつぼみ

side ちびうさ(その2)



「十五分前か」

 あたしは気持ちを落ち着けるため、少し早めに待ち合わせ場所へ着いていた。きっとほたるちゃんに会うと、また緊張して何も話せなくなってしまうから。

「落ち着け、落ち着くのよ……」

 胸に手を当て、心を静める。

「だ~れだ?」
「へっ?」

 突然、視界が塞がる。
 誰だろう? なんて思うわけがない。相手はあの子しかいないのだから。

「ほたるちゃん」
「あたりー」
「早かった……ね……」

 後ろを振り向いた瞬間、体が硬直した。彼女が纏う可愛さ全開のオーラに。

「どうしたの?」
「いや、可愛いなって思って」
「えへへ~、みちるママがコーディネートしてくれたんだよ!」

 確かに今日のほたるちゃんはいつもと違う。普段、ほたるちゃんは黒や紫を好んで着る。もちろん、そんな大人びた雰囲気のほたるちゃんも大好きなんだけど、今日は違った。白を基調としていて、スカートにフリルまでついている。まるで童話に出てくるお姫様のようだった。

 どうしよう。いつも以上にほたるちゃんと目を合わせることが出来ない。

「そういうちびうさちゃんだって、可愛いよ?」
「ほんと?」
「うん、お姫様みたい!」

 二人して同じような感想を持っていた。やっぱり気が合うのかな? 少し嬉しく思いながら、ほたるちゃんに対して向き合う。

「あの、今日は来てくれてありがとね」
「もちろんだよ! ちびうさちゃんのお誘いだもん」
「えへへっ」
「ふふっ」

 あたしたちは笑いあって、デートに出発した。





う「なかなかいい感じじゃない」
亜「そうね……でも、本当にこのまま尾行を続けるの?」
美「そりゃそうよ! 隙あらば、サポートしていくわよ!」
ま「でも帽子にサングラスにマスクって……完全にあたしら不審者だよ?」
美「だってバレたら意味ないじゃない」
レ「はぁ……」
亜「先行き不安ね」





 それからあたしたちは、色々な場所を見て周った。
 まずは本屋さんへ行き、新刊のチェック。ほたるちゃんは何だか難しそうな本を買って、あたしはマンガを買った。

「ん?」

 あたしたちが本屋さんを出ようとすると、いかにも怪しい五人の女の人がこちらの様子を窺っていた。

「まさか」

 ついて来てたの? いくら心配してくれてるとはいえ、あたしたちのデートをひっかき回されたらタマッタもんじゃない。

 カ・エ・レ!

 そう身振り手振りで追い返そうとするけど、通じてないのか手を振り返してきた。

「どうしたの?」
「えっ」
「誰に手を振ってるの?」
「いや、何でもないよ……早く出よう?」
「う、うん」





 あたしは周りを警戒しつつ、ほたるちゃんの手を引いてちょっと高級な雑貨屋さんに入った。そこには、素敵なアンティークの置物やランプがあって、ほたるちゃんは欲しそうにしていたけど、とても買えそうにない値段を見てあたしたちはそそくさと退店した。

店員「あのぉ……」
う「はい?」
店員「大変失礼ですが、その格好だと不審者に見えますので……」
ま「いや、あたしたちはあの子らの保護者で……」
店員「お嬢様方なら、もう退店されましたよ?」
う「えっ?」
亜「し、失礼しました!」
美「行くわよ、みんな」
レ「やっぱり、こうなったわね」





 その後ファミレスでお昼を食べてから、映画を観に行った。何が観たいかほたるちゃんに尋ねたら、意外にも洋画のミステリーものだったので少しビックリした。こういうのも好きだったんだ。

う「へぇ、まさかあの人が犯人だったなんてねー」
美「うさぎちゃん……ポップコーン食べてるとこ悪いけど、今日の目的は覚えてる?」
う「もちろん! あの子たちをサポートするためよ!」
レ「なら、早く追いかけないと見失うわよ?」
う「えっ?」
ま「もう、外に出ちゃったよ」
う「い、急がなきゃ!」





