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涙の雨が止む頃に

 久しぶりに来るまもちゃんの部屋。ふかふかのソファーに腰を掛けると、ぬくもりが体を包む。

「寒かったろ?」
「うん……でも、今はあったかいよ」

 こんな方法で暖めてくれるなんて、予想外だったけど嬉しい。

「ホットチョコ飲むか?」
「うん! マシュマロも入れて?」
「りょーかい」

 まもちゃんはあたしにぬくもりを残したままキッチンへ向かった。

「ふんふーん」
「ゴキゲンだな?」
「見てるの、楽しいから」

 カウンターキッチンでチョコとミルクを煮込む。コポコポという音が気持ち良くて、意識は夢の世界に旅立ちそうだった。

「ん……にゃ?」
「お待たせ、お姫様」

 最初に映った景色は、カップ片手にウインクをする最愛の人。

「寝ちゃった?」
「ぐっすりと」
「もう、起こしてよぉ」
「起きたら眠り姫の顔が眺められないじゃないか」

 ということは、もしかしてずっと見られてた?

「どんな顔してた?」
「泣いてたよ」
「えっ……」
「つらい夢でも見たのか?」

 わからない。ほんのうたた寝だし、不安はさっき無くなったのだから。

「まだ……怖いのかな?」
「お月様が?」
「しっかり見れないの……大きくて神秘的で、飲み込まれそうで……」

 前世での故郷。四季はなかったけれど、いつも晴れていた。
 そう、雨なんてものはなかった。

「オレは雨、好きだけどな」
「どうして?」
「空が……泣いてるみたいでさ……」

 いつも突然ロマンティストになる。それは計算とかじゃなくて、根っからそうなんだと思う。無邪気なんだ。心の底から不思議なものに憧れる少年のように。

「月の涙……」
「ん?」
「あたしの代わりに泣いてくれてるのかな……」
「そう、かもな……」

 あたしも大概ロマンティックな思考だなと思う。だけどそんな想像も悪くない。

「オレが……」
「まもちゃん?」
「月が落とした雫は、地球が受け止める」

 窓から見える月へ宣言するように言い切る。それはあまりにも分かりやすい比喩だった。

「くすっ……」
「笑うなよ」
「もう大丈夫……ホットチョコ飲もう?」
「あぁ」

 そう言うと、最愛の人は私のより濃い色をしたチョコレートに口を付けた。いくら好きだからって、女の子より甘いモノ飲むかな。フツー。

「なんだよ?」
「なんでもない」

 幸せそうな表情を見て、高鳴る鼓動。

 そんな彼の仕草に、あたしの心はとろけていくようだった。

 まるでチョコに沈んでいくマシュマロのように。



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