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想い出は月の中に

「これって……」

 久しぶりの自分の部屋。少しだけ物の配置とかが変わっていたので、窓を開け換気をしながら片づけをしていると、机の引き出しから一冊のノートが出てきた。

「日記……?」

 それはあの子が書き記した一週間の人生。勝手に見るのはどうかと思ってけれど、あの子がどんな想いで暮らしていたのかが気になって最初のページを開いた。



今日は大変な一日だった。いきなり喋る猫に起こされたかと思えば、記憶喪失だと言われ、たくさんの人に出会った。でもみんないい人で、本気であたしのことを心配してくれていた。だからみんなとの想い出をこのノートに書いていこうと思う。またいつ忘れちゃうかもわからないし。



亜美ちゃん
とっても賢くて優しい子。チェスというゲームを教えてもらったけど、難しすぎてルールを覚えるので精一杯だった。いつか頑張って一緒に遊べたらいいな。次のテストの予想範囲も教えてくれた。一緒に勉強会をしてくれる約束もしてくれたので、苦手だけど頑張ろうと思った。



レイちゃん
霊感を持っている不思議な子。美人でクールに見えるけど、オチャメなところもあって可愛い。フォボスとディモスっていう子たちも紹介してもらった。最初はビックリしたけどレイちゃんに懐いている姿を見て、絆の深さを感じた。レイちゃんだけお嬢様学校に通っているらしいので、今度忍び込んでみようかな。



まこちゃん
力持ちでお料理が得意な夢見る女の子。ちょっと怖そうな子だと思ったら、誰よりも家庭的な恋する乙女だった。今度お料理を教えてもらう約束をしたから、衛さんにご馳走を作ってあげたいな。



美奈P
多分、あたしに一番似ている子。遊ぶのが大好きで明るくて前向きで、とにかく気の合う人だった。今イチオシのアイドルの情報をくれたので、今度一緒にコンサートへ行く約束をした。



はるかさん
ちょっとからかわれることもあるけど、カッコよくて面倒見のいい人。高級スポーツカーに乗せてもらった時は目が回るかと思った。またドライブに誘ってくれるみたい。楽しみだな。



みちるさん
上品で優雅な、本当にお姫様みたいな人。ヴァイオリンの演奏を聴かせてもらい、感動のあまり泣いてしまった。急に泣き出したあたしを見て慌てていたところが可愛いと思った。次のコンサートのチケットをくれたから、大事にしまっておこう。



せつなさん
とても落ち着いていて包容力のある人。天文学に詳しいということで、月にまつわるおとぎ話や伝説について教えてもらった。今度はみんなの星についても教えてもらいたいな。



ほたるちゃん
歳相応に無邪気な部分もあれば、ミステリアスなところもある幻想的な子。オセロで対決したけど、一回も勝てなかった。そしてちびうさちゃんというあたしと衛さんの未来の子どもがいることを聞く。写真を見せてもらったら、ピンク色の髪をした可愛らしい子だった。今は未来へ帰ってしまったから会えないけれど、いつかお話してみたいな。



ルナとアルテミス
ルナはあたしのお母さんみたいな存在。お小言も多いけれど、誰よりも心配してくれる大切な家族。アルテミスも美奈Pやルナと深い絆で結ばれていて、素敵だなと思った。ダイアナという娘もいると聞いたので、頭をナデナデしてあげたいなと思った。



衛さん
運命の恋人。最初はいきなり恋人と言われて戸惑ったけど、デートを重ねるうちにどうしてこの人を好きなったのかよくわかった。カッコいいとか優しいとかじゃなく、心から通じあっている人なんだって隣にいるだけで感じ取れた。いつか衛さんじゃなく、まもちゃんって呼べる日がきたら喜んでもらえるかな。



たとえ記憶が戻らなくても、こんな幸せがいつまでも続くことを願って。

月野うさぎ



 日記に書かれていたこと。それは未来へ向かって前に進もうとする気持ちが、痛いほど伝わってくる内容だった。

「ごめん……ごめんね……」

 改めて自分のしたことがどれほど残酷なものだったかを知る。懺悔の涙をいくら流しても、もうあの子と話すことはできない。なら、あたしは誰に謝ればいいのだろう。

「えっ……」

 ふわりと、開けた窓からそよ風が舞い込んできた。まるであの子が慰めてくれたような。都合のいい解釈かもしれないけれど、あたしの罪を赦し、慰めてくれたように感じた。



『あたしは、幸せだったよ』



 風に乗って、声が聞こえる。

 それはまぎれもなく、あの子の声。

 短い時の中で、幸せを見つけ出した子。

 そんなもう一人のあたしが支えてくれた、この命を大切にして生きていこう。

 だから感謝の気持ちを込めて、この言葉を贈る。

 誰よりも優しくて、強かった「月野うさぎ」へ。



 大切な想い出を繋ぎとめてくれて、ありがとう。



 END
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