時を越えた出逢い
「どうぞ、プリンセス」
「何か今日のまもちゃん、王子様みたいだね」
うさを月野家からマンションまでエスコートする。これから会う人を意識しすぎたせいだろうか。いつもより丁寧な振る舞いを指摘される。
「今、お茶を淹れるよ」
「ありがと」
機嫌よくテーブルの上に置いてあったファッション雑誌を手に取るうさ。今はまだ、うさのままだ。このまま会話を続けていれば、また彼女に会えるだろうか。
「いかん、これじゃあ浮気みたいじゃないか」
今夜の目的は彼女から真意を訊くこと。そう思いなおしたオレはティーカップを二つ持って、リビングへ向かった。
「お待たせ」
「いい香り……」
「アッサムティーだよ、ミルクとハチミツが合うから入れてみな」
「うん」
湯気が立つ紅茶にフレッシュミルクとハチミツを落とす。改めて香りを楽しんだうさは、ゆっくりとカップを口元に当ててアッサムティーを含んだ。
「おいしい!」
「うさの好きな味だろ? お菓子にも合うぞ」
「そうだ! 今度、輸入品のお菓子屋さんに連れてってくれる?」
「輸入品?」
「商店街にできたんだよ、すっごくオシャレなの」
「あぁ、今度行こう」
そんな風に談笑を始めて、一時間ほど経っただろうか。窓から見える景色は夕暮れから夜空に変わっていた。
「ねぇ、まもちゃん……」
「ん?」
「こうして二人きり、逢瀬を重ねたのは何回目かな?」
うさの雰囲気が変わる。オレはすぐに理解した。
目の前の彼女は、間違いなくセレニティであると。
「その質問に答える前に、訊きたいことがあります」
「えっ?」
「貴女はシルバーミレニアムの王女……プリンセス・セレニティですね?」
「えぇ、もちろん」
キョトンとした顔で答えるセレニティ。何を今さらといった面持ちで首を傾げている。やはりオレの予感は当たっていた。だが大事なのはこの先だ。
「貴女はご自分が今、何処にいて何をしているか理解していますか?」
「うっすらとだけれど……」
「訊かせてもらっても?」
オレの問いかけに、彼女はゆっくりと頷いた。
「夢を……見ているの……」
「ゆめ?」
「えぇ……違う自分として暮らしている夢……」
「それで……?」
「そのわたしは、毎日寝坊して学校という場所で赤点をとって落ち込んで……だけど大好きな人たちと共に、日々を笑顔で過ごしているの……」
「そう、ですか……」
「そして最愛の恋人である、貴方と一緒に夜空を見る夢……」
窓の外に目をやり、愛おしそうに月を眺めるセレニティ。その姿は、まるでこれから起こる悲劇を知っている。そんな達観した瞳だった。
「オレはこれから貴女に……残酷な事実を伝えなければなりません」
「エンディミオン?」
「仰る通り、ここは貴女の世界ではありません……」
「やっぱり、夢を見ているのね……」
「この事象が夢なのかは、分かりません……だけど今、貴女が動かしている体の本来の持ち主は……来世の姿である『月野うさぎ』という少女のものです」
「つきの……うさぎ……?」
「そしてオレはエンディミオンの生まれ変わり……地場衛といいます」
「ちばまもる……」
一度に情報を与え過ぎたからだろうか。セレニティは目をパチクリさせながら自身の掌とオレの姿を見比べていた。
「つまり……ここは未来で、この体も貴方もわたしの知っているものではないと……?」
「はい」
「夢の世界を通して、わたしは未来に現れている?」
「そう推測します」
不安そうに、息をのむ。彼女の反応は当然だった。夢の出来事だと思っていたことが、未来の自分に乗り移っていたなんて、まるでよくある御伽噺の世界だ。
しかし、これは現実の話。オレの世界に顕現した彼女は、何らかの理由があってうさの体に憑依した。ならオレがするべきことは一つ。
「オレが必ず……貴女を在るべき世界へ還します」
「どうして……貴方は初対面のハズなのに、そこまで……」
「いつだってオレは……オレたちは、運命共同体だからですよ……」
「エンディミオン……あっ」
慌てて口元を押さえるセレニティ。人違いだと気付いて申し訳なさそうにしているので、安心してもらうためにウインクをしながら伝える。
「大丈夫……エンディミオンでもいいですよ」
「ふふっ、ありがとう」
初めて見た心からの笑顔。それは無邪気なうさとはまた違う、神秘的で人を惹きつけるような魅力があった。
「そろそろ……夢から覚めるみたいです……」
「またこちらの世界に来たら、オレを頼ってください」
「ありがとう……衛……」
目を瞑って椅子の背もたれに体重をかける。スヤスヤと眠るその姿からは、彼女の雰囲気はすでに消えていた。
