「ふぁ……」
「朝から大きなあくびですね」

　サターンの声だった。

「何か最近眠くて……」
「そうですね。朝起きるのも遅いですし、日中もあくびばかりしていますね」
「寝不足かな？」
「いえ……恐らくわたしに関係のある症状でしょう」
「サターンに？」

　原因がサターンにあるって、どういうことだろう。

「はい。推測ですが、転生と急成長を繰り返したせいで体に負担がかかっているのだと思います」
「そうだったんだ」
「申し訳ありません」
「サターンが謝ることないよ。あたしのことでもあるもん」
「ありがとう、ほたる」
「でも、どうすれば治るのかな？」
「今日一日、深層意識に戻って休息を取れば、あるいは……」
「じゃあ試してみようか」
「では、今日はわたしが表に出るということで」
「うん、お願い」
「はい」
「それで、相談なんだけど……」
「何でしょう？」

　あたしはちょっとしたイタズラをサターンに持ち掛ける。

「今日一日、あたしのフリをしてくれない？」
「えっ？」

　突然の誘いに戸惑うサターン。

「それはどういう意味があるのですか？」
「面白そうだから」

　キッパリと即答する。

「ふぅ」

　あたしの意志を確認した為か、サターンはため息を吐く。

「こうなったほたるは頑固ですからね」
「そういうこと♪」
「わかりました……でもちゃんと休むと約束してくれますか？」
「もちろんよ」
「ではしっかり休息を取ってくださいね」
「うん！」

　こうしてあたしは深層意識に入り、眠りについた。



「しかし困りました」

　ほたるのフリをしろと言われても、どう振る舞えばよいのか。いつもほたるは話す相手によって態度を使い分けている。確か家族には甘える感じだったハズ。

「行ってみましょう」

　わたしは覚悟を決めて、リビングへ行くことにした。



「おはよう、ほたる。今日は早いのね？」
「お、おはよう。みちる……ママ」
「……？」

　不思議そうな顔をするみちる。早くもバレてしまった。そう思っていたら。

「ふふっ、まだ寝ぼけてるの？」
「いえ……うん、そうなの！」
「今日の朝はベーコンエッグとロイヤルミルクティーよ？　早く顔を洗ってらっしゃい？」
「う、うん」

　よかった。どうやら大丈夫のようだ。

「しかしほたるの遊びにも困ったものです」

　洗面所から戻ってくると、はるかとせつなが朝食を食べていた。

「おはよう、ほたる」
「おはよう、はるか……パパと、せつなママ」
「どうしたの？　やけに言葉に詰まってるけど」
「いや、何でもありま……ないよ？」
「……？」

　顔を見合わせる二人。

「早く食べないと、冷めちゃうぞ？」
「う、うん」

　わたしはこれ以上ボロを出さないうちに朝食を取ることにした。

「もぐっ」

　わたしがベーコンを食べていると。

「あれ？　珍しいな。いつもは飲み物から飲むのに」
「えっ」

　そうか。まずは眠気を覚ます為に熱いミルクティーから飲むべきだった。

「きょ、今日はベーコンの気分だったの」
「そうか。まぁそんな日もあるよな」
「そう……なの」

　これ以上、家に居るのはマズい。そう思ったわたしは朝食を食べて、足早に支度を済ませた。

「じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」



「行ったか？」
「全く……イジワルね？」
「あははっ、気づいた？」
「困ってたわよ？　サターン」
「はるかにもほたるにも困ったものね」
「せつな……学校でも頼むよ」
「もちろん。あの子もわたしたちの家族だもの」