 そして、途中うさぎたちの援護射撃のおかげで色々あったけど楽しい一日だった。
 最後に夕食はどこにしようかとほたるちゃんに尋ねたら、とっておきの場所があるんだよって言ってくれたので、そこへ行くことにした。

「わぁ、オシャレなイタリアンカフェだね~」
「えへへ、前にママたちに連れてきてもらったんだ」
「そうなんだ」

 そうして、あたしたちはお店に入って行った。パスタを食べ終えアイスティーを飲んでいると、ほたるちゃんが不意に切り出す。

「あたしね、ちびうさちゃんに嫌われるようなことしちゃったのかなって、ずっと思ってたの……」
「ほたるちゃん」
「ずっと目を合わせてくれなかったし、会話もほとんど出来なかったから」
「ち、違うの! それはあたしがバカだから……真逆のこと、しちゃってて」
「真逆?」
「うん……ほたるちゃんを見ると、胸がドキドキして顔が赤くなって……まともに顔を見れなかったの」
「ち、ちびうさちゃん……それって……」
「ん?」
「恋、なんじゃ……」
「そうだよ?」
「そうだよって……えぇっ!?」

 ほたるちゃんは大声を上げるとしばらくの間、固まっていた。
 どうしよう。雰囲気に流されて告白してしまった。これで断られたら、もう立ち直れないかも。

「えっ、あの……だって、その……」

 珍しく狼狽するほたるちゃん。そりゃあそうだよね。友だちだと思ってた、しかも同性の子から告白されるなんて。
 ほたるちゃんは顔を真っ赤にして、頬を押さえている。そんな仕草も可愛いな。なんて思っているあたしは吞気なんだろうか。

「えっと……つまりちびうさちゃんはその、あたしのことが好きって……いうこと?」
「うん」
「お友だちじゃなくって、それ以上の?」
「うん」
「そっか……」

 ほたるちゃんは、目を閉じてゆっくり深呼吸したあとに続けた。

「あの……何て言ったらいいか分からないけど」
「うん」
「ありがとう……あたし、ちびうさちゃんに好きって言ってもらえて本当に嬉しかったよ……でも正直なところ、よく分からないの……今まで恋とか考えたことなかったし」
「そうだね」

 それはあたしが一番よく知っていることだった。いつも誰かを応援したり、助けたりしている姿ばかり見ていたから。

「だから、少し待ってほしいの……今すぐに答えは出せないから」
「うん、わかった」
「ごめんね、あたし……」
「いいんだよ、あたしは自分の気持ちを正直に伝えただけだから」
「ちびうさちゃん」
「これからも、友だちでいてくれる?」
「うん、もちろん!」
「ありがとう、ほたるちゃん」
「じゃあ、そろそろ出ようか?」
「うん」

 そうして、あたしたちはお店を出た。

「じゃあ、また明日ね?」
「うん、今日は本当に楽しかったよ」
「あたしも」
「それじゃあね」
「うん、バイバイ!」

 あたしはほたるちゃんの姿が見えなくなるまで見送った。
 そして。

「ちびうさ」

 うさぎが電柱の陰から出てくる。

「今日はありがとね」
「えっ?」
「ついて来てくれて」

 色々あったけど、何だかんだで楽しい一日だったから。

「いいのよ……それでほたるちゃんとはどうなったの?」
「見てなかったの?」
「流石にそのシーンを覗くのは悪いじゃない」
「ふふっ、ヘンなとこ気を遣うんだから」

 あたしは一呼吸置いて答える。

「告白したよ」
「おぉ、やったじゃない! それで?」
「今はまだ気持ちが分からないから、待ってほしいって」
「そっか」
「でも、おかげで胸がスッキリした気がする」
「ちびうさ……」
「あたしたち、これからどうなるか分からないけど……精いっぱい頑張ってみるよ」
「うん、その意気よ!」
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」

 そうして、長い一日が終わった。
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