想い出は月の中に
目が覚めると、見知らぬ部屋に居た。
「もう朝よ? 早く起きなきゃ」
枕元で黒猫がお小言を言う。まるでお母さんみたいだなんて思っていると、可愛らしい肉球であたしのおでこをポンポンと叩く。
「今起きるよぉ……って、えっ!?」
「どうしたの? うさぎちゃん」
「ね、ネコが喋ってる!?」
「まるで初めて会った時みたいなことを言うのね?」
「なっ……えっ……」
これはどういう事だろう?
まだ夢でも見ているのかな。動物とお喋りする夢なんて、幼稚園児じゃあるまいし。きっとまだ夢の世界なんだと自分に言い聞かせて、再び眠りに着こうと布団をかぶる。
「うさぎちゃん?」
「これは夢……これは夢なんだ……」
「いい加減に起きなさい!」
しびれを切らしたのか、三日月ハゲの黒猫はあたしの布団をめくりあげた。
「ホントに……現実なの……?」
「どうしちゃったの? まだ寝ぼけてるの?」
「というか……ここ、どこ?」
「えっ?」
部屋を見回しても、全く見覚えのない場所。そして喋る猫。あたしは状況を整理するのに精いっぱいだった。
「うさぎちゃん?」
「う、うさぎって……あたしまで動物扱いしないでよ……」
「っ!?」
「それより、あたしどうしたら……」
「ねぇ、真剣に聞いて?」
突然、あたしの目の前まで来てマジメな顔つきで注意してくる猫に驚きながら、背筋を伸ばす。どうしてかな。この子は今、大切なことを伝えようとしている気がする。
「あなた、自分の名前は?」
「……わかんない」
「ここはどこ?」
「知らない……」
「あたしのことは、覚えてる?」
「今、会ったばかりじゃない……」
黒猫はあたしの瞳をまじまじと見ながら、少し悲しげな表情で口を開いた。
「記憶……喪失……」
「えっ?」
「あなたは、自分のことが思い出せない状態なのよ」
言われて気付いた違和感。確かにあたしは自分が何者なのかも、ここがどこなのかも理解できなかった。ましてやしゃべる猫なんて。
「あたし……誰なの?」
「あなたの名前は月野うさぎ……詳しい情報は省くけど、この月野家に住む高校生よ」
「月野……うさぎ……」
「とにかく、あなたがこうなったのも何か原因があるかもしれないわ」
「原因って?」
「今日は学校を休んで、司令室へ向かいましょう」
「司令室?」
次から次へと出てくる情報に混乱しつつも、何だか頼りになるこの猫ちゃんの言う通りにするのが正しいと思った。
「あたしの名前はルナ……よろしくね」
「ルナ……色々ありがとね」
「今さら遠慮なんてしないでよ……長い付き合いなんだから」
「う、うん……」
着替えと支度を済ませてリビングへ向かうと、美味しそうな朝食の香りが鼻をくすぐる。
「今日は早いのね? 朝ごはん出来てるわよ」
「えっと……」
「あなたのママよ」
肩に乗っていたルナがこの人のことを教えてくれる。そっか、キレイなお母さんだなぁ。
「うさぎ?」
ルナがお母さんと教えてくれた人は、あたしのことを不思議そうな顔で見ていた。
「な、何でもないよ?」
「そう……進悟はとっくに学校へ行っちゃったから、うさぎも早く朝ごはんを……」
「あ、ごめんなさい! ちょっと急いでるから、もう行くね?」
「えっ?」
「行ってきまーす!」
あたしはボロを出す前に玄関へ行き、慌てて靴を履いた。
「ちょっと!?」
「じゃあ、行ってくるね!」
ドアを開けてダッシュで家を出ると、ルナが司令室とかいう場所への道筋を案内してくれた。
「もう朝よ? 早く起きなきゃ」
枕元で黒猫がお小言を言う。まるでお母さんみたいだなんて思っていると、可愛らしい肉球であたしのおでこをポンポンと叩く。
「今起きるよぉ……って、えっ!?」
「どうしたの? うさぎちゃん」
「ね、ネコが喋ってる!?」
「まるで初めて会った時みたいなことを言うのね?」
「なっ……えっ……」
これはどういう事だろう?
まだ夢でも見ているのかな。動物とお喋りする夢なんて、幼稚園児じゃあるまいし。きっとまだ夢の世界なんだと自分に言い聞かせて、再び眠りに着こうと布団をかぶる。
「うさぎちゃん?」
「これは夢……これは夢なんだ……」
「いい加減に起きなさい!」
しびれを切らしたのか、三日月ハゲの黒猫はあたしの布団をめくりあげた。
「ホントに……現実なの……?」
「どうしちゃったの? まだ寝ぼけてるの?」
「というか……ここ、どこ?」
「えっ?」
部屋を見回しても、全く見覚えのない場所。そして喋る猫。あたしは状況を整理するのに精いっぱいだった。
「うさぎちゃん?」
「う、うさぎって……あたしまで動物扱いしないでよ……」
「っ!?」
「それより、あたしどうしたら……」
「ねぇ、真剣に聞いて?」
突然、あたしの目の前まで来てマジメな顔つきで注意してくる猫に驚きながら、背筋を伸ばす。どうしてかな。この子は今、大切なことを伝えようとしている気がする。
「あなた、自分の名前は?」
「……わかんない」
「ここはどこ?」
「知らない……」
「あたしのことは、覚えてる?」
「今、会ったばかりじゃない……」
黒猫はあたしの瞳をまじまじと見ながら、少し悲しげな表情で口を開いた。
「記憶……喪失……」
「えっ?」
「あなたは、自分のことが思い出せない状態なのよ」
言われて気付いた違和感。確かにあたしは自分が何者なのかも、ここがどこなのかも理解できなかった。ましてやしゃべる猫なんて。
「あたし……誰なの?」
「あなたの名前は月野うさぎ……詳しい情報は省くけど、この月野家に住む高校生よ」
「月野……うさぎ……」
「とにかく、あなたがこうなったのも何か原因があるかもしれないわ」
「原因って?」
「今日は学校を休んで、司令室へ向かいましょう」
「司令室?」
次から次へと出てくる情報に混乱しつつも、何だか頼りになるこの猫ちゃんの言う通りにするのが正しいと思った。
「あたしの名前はルナ……よろしくね」
「ルナ……色々ありがとね」
「今さら遠慮なんてしないでよ……長い付き合いなんだから」
「う、うん……」
着替えと支度を済ませてリビングへ向かうと、美味しそうな朝食の香りが鼻をくすぐる。
「今日は早いのね? 朝ごはん出来てるわよ」
「えっと……」
「あなたのママよ」
肩に乗っていたルナがこの人のことを教えてくれる。そっか、キレイなお母さんだなぁ。
「うさぎ?」
ルナがお母さんと教えてくれた人は、あたしのことを不思議そうな顔で見ていた。
「な、何でもないよ?」
「そう……進悟はとっくに学校へ行っちゃったから、うさぎも早く朝ごはんを……」
「あ、ごめんなさい! ちょっと急いでるから、もう行くね?」
「えっ?」
「行ってきまーす!」
あたしはボロを出す前に玄関へ行き、慌てて靴を履いた。
「ちょっと!?」
「じゃあ、行ってくるね!」
ドアを開けてダッシュで家を出ると、ルナが司令室とかいう場所への道筋を案内してくれた。