恋のつぼみ
side ちびうさ(その1)
土萠ほたるちゃん。
優しくて、温かくて、明るい子。
白く透き通った綺麗な肌。深いミステリアスな瞳。癒しの力。
その全てが好きだった。
あたしはほたるちゃんに恋をしていた。
「はぁ……」
「どうしたのよ、ちびうさ?」
「別に……」
「またほたるちゃんのこと、考えてたんでしょ?」
「うっ」
図星を突かれ、動揺する。
「全く……あれだけ仲が良いのに、何をこれ以上望むっていうのよ」
「あたしは、ほたるちゃんと恋人になりたいんだよ!」
思わず声を大にして告白する。あたしがほたるちゃんに対して抱いている気持ちは、当の本人を除いてみんなが知っていることだから。
ほたるちゃんは聡い子だけど、自分のことに関してはかなり鈍感だと思う。あたしの気持ちにも気づかないし、クラスの子たちからの好意にも気付かない。
実際、ほたるちゃんはかなりモテていた。見た目は可愛くて綺麗だし、成績優秀、ちょっと毒づくところもあるけど、誰に対しても優しい。そんなほたるちゃんを男子が放っておくハズもなく、幾度となくアプローチを受けているのだが、ほたるちゃんは全く気付いていない。挙句の果てには。
みんな優しくていい子だね。
なんてあたしに言う始末だ。だから撃沈者が後を絶たない。あたしを含めて。
「でもさ、あんたたちラブラブじゃん」
「それは友だちの延長線上だから……」
そう。
友達。親友。仲間。
ほたるちゃんがあたしに抱いている気持ち。あたしとはズレている気持ち。
「はぁ……どうしたらいいんだろう」
「よし! ここはあたしが人肌脱いでやろうじゃないの!」
「へっ?」
「ほたるちゃんとのデートをセッティングしてあげるって言ってるのよ」
「いいってば、余計なことしないでよ」
「何言ってるのよ……あんた、ほたるちゃんとデートしたくないの?」
「そりゃあ、したいけど……」
「決まりね! それじゃあみんなにも連絡して……」
気乗りしないあたしを置いてけぼりにして、うさぎはみんなに連絡を始めた。絶対楽しんでるでしょ、この人。
翌日、うさぎたちに呼ばれてパーラークラウンに行くと、いつもの五人という表現も失礼だけどみんなが待ち構えていた。
「あ、来た来た」
「さぁ、座って?」
「何なのよ、もう」
あたしは世話焼きお姉さんが五人もいたことに驚きながら、席に着く。
「それじゃあ、早速始めましょうか!」
美奈子ちゃんが号令をかける。そのミーハー根性はうさぎよりスゴイかもしれない。
「ちびうさちゃんの恋愛大作戦!」
「はぁ……」
あたしはため息を吐いた後、観念して詳しく話を聞くことにした。
「で、これから何をするっていうのよ」
「それはこれから考えるのよ」
「みんなで意見を出しあってね?」
なんて行き当たりばったりな。大体うさぎ、美奈子ちゃん、まこちゃんの3人は分かるけど、真面目な亜美ちゃんとレイちゃんまで居るのはどういうことだろう?
「ちびうさちゃんとほたるちゃんはあたしたちにとって妹みたいなものだから、悩みがあったら何でも相談していいのよ?」
亜美ちゃんがあたしの頭を撫でながら言う。まぁ好意でやってくれるなら、ありがたいんだけど。
「それじゃあ、まずデートコースなんだけど」
「ほたるちゃんって何が好きなの?」
「読書とランプ集めかな?」
「わぁ、オシャレな趣味だね」
「じゃあ本屋さんと雑貨屋さんは確定ね……後はやっぱり映画?」
「ほたるちゃん、どんな映画が好きかな?」
「う~ん、難しいな……恋愛ものとか観るのかな?」
「やっぱり子供はアニメでしょ! 今、丁度魔法少女ものが……」
「却下」
美奈子ちゃんの提案に、即答で断りを入れる。
「えぇー?」
「そんな子どもっぽいもの、ほたるちゃんは観ないよ」
「じゃあ何なら観るのよ?」
「ほたるちゃんって、普段どんなことしてるの?」
「う~ん……アインシュタインの方程式を書いたり、イェイツの詩を暗唱したりとかしてるけど」
「どんな小学生よ」
「じゃあ、哲学的な映画?」
「ごめん、それはあたしがムリ」
再び即答する。こうやって考えると、あたしとほたるちゃんってよく仲良くしてるなぁって思う。共通の趣味も話題もないのに。
「はぁ……あたしって本当にほたるちゃんとお似合いなのかなぁ」
「えっ? どう見たって仲良しカップルに見えるわよ?」
「でも、あたしはほたるちゃんの言ってること、難しくてよく分からないし……」
まぁそんなところも好きなんだけどね。と付け加えると。
「あんまり気にしない方がいいわよ? 要はフィーリングが合えばいいんだから」
それまで沈黙を守っていたレイちゃんが言う。やっぱり冷静な美人の言うことは頼りになるなぁ。
「そうだね」
「じゃあ、映画はパスして……やっぱり最後は夜景の綺麗なレストランよねぇ」
「そんなドレスコードのありそうな場所に小学生が入れると思う?」
あたしは今日、何度目かのため息を吐きながら言った。
「そうか……う~ん、じゃあほたるちゃんの好きな食べ物は?」
