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想い出は月の中に

 それから一週間。あたしは衛さんとデートを重ねたり、みんなと遊んだりして失った想い出を再び作り上げていった。

「うさぎちゃん」
「なぁに、ルナ?」

 夜に差し掛かる頃。部屋でくつろいでいると、ルナが真剣な眼差しであたしの名前を呼ぶ。

「記憶喪失の原因がわかったわ」
「えっ……」
「これから司令室へ行きましょう……みんなもいるから……」
「う、うん」

 ルナたちのおかげで、いよいよ真相がわかったんだ。これであたしの記憶も戻る。

 あれ?

 じゃあもし記憶が戻ったら、今のあたしはどうなるんだろう。この一週間の想い出や感情は消えてなくなっちゃうのかな。

「そんなの……イヤだよ……」
「うさぎちゃん?」
「な、何でもない……」

 ルナに促されて支度を整える。これで本当に全てが解決するんだろうか。あたしは言い知れぬ不安を抑えつつ、クラウンへ向かうことにした。





 司令室に着くと、みんなが待ってくれていた。もちろん衛さんも。

「じゃあ、結論から言うわね?」
「ルナ……いきなり……」

 口を開こうとするルナを亜美ちゃんが制止する。
 どうしたのかな?
 もしかして解決が難しい問題なのかな。

「いえ、伝えるなら早い方がいいわ……よく聞いて? うさぎちゃん」
「は、はい……」

 ルナは大きく息を吐いて呼吸を整えたあと、あたしの瞳を見つめながら言った。

「うさぎちゃんは、記憶喪失なんかじゃない」
「えっ……?」

 何を、言ってるの?
 あたしは自分の名前も、みんなのことだって覚えていなかったのに。

「本当に盲点だった……最初にあなたを見た時点で気付くべきだった」
「どういう……こと……?」
「これを見て?」

 ルナはコンピュータを操作して、正面モニターに「あたし」の顔を映しだした。

「この子が月野うさぎちゃんよ……」
「し、知ってるよ……あたしだもん……」
「……違うわ」
「えっ?」
「鏡を渡すからよく見比べてみて?」

 あたしはそばに居てくれた衛さんからコンパクトミラーを受け取って、自分の顔とモニターの顔を見比べた。

「あ……ぁ……」

 長い金髪のお団子ツインテールに幼い顔立ち。パッと見ると一見、同一人物にしか見えない。だけど決定的に違う所があった。

「瞳の色が……」
「そう……『月野うさぎ』の瞳の色は青……『あなた』の色はオレンジ……」
「なん……で……」
「あたしたちは、この現象も記憶喪失の症状の一つだと思って言わなかったけれど……」

 だから。

 だからみんな初めて会った時、あたしの目をじっと見ていたんだ。いつもとは違う色に気付いて。

「じゃあ……あたしは、誰なの……?」
「……うさぎちゃんが自分を護るために作り出した表面上の存在よ……」
「ひょうめん……じょう……」
「本当のうさぎちゃんは心の奥底で眠っているの……その代わりに体を動かしてくれるあなたを作った……」

 なに、それ。

 あたしは偽物どころか、人間ですらなかったっていうの?

「みんな……あたし、どうすれば……」

 すがるようにみんなを見ても、悲しそうな表情で俯くだけだった。
 声をかけられないのも当然だ。あたしには「名前」すらないのだから。

「うっ……うわあああっ!?」
「うさっ!」

 あたしは両手で頭を抱えながら、司令室のドアを乱暴に開けてその場を飛び出した。
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