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涙の雨が止む頃に

 また、月を見て泣いてしまった。

 流そうと思って濡れた訳じゃないけれど、地球から眺める月はあの頃を思い出してしまう。

「綺麗だなって、シンプルにそう思えたらよかったのにな……」

 つぶやいても、答えは返って来ない。
 月からも、自分からも。





「どうした?」
「ううん、何でもない……」

 デートをしていても背中を見る時間が増えた。振り向いたら居なくなっているような気がして、同じ速度で歩けない。

「手を繋ごう」
「うん……」

 そんなあたしの想いを見透かしたように、ぬくもりを差し伸べてくれる。

「オレの家へ行くか?」
「いいの?」
「もちろん」

 夜だから誘ってくれたのか、あたしの体調を気遣ってくれたのかは分からない。でも、横並びより向かい合った方がずっと一緒に居られる。そう思いホッとしている自分がいた。





「綺麗だな……」

 深く息を吐くようにポツリと零す。

 どっちが?
 なんてセリフは言わない。きっと、どちらも含んだ言葉で返してくれるから。

「月明かりに照らされた、うさのことだよ……」

 ほら。
 一瞬でこんなことを言ってくる。賢いところも、キザっぽいところも貴方らしい。

「ありがとう」

 自分で言って照れたのか、前を向いたまま視線は交わらない。
 ズレているようで、繋がっている。そんな関係に嬉しさと不安が入り混じる。





 無音の時間が続く。
 マンションまで半分くらいの距離だろうか。等間隔の街灯が夜を感じさせない。

「うさ……」

 不意に足が止まる。引かれた手が離れないよう、ギュッと握り返す。

「まもちゃん?」
「下ばかり向いているから、気になってな……」

 知らないうちに、また逃げていたんだ。自分の故郷から。

「月が怖いか?」

 月だけじゃない。貴方を失うかもしれないこと。そして信じあえていない自分の心も怖かった。

「オレも不安だよ……」
「えっ?」

 愁いを帯びた表情で言う。掌からは悲しみや恐怖の色が流れてくる。

「だから手を握っているんだ……」

 照れた素振りをする姿は、いつもより小さく見えた。

「あたしだけじゃ、なかったんだ……」
「安心したか?」
「うん……怖がり方まで一緒なんて、不思議だね」

 久々の笑顔。
 背丈が違うから、目を合わせる為に視線を上げる。

「うさ……」

 優しく微笑む貴方は、月明かりで輝いていた。

「まもちゃん……」

 少し背伸びをして、影を重ねる。

 互いに想っているのだから、不安は消えないかもしれない。
 だけど、だからこそ繋がってるんだ。

「綺麗な月だね……」
「あぁ……」

 心の雨は、もう止んでいた。
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