「日本そばだよ」
「あら、渋い趣味してるわね」
「おそば屋さんか、いまいちムードに欠けるわねぇ」
「もういいよ、みんなもう十分だから……ありがとう」
もう疲れたよ。後は自分でなんとかしよう。
「とりあえず、本屋さんと雑貨屋さんに寄って、映画とご飯はほたるちゃんに訊いてみるから」
「そう? それならいいけど」
「ところで、そもそもどうやってほたるちゃんをデートに誘えばいいのよ?」
「えっ?」
「そりゃあ、今度の休みに遊びに行こうって言えばいいのよ」
「それが言えないから苦労してるんじゃない」
「あ、そうだったわね」
「ちょっと待てよ? 今まであんなに仲良くしてて、何でそんなことも言えないのさ?」
まこちゃんが不思議そうな顔で訊いてくる。
そう。それが今のあたしにとって、最大の問題だった。
「もう、無理なの……」
「何が?」
「ほたるちゃんを見ると、顔が真っ赤になっちゃって……まともに話もできないの……」
「えっ!? そんな状態だったの?」
「そうなのよ、全くこの子は……」
「じゃあ学校とかどうしてるの?」
「友だち経由で話すとか……直接は話してない……」
「それ、マズイんじゃない?」
「ほたるちゃん、きっとちびうさちゃんに嫌われたと思ってるわよ?」
「やっぱそうだよね……最近、浮かない顔してるから」
「全く、あんたがそんな態度だから上手くいかないんでしょ?」
「とりあえず、ほたるちゃんを誘ってみな! 今日電話をかけてさ」
「うん……頑張る……」
そう言って、あたしは店から出て行った。
亜「うさぎちゃん……話が違うじゃない」
美「そうよ、これじゃあデートどころか険悪な雰囲気になっちゃうわよ」
う「いやぁ、あたしもそこまで重症だとは……」
美「こりゃあ、デート当日は張り込みをしなきゃダメね!」
ま「えっ、後をつけるのか?」
美「だって何があるか分からないじゃない! あたしたちが陰からフォローしてあげなきゃ!」
レ「あまり気が進まないけど、仕方ないわね」
美「じゃあ日程が決まったら教えてよ? うさぎちゃん」
う「は~い!」
土萠ほたるちゃん。
優しくて、温かくて、明るい子。
白く透き通った綺麗な肌。深いミステリアスな瞳。癒しの力。
その全てが好きだった。
あたしはほたるちゃんに恋をしていた。
「はぁ……」
「どうしたのよ、ちびうさ?」
「別に……」
「またほたるちゃんのこと、考えてたんでしょ?」
「うっ」
図星を突かれ、動揺する。
「全く……あれだけ仲が良いのに、何をこれ以上望むっていうのよ」
「あたしは、ほたるちゃんと恋人になりたいんだよ!」
思わず声を大にして告白する。あたしがほたるちゃんに対して抱いている気持ちは、当の本人を除いてみんなが知っていることだから。
ほたるちゃんは聡い子だけど、自分のことに関してはかなり鈍感だと思う。あたしの気持ちにも気づかないし、クラスの子たちからの好意にも気付かない。
実際、ほたるちゃんはかなりモテていた。見た目は可愛くて綺麗だし、成績優秀、ちょっと毒づくところもあるけど、誰に対しても優しい。そんなほたるちゃんを男子が放っておくハズもなく、幾度となくアプローチを受けているのだが、ほたるちゃんは全く気付いていない。挙句の果てには。
みんな優しくていい子だね。
なんてあたしに言う始末だ。だから撃沈者が後を絶たない。あたしを含めて。
「でもさ、あんたたちラブラブじゃん」
「それは友だちの延長線上だから……」
そう。
友達。親友。仲間。
ほたるちゃんがあたしに抱いている気持ち。あたしとはズレている気持ち。
「はぁ……どうしたらいいんだろう」
「よし! ここはあたしが人肌脱いでやろうじゃないの!」
「へっ?」
「ほたるちゃんとのデートをセッティングしてあげるって言ってるのよ」
「いいってば、余計なことしないでよ」
「何言ってるのよ……あんた、ほたるちゃんとデートしたくないの?」
「そりゃあ、したいけど……」
「決まりね! それじゃあみんなにも連絡して……」
気乗りしないあたしを置いてけぼりにして、うさぎはみんなに連絡を始めた。絶対楽しんでるでしょ、この人。
翌日、うさぎたちに呼ばれてパーラークラウンに行くと、いつもの五人という表現も失礼だけどみんなが待ち構えていた。
「あ、来た来た」
「さぁ、座って?」
「何なのよ、もう」
あたしは世話焼きお姉さんが五人もいたことに驚きながら、席に着く。
「それじゃあ、早速始めましょうか!」
美奈子ちゃんが号令をかける。そのミーハー根性はうさぎよりスゴイかもしれない。
「ちびうさちゃんの恋愛大作戦!」
「はぁ……」
あたしはため息を吐いた後、観念して詳しく話を聞くことにした。
「で、これから何をするっていうのよ」
「それはこれから考えるのよ」
「みんなで意見を出しあってね?」
なんて行き当たりばったりな。大体うさぎ、美奈子ちゃん、まこちゃんの3人は分かるけど、真面目な亜美ちゃんとレイちゃんまで居るのはどういうことだろう?