「何か今日のまもちゃん、王子様みたいだね」
うさを月野家からマンションまでエスコートする。これから会う人を意識しすぎたせいだろうか。いつもより丁寧な振る舞いを指摘される。
「今、お茶を淹れるよ」
「ありがと」
機嫌よくテーブルの上に置いてあったファッション雑誌を手に取るうさ。今はまだ、うさのままだ。このまま会話を続けていれば、また彼女に会えるだろうか。
「いかん、これじゃあ浮気みたいじゃないか」
今夜の目的は彼女から真意を訊くこと。そう思いなおしたオレはティーカップを二つ持って、リビングへ向かった。
「お待たせ」
「いい香り……」
「アッサムティーだよ、ミルクとハチミツが合うから入れてみな」
「うん」
湯気が立つ紅茶にフレッシュミルクとハチミツを落とす。改めて香りを楽しんだうさは、ゆっくりとカップを口元に当ててアッサムティーを含んだ。
「おいしい!」
「うさの好きな味だろ? お菓子にも合うぞ」
「そうだ! 今度、輸入品のお菓子屋さんに連れてってくれる?」
「輸入品?」
「商店街にできたんだよ、すっごくオシャレなの」
「あぁ、今度行こう」
そんな風に談笑を始めて、一時間ほど経っただろうか。窓から見える景色は夕暮れから夜空に変わっていた。
「ねぇ、まもちゃん……」
「ん?」
「こうして二人きり、逢瀬を重ねたのは何回目かな?」
うさの雰囲気が変わる。オレはすぐに理解した。
目の前の彼女は、間違いなくセレニティであると。
「その質問に答える前に、訊きたいことがあります」
「えっ?」
「貴女はシルバーミレニアムの王女……プリンセス・セレニティですね?」
「えぇ、もちろん」
キョトンとした顔で答えるセレニティ。何を今さらといった面持ちで首を傾げている。やはりオレの予感は当たっていた。だが大事なのはこの先だ。
「貴女はご自分が今、何処にいて何をしているか理解していますか?」
「うっすらとだけれど……」
「訊かせてもらっても?」
オレの問いかけに、彼女はゆっくりと頷いた。
「夢を……見ているの……」
「ゆめ?」
「えぇ……違う自分として暮らしている夢……」
「それで……?」
「そのわたしは、毎日寝坊して学校という場所で赤点をとって落ち込んで……だけど大好きな人たちと共に、日々を笑顔で過ごしているの……」
「そう、ですか……」
「そして最愛の恋人である、貴方と一緒に夜空を見る夢……」
窓の外に目をやり、愛おしそうに月を眺めるセレニティ。その姿は、まるでこれから起こる悲劇を知っている。そんな達観した瞳だった。
「オレはこれから貴女に……残酷な事実を伝えなければなりません」
「エンディミオン?」
「仰る通り、ここは貴女の世界ではありません……」
「やっぱり、夢を見ているのね……」
「この事象が夢なのかは、分かりません……だけど今、貴女が動かしている体の本来の持ち主は……来世の姿である『月野うさぎ』という少女のものです」
「つきの……うさぎ……?」
「そしてオレはエンディミオンの生まれ変わり……地場衛といいます」
「ちばまもる……」
一度に情報を与え過ぎたからだろうか。セレニティは目をパチクリさせながら自身の掌とオレの姿を見比べていた。
「つまり……ここは未来で、この体も貴方もわたしの知っているものではないと……?」
「はい」
「夢の世界を通して、わたしは未来に現れている?」
「そう推測します」
不安そうに、息をのむ。彼女の反応は当然だった。夢の出来事だと思っていたことが、未来の自分に乗り移っていたなんて、まるでよくある御伽噺の世界だ。
しかし、これは現実の話。オレの世界に顕現した彼女は、何らかの理由があってうさの体に憑依した。ならオレがするべきことは一つ。
「オレが必ず……貴女を在るべき世界へ還します」
「どうして……貴方は初対面のハズなのに、そこまで……」
「いつだってオレは……オレたちは、運命共同体だからですよ……」
「エンディミオン……あっ」
慌てて口元を押さえるセレニティ。人違いだと気付いて申し訳なさそうにしているので、安心してもらうためにウインクをしながら伝える。
「大丈夫……エンディミオンでもいいですよ」
「ふふっ、ありがとう」
初めて見た心からの笑顔。それは無邪気なうさとはまた違う、神秘的で人を惹きつけるような魅力があった。
「そろそろ……夢から覚めるみたいです……」
「またこちらの世界に来たら、オレを頼ってください」
「ありがとう……衛……」
目を瞑って椅子の背もたれに体重をかける。スヤスヤと眠るその姿からは、彼女の雰囲気はすでに消えていた。