「ちびうさちゃんとほたるちゃんはあたしたちにとって妹みたいなものだから、悩みがあったら何でも相談していいのよ?」
亜美ちゃんがあたしの頭を撫でながら言う。まぁ好意でやってくれるなら、ありがたいんだけど。
「それじゃあ、まずデートコースなんだけど」
「ほたるちゃんって何が好きなの?」
「読書とランプ集めかな?」
「わぁ、オシャレな趣味だね」
「じゃあ本屋さんと雑貨屋さんは確定ね……後はやっぱり映画?」
「ほたるちゃん、どんな映画が好きかな?」
「う~ん、難しいな……恋愛ものとか観るのかな?」
「やっぱり子供はアニメでしょ! 今、丁度魔法少女ものが……」
「却下」
美奈子ちゃんの提案に、即答で断りを入れる。
「えぇー?」
「そんな子どもっぽいもの、ほたるちゃんは観ないよ」
「じゃあ何なら観るのよ?」
「ほたるちゃんって、普段どんなことしてるの?」
「う~ん……アインシュタインの方程式を書いたり、イェイツの詩を暗唱したりとかしてるけど」
「どんな小学生よ」
「じゃあ、哲学的な映画?」
「ごめん、それはあたしがムリ」
再び即答する。こうやって考えると、あたしとほたるちゃんってよく仲良くしてるなぁって思う。共通の趣味も話題もないのに。
「はぁ……あたしって本当にほたるちゃんとお似合いなのかなぁ」
「えっ? どう見たって仲良しカップルに見えるわよ?」
「でも、あたしはほたるちゃんの言ってること、難しくてよく分からないし……」
まぁそんなところも好きなんだけどね。と付け加えると。
「あんまり気にしない方がいいわよ? 要はフィーリングが合えばいいんだから」
それまで沈黙を守っていたレイちゃんが言う。やっぱり冷静な美人の言うことは頼りになるなぁ。
「そうだね」
「じゃあ、映画はパスして……やっぱり最後は夜景の綺麗なレストランよねぇ」
「そんなドレスコードのありそうな場所に小学生が入れると思う?」
あたしは今日、何度目かのため息を吐きながら言った。
「そうか……う~ん、じゃあほたるちゃんの好きな食べ物は?」
「日本そばだよ」
「あら、渋い趣味してるわね」
「おそば屋さんか、いまいちムードに欠けるわねぇ」
「もういいよ、みんなもう十分だから……ありがとう」
もう疲れたよ。後は自分でなんとかしよう。
「とりあえず、本屋さんと雑貨屋さんに寄って、映画とご飯はほたるちゃんに訊いてみるから」
「そう? それならいいけど」
「ところで、そもそもどうやってほたるちゃんをデートに誘えばいいのよ?」
「えっ?」
「そりゃあ、今度の休みに遊びに行こうって言えばいいのよ」
「それが言えないから苦労してるんじゃない」
「あ、そうだったわね」
「ちょっと待てよ? 今まであんなに仲良くしてて、何でそんなことも言えないのさ?」
まこちゃんが不思議そうな顔で訊いてくる。
そう。それが今のあたしにとって、最大の問題だった。
「もう、無理なの……」
「何が?」
「ほたるちゃんを見ると、顔が真っ赤になっちゃって……まともに話もできないの……」
「えっ!? そんな状態だったの?」
「そうなのよ、全くこの子は……」
「じゃあ学校とかどうしてるの?」
「友だち経由で話すとか……直接は話してない……」
「それ、マズイんじゃない?」
「ほたるちゃん、きっとちびうさちゃんに嫌われたと思ってるわよ?」
「やっぱそうだよね……最近、浮かない顔してるから」
「全く、あんたがそんな態度だから上手くいかないんでしょ?」
「とりあえず、ほたるちゃんを誘ってみな! 今日電話をかけてさ」
「うん……頑張る……」
そう言って、あたしは店から出て行った。
亜「うさぎちゃん……話が違うじゃない」
美「そうよ、これじゃあデートどころか険悪な雰囲気になっちゃうわよ」
う「いやぁ、あたしもそこまで重症だとは……」
美「こりゃあ、デート当日は張り込みをしなきゃダメね!」
ま「えっ、後をつけるのか?」
美「だって何があるか分からないじゃない! あたしたちが陰からフォローしてあげなきゃ!」
レ「あまり気が進まないけど、仕方ないわね」
美「じゃあ日程が決まったら教えてよ? うさぎちゃん」
う「は~い!」
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